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2021年01月18日13:02

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イージス代替艦は護衛艦にあらず 金沢工業大学・虎ノ門大学院教授 伊藤俊幸

 下記は、2021.1.18 付の 正論 です。

               記

 敵ミサイル阻止に向けた方策について政府は昨年12月、「陸上配備型イージス・システムに替えてイージス・システム搭載艦2隻を整備する。同艦は海上自衛隊が保持する」との閣議決定をした。「新たなイージス艦建造」と報道されたが、筆者は違和感を抱く。なぜなら閣議決定されたのは“イージス護衛艦”ではなく“イージス・システム搭載艦”だからだ。

 海自が使用する船舶のうち自衛艦は警備艦と補助艦からなる。警備艦は、機動艦艇▽機雷艦艇▽哨戒艦艇▽輸送艦艇−の4種類に分類され、主力艦艇である機動艦艇は、護衛艦と潜水艦で構成される。現有のイージス艦はこの護衛艦であり機動艦艇の一種類だ。

 機動とは部隊・兵器などを状況に応じ速やかに展開・運用すること。イージス護衛艦はサッカーでいうならグラウンドを走り回る“フィールドプレーヤー”だ。ところが近年「本土防空」として弾道ミサイル防衛の任務が付与され、“ゴールキーパー”としての活動も求められることになった。

 平成10年8月、北朝鮮はテポドン1号を事前通告なしに発射。上空通過によって日本国民は危機感を共有した。政府は15年、弾道ミサイル防衛システムの構築が、現有イージス・システム搭載護衛艦及び地対空誘導弾ペトリオットの能力向上とその統合的運用によって可能となった−として「同システムを整備する」ことを閣議決定した。

 ≪「破壊措置命令」とは何か≫

 さらに平成17年の自衛隊法改正により、82条の3「弾道ミサイル等に対する破壊措置」が「自衛隊の行動」として新たに位置づけられた。北朝鮮のミサイルが万が一、日本に落下する可能性がある場合イージス護衛艦はその機動力を封じ、日本海などの「海域にとどまり、警戒・監視するとともに要すれば破壊措置を行え」と命ぜられることになった。

 当時想定していた北朝鮮のミサイル発射実験は、数週間前から兆候を察知できた。21年から4回の「破壊措置命令」はいずれも単発で、イージス護衛艦の配備も数日ですんだ。だが28年からは兆候を捉えにくくなり「破壊措置命令」が常時発出されることになった(近年は解除されているもよう)。

 筆者が「破壊措置命令」を強調するのは、イージス護衛艦配備の根拠は「防衛出動」ではないからだ。「破壊措置命令」は自衛隊法82条「海上における警備行動」に追加された条文であり、平時における警察的活動だ。

 イージス・アショアの配備については、「イージス護衛艦とPAC3にもう一枚加えた重層的な防御態勢を構築するため」と報道されることがあったが、現場感覚からすればそれは正確ではない。仮に朝鮮半島が有事になれば、日本政府は直ちに「重要影響事態」「存立危機事態」を、要すれば「武力攻撃事態」と事態認定し、「防衛出動」を下令する。その間、海自のイージス護衛艦と米海軍第7艦隊のイージス駆逐艦、合わせて10隻以上が弾道ミサイル防衛に当たることになる。有事になれば、弾道ミサイル防衛はさらに充実するよう別に計画されるのだ。

 一方、日夜海自艦艇は、「月月火水木金金」の厳しい“訓練”により機動力の確保に努めている。しかし「破壊措置命令」下で配備されている間は、戦闘訓練や操艦訓練などができず、艦の練度が著しく低下する。平成29年、米海軍イージス駆逐艦が連続して衝突事故を起こしたが、海自幹部の間では、「他人ごとではない」と緊張が走った。

 イージス・アショアとは、平時において、北朝鮮のミサイル発射実験に備え、海自の練度低下や負担軽減を解決し、陸上で「破壊措置命令」を実行するための装備品だったのだ。

 ≪「ゴールキーパー」艦≫

 いまや自衛隊の“実任務”は、全て統合幕僚監部が計画して指示を出す。“イージス・システム搭載艦”の使い方などを決める“運用構想”は、統合幕僚監部が当然作成することになる。“保持”する海自ではない。

 イージス・アショア配備は決定されているから、陸上自衛隊は、当然要員養成を始めているはずだ。またそもそも弾道ミサイル統合部隊指揮官は、航空自衛隊航空総隊司令官だ。OBを活用してもよいだろう。

 仮にイージス・アショアの「SPY7レーダー」をそのまま採用するのであれば、海自による管理は困難だ。現有のイージス護衛艦は、全て米海軍が一元管理しているが、今回米海軍はSPY7を採用しなかった。であるならば防衛装備庁が選定し契約した米国ミサイル防衛局に管理してもらうしかない。

 つまり“イージス・システム搭載艦”とは、防衛省内局、陸海空自衛隊で統合運用する“ゴールキーパー”のための艦艇ということになる。安全保障分野でも菅義偉政権が掲げる「行政の縦割り、既得権益、あしき前例主義の打破」を成し遂げてもらいたい。

(いとう としゆき)

 https://special.sankei.com/f/seiron/article/20210118/0001.html
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