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2020年08月23日14:19

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マルチラテラリズムは勝利するか? 国連のコロナ対策を指揮、岡井朝子・UNDP危機局長

下記は、2020/08/23 付の Forbes JAPAN 編集部 の記事です。

                記

外務省でのキャリアを経て、2018年に国連事務次長補兼国連開発計画(UNDP)危機局長に就任した岡井朝子氏。危機局は同年に新設された部署で、UNDPが主導する新型コロナウイルス総合対策に対応している。新型コロナ危機のもとで国連機関のリーダーシップが改めて問われる中、どのような対策に取り組んでいるのだろうか。

──いまはUNDP本部があるニューヨークにお住まいですが、新型コロナウイルスで大変だったかと思います。国連での仕事の変化もあったのでしょうか。

ニューヨークは3月から6月までロックダウンが続き、その後も自宅勤務が続いています。UNDPが国連の新型コロナの中長期的な対策をリードすることになり、業務量は3倍近く増えましたが、通勤や出張がなくなった分、なんとかこなしています。

私は外務省に30年勤めてから国連に来ましたが、いまの仕事には大変やりがいを感じています。前例主義、下からの積み上げの単年度予算、といった枠から解き放たれて、「もっと新しいやり方はないのか」「何を変えれば、もっと革新的で、もっとインパクトをもたらすことができるのか」を考える毎日です。周りに多様な人々がいるのがおもしろいですね。自分では考えつかなかった発想をする人がいると、自分自身のフロンティアも大きく広がりました。忙しいですが、充実していて楽しいです。

──開発の総合商社とも呼ばれるUNDPは開発に関するあらゆることを担っています。岡井氏がトップを務める危機局はどのような部署でしょうか。

2015年にSDGs(持続可能な開発目標)が策定され、2030年までに達成する17の目標が打ち立てられました。SDGsの目標は相互が複雑に絡み合っており、個々の目標に対してそれぞれ取り組むのではなく、全体を見ながら集中領域を定め、多機関と連携して一番効率的かつ効果的な「賢い」開発を進める必要が高まりました。

2017年に着任したアヒム・シュタイナー総裁は世界を巡る情勢が大きく変わる中、UNDPが新しいニーズに的確に対応できる組織となるべくこれまでのあり方の刷新に着手しました。そうした流れを受け2018年に新しくできた危機局の局長に私が就任しました。もう一人の開発政策プログラム支援局長とともに、世界各地に配置されている開発の専門家のネットワークを駆使して、開発政策の中身や現場の支援方法などを考案、実践する政策集団を率いています。

我々が直面している開発課題は複雑化し、二人の局長の所掌も明白に切り分けられないことも多いのですが、危機局は、主に紛争や災害といったさまざまな危機に瀕している国、政府機能が脆弱で開発手法に特別な配慮を要する「脆弱国家」(編集注:OECDのカテゴリーで約60カ国・地域)が、危機やショックに耐えられるようにするための支援策を打ち出し、それぞれの国にあるUNDPの事務所でそれを実施するのを助けています。危機が起きた場合の緊急支援はもちろんのこと、危機を未然に防ぎ、危機に素早く対応し、復興につなげる、または脆弱性の軽減など、息の長い支援も扱います。

危機が起きてから、外部から緊急の人道支援をするのは分かりやすいかもしれません。しかし、国際機関やNGOの支援に頼りきるのではなく、本来はその国自身がしっかりと危機に対応し、保健、教育といった社会サービスを提供できることが望ましいのです。UNDPは、全ての国や人々がそういった能力を備えられるよう開発の手法で支援をしています。

紛争や災害などの危機は、そもそも格差や不平等、人々の不満や貧困問題、気候変動などが重層的に絡んでいます。SDGsの17の目標もそうですが、保健、教育、都市計画などさまざまな課題に対して別個に取り組むのではなく、ガバナンスや包摂的な社会といった分野横断的で他の目標の実現にも相乗効果をもたらす優先分野を割り出し、総合的な対策をその国の実情に合わせてテーラーメードで作る必要があります。

──UNDPは、国連機関のなかでSDGsの達成に向けた中核的な役割を担っていますが、新型コロナウイルスの発生でどのような影響があったのでしょうか。

SDGsの達成期限である2030年に向けて、今年から行動を加速化させる「行動の10年」が始まったところでした。そういった時に今回のパンデミックが発生し、脆弱国家のSDGs達成はますます難しくなりました。

新型コロナウイルスは、各国の社会経済、政治、安全保障に想像以上に大きなインパクトを与えています。背景には自然との調和の問題や、気候変動もありますし、問題は複層化し、さらに「社会のひずみの増幅」も懸念されています。危機は脆弱国家だけでなく、先進諸国も含めた全ての国が直面することになりました。

UNDPは3月に緊急の総合対策を発表し、自己資金を再構築して130カ国に予算を分配し、その国にあった対処方法を国事務所と政府、現場にいるほかのパートナー、UNの機関などと相談して、今後の道筋づくりに率先して取り組み始めました。新型コロナ流行に備えた事前準備、流行した場合の対応、その後の復興のための体制づくりの3つの支援が柱で、防護服や呼吸器、医薬品の調達支援といた医療保健システム強化、さらに外出規制を考慮した政府のIT化の推進、誹謗中傷やフェイクニュースといったミスインフォメーションへの対策などの総合的な危機管理対策。そのうえで社会経済への影響を調査・分析し、一番脆弱な人に支援が届くように計画を立案するといったものです。

そうこうするうちに先進国も含めた世界の社会経済へのインパクトが前代未聞のレベルとなることがわかり、国連全体として社会経済的影響の軽減のための枠組みが出来、UNDPはそのリード役となりました。6月にはUNDPの総合対策第二弾として、よりよい復興を目指して、第一弾の対策をより広げた支援策を打ち出しました。

新型コロナウイルスは社会経済に深刻な影響を与えていますが、SDGs達成が新型コロナウイルスで後退してしまうのではなく、よりよく復興しなくてはなりません。そもそも地球の環境破壊などがパンデミック発生の根源にあり、この流行が、すでに社会の根底にある格差や不平等をより増幅させているのですから、今、目の前の対応だけでなく、ここからより良い方へ抜け出す方法が必要です。

UNDPとして特に注力しているのが4つの分野です。1つは政府と市民が信頼関係を持てる社会をつくること。2つ目は、難民やインフォーマルセクターで働く人などを含めた包摂的な社会保障。3つ目は、グリーンな復興。環境や持続可能性に配慮した新しい雇用の創出が必要です。4つ目は、デジタルとイノベーション。デジタルでつながることやイノベーションを通じて、格差や貧困の解消の実証を目指します。私たちの危機局は、それを実践するための政策や人材を現場に送り込む役割を担っているため、日夜、知恵を搾り出し、実践、検証を繰り返し、成功事例の普及など、リアルタイムで学びながらの創造をやっています。

これらは、UNDPだけではできることではありません。ドナーからの支援も必要ですし、他の国連機関や国際開発金融機関、NGOだけでなく、民間セクターや地方自治体などのローカル・アクターともパートナーシップを広げています。例えば、設立から1年を迎えたアクセラレータ・ラボは、イノベーションによって地域に適した課題解決策を生み出し、国際的なつながりを使って一気にスケールアップしようとする取り組みで、日本も支援に加わることになりました。新型コロナなどの社会課題を解決しながらビジネスもできる、ウィン・ウィンの実例を作っていきたいと考えています。

また、一つの政策で複数の目標が達成できるような、新しい総合政策の実行には、データの収集・分析やイノベーションの活用、資金の確保も欠かせません。先細りのODA(政府開発援助)に代わる、ESG投資や民間資金の動員も積極的にやっています。

──新型コロナウイルスの対応で、WHO(世界保健機関)の中立性が問われるなど、国連機関への期待の変化や厳しい見方も出ています。世界の分断が進むなかで、どのように連帯をつくっていけると思いますか。

この未曾有の危機は国際協調なしに乗り切れません。分断の先に地球の未来はないと思います。だからこそ、本質論に立ち返り、今まで様々な理由からできなかったこともできるような社会に変える機会にすべきと思います。多くの人が「この危機を機会に変えよう」と言っていますが、国際連帯と協調がよりよい世界をもたらすことを実例をもって示し、賛同者を増やしていくことが重要と考えます。日本をはじめとした心ある国々が、引き続き国連、ひいてはマルチラテラリズム(多国間主義)を支持し、国際連帯の輪を広げていってほしいと思います。

「平和でそれぞれが自分の能力をフルに発揮できる社会」は単なるきれいごとでしょうか。日本でも正規社員と派遣社員の賃金格差や社会保障の違いがあります。構造的な差別が世代を超えて定着している国もあります。何も変えられないと諦めてしまっていいのでしょうか。

もし今アクションを起こさなかったら、ますます事態は悪くなるだけです。ジョージ・フロイドさんの死亡をきっかけにしたブラック・ライブズ・マター運動は世界に広がりました。気候変動ではグレタ・トゥンベリさんの訴えに若者が共感し、立ち上がりました。#MeToo運動も社会が大きく変容する機会になりました。

日本では声をあげる運動に参加することが苦手な人が多いかもしれませんが、声をあげる人は増えていると感じます。そういう声が一人一人の中からでてきて、全世界に共感を呼んでつながることができたら、それはマルチラテラリズムの勝利だと思うのです。

もう一回原点に戻って、作りたい社会や夢を語りあう。これを機会にいい方向に持っていこうという論調が出て来て大きくなれば、考えるのが楽しくなるはずです。

──最後に、読者へのメッセージをお願いいたします。

若い人には、夢を追うのは悪いことではないと伝えたいです。未来の創造はあなたの手にある。あと、常に新しいやり方を考えることができる力は誰にとっても必要です。そうでないと、時代に遅れてしまう。タイムリーに自分のなかのシステム更新をできるようにしないといけませんね。

UNDPでは、若者によるソーシャルイノベーションと社会起業を支援するプログラム、「Youth Co:Lab(ユース・コーラボ)」を実施しています。18歳から35歳までの若者による、SDGs達成に焦点を当てたビジネスモデルやアイディアを募集しています。常に新しいやり方を考えるために、若者のアイディアを育てることがとても重要だと思います。

おかい・あさこ◎東京都出身。一橋大学卒業後、外務省入省。ケンブリッジ大学学位取得。国連日本政府代表部公使参事官、第66会期国連総会議長室上席政策調整官、バンクーバー総領事などを経て、2018年に国連事務次長補兼国連開発計画(UNDP)危機局長に就任。中満泉・国連事務次長兼軍縮担当上級代表の後任。

http://www.msn.com/ja-jp/news/national/%e3%83%9e%e3%83%ab%e3%83%81%e3%83%a9%e3%83%86%e3%83%a9%e3%83%aa%e3%82%ba%e3%83%a0%e3%81%af%e5%8b%9d%e5%88%a9%e3%81%99%e3%82%8b%e3%81%8b-%e5%9b%bd%e9%80%a3%e3%81%ae%e3%82%b3%e3%83%ad%e3%83%8a%e5%af%be%e7%ad%96%e3%82%92%e6%8c%87%e6%8f%ae-%e5%b2%a1%e4%ba%95%e6%9c%9d%e5%ad%90-undp%e5%8d%b1%e6%a9%9f%e5%b1%80%e9%95%b7/ar-BB18gDBY
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