プログレッシブ・ロックの黎明期には、クラシック界で活躍すべき音楽教育を受けた人材が多数ロック界に参入してきた。彼らはプログレ界の大恩人であり、ジャンルとしてのプログレを成立させるに至った功績は大きい。
・ 曲 ミュージシャン アルバム
� �Knife-edge / Emerson, Lake & Palmer [ Emerson, Lake & Palmer 1970 UK ]
キース・エマーソンは、英国王立音楽院（Royal academy of music）出身のキーボード奏者。あらゆる音楽要素を詰め込んだファースト・アルバムの中でも、ハード・ロック寄りのこの曲は、３人の魅力が満載だ。凄腕のキーボード・プレイが縦横無尽に駆け回り、途中では水中にゆらゆらと沈んでいくような静寂の部分もある。グレック・レイクのロック・スピリット溢れるヴォーカル。カール・パーマーのドラムスの八面六臂の大活躍。ＥＬ＆Ｐが産声を上げるのにふさわしい曲だった。
�◆�McDonald’s lament / Darryl Way’s Wolf [ Darryl Way’s Wolf 1973 UK ]
ダリル・ウェイも英国王立音楽院出身のバイオリン奏者。そのウェイが残した絶世の名曲がウルフの「悲しみのマクドナルド」だ。プロデュースは、イアン・マクドナルド。すすり泣くようなヴァイオリンの旋律が、柔らかいドラム・ビートに乗りながら、次第に悲哀のトーンを上げていく。そして到達する叙情美の極致は、ある種の絶頂体験だ。何十年経っても胸をかきむしられてしまう。
�� Young mother / Curved Air [ Second album 1971 UK ]
カーヴド・エアには、ダリル・ウェイのほかにもう１人、英国王立音楽院出身のキーボード奏者フランシス・モンクマンがいた。この音楽院卒が2人いたのは、このバンドだけだろう。さらにミュージカル出身のソーニャ・クリスティナがヴォーカル。この組合せの良さを凝縮したのがこの曲だ。色彩豊かな幻想世界に水晶のようなヴァイオリンが響き渡り、やがてモーグの音に導かれて童話のような虹を描くキーボードが駆け巡る。1970年、新しい時代を告げる音の饗宴だった。
�ぁ�Gemini / Quatermass [ Quatermass 1970 ]
EL＆Pと同じキーボード・トリオのクォーターマスには、英国王立音楽院出身のキーボード奏者ピート・ロビンソンがいた。自由自在に暴れ回るキーボードが素晴らしいが、針の穴を通すテクニックのドラムスも凄まじく、スピードが伸縮自在。他のバンドが真似できないほどだ。そしてヴォーカリストのシャウト系の声も、刺激的だ。
�ァ�There is loving - Among us – There is loving / Kevin Ayers Whatevershebringswesing 1972 UK ]
デヴィッド・ベッドフォードは、英国王立音楽院出身で現代音楽畑の作曲家だったが、ケヴィン・エアーズが意気投合して、自分のバンド、ホール・ワールドに引き入れた。この曲では、オーケストラによる壮大な響きと、その合間にリラックスしたラブ・ソングが聴かれる。べッドフォードは後に、マイク・オールドフィールド「チューブラー・ベルズ」のオーケストラ化や自身のソロ・アルバムなどによって、ヴァージン・レベルの重鎮となった。
�Α�States of mind part3 / Lost World [ Awaking of the elements 2006 Russia]
21世紀バンドのロスト・ワールドは、モスクワ高等音楽院在学中の3人による引きまくり・引き倒しクラシック・ロック大会。少年声が美しいヴォーカリストもいるのだが、このセカンド・アルバムではあえてオール・インストルメンタルの技術合戦に徹した。ヴァイオリンが不穏な空気を振りまきながら弾きまくり、鬼気迫る。そしてドラムスやギターも、それを確実にサポートしている。
�А�Lyke-wake dirge / The Pentangle [ Basket of light 1969 ]
ペンタングルには、ロンドンのキングストン芸術音楽院出身で、クラシックと古楽を学んだギタリスト、ジョン・レンボーンがいた。ジャズ界の２人、フォーク・トラッド界の２人もいて、３界の人材が集まった5人組。既存のフォークでもトラッドでもない、プログレッシブなアコースティック・サウンドを切り開いた。秀曲揃いのこのアルバム中、この曲「ライク・ウェイク・ダージ」はジョン・レンボーンの古楽志向が現れて、宗教的な荘厳さを醸し出す。「火と霰とキャンドルの熱、そしてキリストは汝の魂を抱き給う」
�─�Soup / Can [ Ege bamyasi 1972 Germany ]
カンのメンバー４人中、ホルガー・シューカイ（ｂ）とイルミン・シュミット（ｋ）は、現代音楽家シュトックハウゼンの門下生として学んでいた。とりわけシュミットは、ドルトムント音楽院などでクラシックを学び、アメリカに渡って有望な現代音楽家と目されていた。メンバーがロックに転じたのは30歳前後と、当時としてはとても高齢だった。ダモ鈴木のヴォーカルを得て、土俗的・暗黒呪術的な世界を展開。ぶつぶつと囁くようなヴォーカルから、後半は爆音を経て野獣のような咆哮へ。ここで使われている電子音はエフェクターを駆使した原初的なもので、シンセで作った最近の電子音には見られなくなったものだ。
�� Sport – You are a peace / Edward Artemiev [ Three odes 1987 Russia ]
クラシック人材と言えば、モスクワ五輪の音楽を担当したエドゥワルド・アルテミエフを挙げないわけにはいけないだろう。彼には「モスクワ高等音楽院出身、ソビエト文化大学教授、ソビエト作曲家協会会長」という錚々たる肩書きがある。 ロシアの大地のような重厚な広がりから、やがて男女混声による大合唱が、未来への希望を歌い上げる。大仰なことこの上ないが、プログレ・ファンとして自慢できる数少ない国家的大物でもある。
�� Way of a woman / String Driven Thing [ Keep yer’and on it 1976 UK ]
ストリング・ドリブン・シングのヴァイオリン奏者グレアム・スミスも英国王立音楽院出身だが、知名度は低い。1976年とプログレが下火になった頃このバンドで世に出たので、ポップなのかプログレなのか中途半端な立ち位置となってしまった。この曲はバラードで、バックにストリングス。間奏でヴァイオリンがメロディアスなソロを展開する。スミスはこの後、ヴァン・ダー・グラフ・ジェネレーターに参加した。
[次点] There came an unexpected guests / Little Tragedies 2007 Russia ]
リムスキー・コルサコフ音楽院作曲科出身のキーボード奏者がいるリトル・トラジェディーズは、３人組の９0年代バンド。とつとつとしたヴォーカルにひそやかなピアノ、ときにそれを引き裂く爆音のロックだ。唐詩をロシア語にした歌詞で、この曲は「朋有り遠方より来たる」。間奏での掛け合いでは、ハードになってもピアノがしっかりドラムスやギターに対抗している。静から動へ、そしてまた静へ。目まぐるしく変幻する技巧力が、このバンドの聴きどころだ。
〇ほかに候補にしたミュージシャン
Canalios ( Alfred Carrion ), Enid ( Robert Jhon Godfrey ),Sky, William Sheller
Rick Wakeman(忘れてました。すみません。）
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