mixiユーザー(id:372432)

2020年07月19日20:44

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粗野で荒々しい道

ボブ・ディランの8年ぶりオリジナルアルバム”Rough and Rowdy Ways"が、7月8日にリリースされたので聴き込んでます。

傑作!
変化の激しいディランですが、10年代はフランク・シナトラ期でまさかディランがジャズ・スタンダードを朗々と歌うとは思いもよりませんでした。
1997年の”Time Out of Mind"から傑作アルバムを続けて発表して、低迷していた80年代、90年代が嘘のように復活したディランは63〜66年と74〜76年に続く第三の黄金期だと呼ばれていました。ですがオリジナル曲のアルバムは2012年の“Tempest”以来ずっと出てなかったので、さすがに三回目の黄金期も終わりかもう今年79歳だしな、と思ってました。全く杞憂でした。

クレジットにはありませんがプロデューサーはジャック・フロスト(ディラン本人の変名)で、2001年の”Love and Theft"以降のジャック・フロスト、プロデュースのアルバムでは一番好きかも。

一聴してドキっとするのが生っぽい音像で、現代の音でも30年代、50年代の音でもない。古代ギリシャで鳴っていても遙か未来で鳴っていてもおかしくないような、またどこにもないような不思議な音像です。”Time Out of Mind"に近いかな。

元ネタがすぐ分かるシカゴ・ブルーズ調のハードなナンバーもありますが、近年あまりなかった、ディラン・オリジナルの魅力的なメロディーの曲が沢山収められているのが嬉しかったです。
凝ったコード進行や変拍子の曲が多いのは、ピアノで作曲した事とジャズ・スタンダードに長年取り組んでいた成果でしょうか。ディランのヴォーカルの表現力が増したのもフランク・シナトラ期に歌に専念した経験が活きているようです。

バックを務めるのは今回もディランのツアー・バンドのメンバーが中心で、パワフルなドラマーのジョージ・リセリがマット・チェンバレンに交代してしまったのは残念ですが、サイド・ギターがボブ・ブリッドに代わったのはブルーズ系の曲で良い効果が出ています。ディラン、チャーリー・セクストン、ボブ・ブリッドのトリプル・ギターがテンション高い。

歌詞は今までも様々なアーティストや歴史上の人物が登場していましたが、今作では怒涛のように名前が羅列されます。また16分を超える Murder Most Foul を聴くとやっぱりディランの本質は吟遊詩人なんだな、と唸らされました。
ディランがノーベル文学賞を受賞したときに「彼の文学作品はどこにある。私もグラミー賞が取れるのか?」と言った小説家がいましたが、じゃあ、あんたはホメロスやヘーシオドスを否定するのか?と。作家のレナード・コーエンだって優れた曲を作ってるんだから、あんたが録音作品を発表して評価されればグラミー賞だって取れるだろうよ。

私が”Rough and Rowdy Ways"を発売前に初めて聴いたのが池袋のとあるディラン・バーでした。mixiのプリキュア・コミュで知り合ったももきさんというロックにやたら詳しい方といっしょに一杯飲んだ後に、気になるから寄ってみようとこわごわ店のドアを開いたら、綺麗な店内でカウボーイハットを被ったマスターがいるのでちょっと敷居が高いかな、と思ったらとっても気さくなマスターで「やっぱり新譜をかけましょうね」と話しかけてくれてそこで流してくれたんです。
その音を聴いて、ももきさんと「ナニコレマジ?!」って顔を見合わせたのですが、最高のロケーションで最高の音で初めてこのアルバムを聴けたのは得難い経験でした。

良き縁とディランに、乾杯!
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