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2020年07月15日15:58

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Corona

欧州コロナ通信 322回 2020年7月15日

メルケル政権は景気対策でコロナ・デフレを防げるか?

 新型コロナウイルスの新規感染者数は減っているが、パンデミックの経済への打撃は深刻化する一方だ。そうした中、メルケル政権は不況の悪影響を緩和するために大規模な景気刺激策を発表した。

*ドイツで初の付加価値税引き下げを断行

 連邦政府が6月3日に公表した「景気パッケージ(Konjunkturpaket)」の総額は、約1300億ユーロ(15兆6000億円・1ユーロ=120円換算)にのぼる。メルケル首相とともに記者会見に臨んだショルツ連邦財務大臣は、この不況対策の規模について「ドカーン(Wumms=ヴムス)という感じです」と形容した。
 パッケージの最大の目玉は、付加価値税の引き下げだ。メルケル政権は、今年7月〜12月に限り付加価値税率を19% から16%に下げる。ドイツでは日本と異なり、パンや牛乳など食料品には7%の軽減税率が適用されているが、これらの商品については5%に引き下げる。
 付加価値税の負担は、所得が低い人ほど重く感じられる。このため付加価値税率の引き下げは、低所得層にとって有利に作用する。
 この措置によって、200億ユーロ(2兆4000億円)の負担が減らされる。政府は特に低所得層の負担を減らしたり、コロナ危機によって減退している市民の購買意欲を高めることにより、景気の底上げを図る。ドイツで付加価値税が引き下げられたのは、今回が初めてだ。この決定は、多くの報道関係者や経済学者を驚かせた。
 ただし、この減税が本当に消費を増加させ、景気の下支えにつながるかどうかは、未知数だ。今後ドイツでは失業者数が増えていく。雇用に不安がある人は、消費に走らず財布の紐を固く締めるだろう。
 またドイツの付加価値税は内税だ。税金が減っても、企業が小売価格を下げるという保証はない。付加価値税が減っても価格を変えなければ、収益は増える。政府は企業に対し、減税分を消費者に還元して商品の値段を下げるよう強制することはできない。「企業は売上高を増やすために、商品の値段を値下げするだろう」という予想も出ているが、付加価値税の引き下げがどの程度市民の消費を促進するかは、ふたを開けてみないとわからない。

*政府が小売店などに資金援助

 また連邦政府は、小売店、飲食店、ホテルなどコロナ危機で売上高が大幅に減った事業所に対し、3ヶ月につき最高15万ユーロ(1800万円)まで固定費用をカバーする。たとえば売上高が70%減った企業には、国がコストを80%まで支払う。メルケル政権は、この「つなぎ援助金」のために250億ユーロ(3兆円)を投じる。
 さらに、子ども1人につき300ユーロ(3万6000円)の「家族ボーナス」を出して、市民の消費意欲を高める。総額は43億ユーロ(5160億円)にのぼる。
 小売店や企業の売上が激減したために、地方自治体の営業税収入も減っている。このため連邦政府は、地方自治体の営業税収入を最大59億ユーロ(7080億円)補填する。
 また地方自治体は、長期失業者に「ハルツIV」と呼ばれる給付金を払うだけではなく、家賃も支払っているが、連邦政府は40億ユーロ(4800億円)を投じて、長期失業者の家賃を支払い、地方自治体の負担を軽減する。

*自動車補助金で気候保護に配慮

 ドイツの物づくり業界の屋台骨である自動車産業は、コロナ危機で車への需要が激減したために苦境に陥っている。そこでメルケル政権は、自動車メーカーの支援に乗り出す。
 大連立政権の内、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)は全ての車種に補助金を出すべきだとしていた。
 これに対し、連立パートナーの社会民主党(SPD)は、「温室効果ガスの削減努力をしている時に、ディーゼルエンジンやガソリンエンジンを積んだ車にも補助金を出すのはおかしい」と反対した。
 その結果、メルケル政権は内燃機関を持つ車には新車購入補助金を出さず、電気自動車(EV)やプラグイン・ハイブリッド車を買う市民だけに補助金(6000ユーロ=72万円)を出すことを決めた。つまりドイツ人たちは、コロナ対策においても、温室効果ガスの削減を重視したのだ。この支援措置には22億ユーロ(2640億円)の予算が投じられる。ドイツ自動車工業会(VDA)は、内燃機関の車が補助金を得られないことに強い失望を表明した。

*心理的効果でコロナ・デフレ防止を狙う

 ドイツでは、今年1月から再生可能エネルギー賦課金や、電力の送料である託送料金の増加により、電力料金が上昇する傾向がある。
 メルケル政権は市民の負担を軽減するために賦課金の額が上昇するのを防ぐ措置に踏み切った。現在再生可能エネルギー賦課金は電力1キロワット時あたり6.8セントだが、政府の補助によって2021年は6.5セント、2022年は6セントを超えないようにする。連邦政府はこの措置のために11億ユーロ(1320億円)を投じる。
 政府が賦課金を廃止しなかったのは、電力消費量に再生可能エネルギーが占める比率を2030年までに65%にするという目標を達成しなくてはならないからだ。
 今回の景気パッケージには57項目の対策が列記されているが、その内半分近く(24項目)はエネルギー転換や気候温暖化対策に関するものだ。項目の数を増やすためか、水素エネルギーの拡大や住宅の暖房効率強化など、過去に発表されていた施策も混ざっており、本当に新しい政策は少ない。
 しかし経済政策の中で、心理的要素は重要な役割を演じる。メルケル首相は「Wumms」という大音響とともに景気対策を公表することで、人々の不安を減らし、コロナ不況と戦うための自信を与えようとしたのだろう。いわゆるコロナ・デフレの防止が先決だ。このパッケージが今年後半の成長率の減少にどの程度の歯止めをかけるか、注目される。
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