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2020年06月26日23:00

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持続化給付金に電通が選ばれる理由と日本の病巣

持続化給付金に電通が選ばれる理由と日本の病巣

伊東乾 2020/06/26 06:00
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JBpress 提供東京大学の赤門（撮影：川嶋諭）
　政府が新型コロナウイルス・パンデミック対策で打ったはずの、中小企業向け頓服薬「持続化給付金（https://www.jizokuka-kyufu.jp/）」事業の執行事務が、広告代理店の食い物にされていた。
　そんな疑惑が持ち上がっています。この「付け替え」再委託、何が問題なのか。そもそも公共事業が、どうして1次請け、2次請けとたらい回しにされて行くのか。
　といった問いを、東京大学教養学部で開設しているゼミナールで学生たちに振ってみました。今回はこの話題をご紹介しましょう。
　国は、総額2兆円にも及ぶ「持続化給付金」を「交付する事務仕事」は競争入札によって、報道されている「サービスデザイン推進協議会」が769億円で落札。
　このときはデロイトトーマツも参加していたそうですが、なぜかこの不思議な「幽霊社団」が仕事を咥えて行ってしまいます。
　まあ、2兆に対して770億と考えるなら、事務手数料3.85％で、そんなものかなとも思いますが、それを「協議会」は、直ちに親会社である「電通」に749億円で再委託。
　また「電通」だって、そもそもは広告代理店ですから、業務そのものを行えるわけもなく、子会社である
電通ライブ　に　　　　　595.7億円
電通テック　に　　　　　　　7.8億円
電通国際情報サービス　に　19.8億円
電通デジタル　に　　　　　16.3億円
電通東日本　に　　　　　　　5.5億円
　で直ちに「再委託」、合計金額は645億1000万円に上ります。
「協議会」から受けた金額は749億ですから、単に右から左に、しかも各社への振り分けがどう業務上妥当であるのかよく分からない形でお金を付け替えただけで、103億9000万円が中抜きされていることになる。
　いったいこれは何か、という話になる。
　さらに大半の金額を付け替えられた「電通ライブ」も、ただちに仕事を振り分けており、その行き先は「パソナ」「大日本印刷」「トランスコスモス」などとされている。
「パソナ」も「大日本印刷」も「トランスコスモス」も「電通」とともに「サービスデザイン推進協議会」に役員を送り込んでいる企業（https://www.servicedesign-engineering.jp/aboutus/index.html）です。
　具体的には　協議会の役員を一瞥すれば露骨の極みであって
大久保祐一　代表理事　＝　電通グループ
浅野和夫　　代表理事　＝　トランスコスモス
杉山武志　　代表理事　＝　パソナ
牛久保雅浩　理事　　　＝　大日本印刷
大金慎一　　理事　　　＝　電通国際情報サービス
武藤靖人　　広報担当理事　＝　電通ライブ
　協議会「社員」としてみずほ銀行を含む10の企業が名を連ねており、それらの間でお金を付け回していたことが、はっきり跡付けられているわけです。
なぜ公共事業に「元請け」が必要なのか？
　こうした行動の「是非」を、いまここで問うことは、あえて控えましょう。もちろん問うべきですが、それ以前に、どうしてこういう構造が生まれてしまったか。
　その要因を大学1、2年生たちにアカデミックに考え検討させてみました。
　ちなみに普段そのゼミでは、経済など文系理系をまたぐ内容で使う数学を教えています。これはこれで大問題なので、ちょっと触れておくと
　日本の大学は文系の入試で「数Ⅱ（B）」などの範囲までしか求めず、それで経済学部に合格することができてしまいます。
　大学に入ると、何となく経済や金融で使う数理が話題に混ざってきますが、経済学部生たちは、いわゆる高等学校の「数Ⅲ」相当の内容を履修せずにやって来るので、指数関数や自然対数の底や、そこに虚数単位iが出てきたりするともうちんぷんかんぷん・・・。
　ほかの大学は分かりませんが、少なくとも東京大学に関する限り、過去22年間みてきた学生たちの大半の実情はそんなところで、教官になっている者でも複素解析などは怪しい。
　そういう人材が、グローバルに生き馬の目を抜く金融の先端などに飛び込んで行くわけですから、はっきり言って最初から勝ち目などないというのが、私の正直に思うところです。
　経済学部進学生を念頭に高校数学の数Ⅲから始めて大学教養全体と専門の初歩、統計力学や変分法の初歩あたりまでをカバーするのが本来、というのがこのゼミの主旨です。
　さて、学生たちに「どうして公共事業は1次請、2次請・・・と、バケツリレーみたいなことが必要なんだと思う？」と質問してみると
　どうにも思うような答えがありません。考えたこともないというのが大半でした。
　まあ、様々な答えがあるはずですが、私の準備した基本的な正解は
「公共事業は税を原資とする官費で、完全に事業が終了した後、チェックが入って、すべてOKとなってから、初めて執行＝支払いが発生するので、それまでの間は『立て替え』をしなければならない」
「そういう体力がある大きな会社が『元請け』で、そこでプログラム全体の進行管理、「ヒト・モノ・カネ」の交通整理を徹底して行い、具体的な仕事は2次請以下に発注していくけれど、年度内に発生する支払いは、各々1つ上のレベルの企業が持ち出して回していると考えて大きくはずれない」
　というものです。厳密にいろいろ見ていくと、例外は多々あるかとも思いますが、大きく言って、日本の公共事業の出納構造は、こんな具合になっている・・・。
　もし、そんな具合に、私が19歳とか20歳のとき、きれいに交通整理して教えてくれる年長者がいたら、どれだけ先々、人生の見通しが良かったかと思いますので、そういう話をきちんとするようにしています。
　実はこの先の、学生たちの「進路」と「やりたいこと」そして「人生における生きがい」のような問題に、この種のことが直結してくるからです。
東大卒や院修がビミョーな背景
　こういう話を学部1、2年生にするのは、文系だったらあと2年半もすれば社会人、就職活動はそろそろ始める連中であること。また理系でも4年半もすれば第一線の責任を問われる役職に就くことが見えていることが半分の理由。
　もう半分は、彼ら彼女らの「幸せ」を考えるからにほかなりません。
　いま東大生に「3年後、どうしていたい？」「5年後、何してる？」「10年後の自分の希望は？」などと尋ねると
　文系理系の別なく、9割がたが「決めてません」「考えてないです」「分かりません」と答えます。
　はっきり進路が決まっている人は、非常にまれにしかいません。数年に1人いればよい方でしょう。
　私がこういう相談に向いているのか、自分自身よく分からないのですが、昔からこういう相談にはかなり大量に乗ってきた経緯があります。
　私自身は中学3年時点で、自分は音楽の道に進む、そのために大学は芸大ではなく今の大学に行く・・・など、特殊な道を決めていたので、迷ったことも悩んだこともないのですが、学生たちの考えは様々なようです。
　ただ一つ、間違いなく言えることは、自分で思い悩む割には、相手のことを知らない。
　例えばXという企業に入ったら、X省という役所に入ったら、実際にはどういう仕事があり、どんな人生を送るかということをおよそ確認することなく、風評その他で進路を決める傾向が著しく強いように思われます。
　文系も理系も、説明会からインターンシップその他まで、様々な場所に足を運んでいるようには見える。でも、本当に仕事の中身を知っているのか、大いに疑問を持たざるを得ません。
　特に痛感するのは「理工系の修士卒」の、ある実態です。
　修士課程は2年間ありますが、本当に「修士研究」している期間はどれくらいあるのか？
　私は理学系で物理を学びましたが、修士1年の4月から自分のテーマに取り組みました。しかし、1999年に教官となってから、あちらこちらの大学院研究室を斜め横から見てみると、相当様変わりしているのを認識するようになりました。
　まず、修士1年生の主要な関心は、本当は新しい学校に入ったはずなのですが、修了後の「就職」にある。
　新しく手にした「東京大学大学院＊学系研究科＊＊研究室」などという「名刺」をもって企業を回ったり、インターンシップに参加したりするわけです。
　およそ私の理学系常識からすれば考えられない学生の現実を知り、ナイーブかもしれませんが、ショックを受けました。
　学歴ロンダリング的にふるまう学生も目にし、そういうケースは率直に感心しませんが、この20年増えているように思います。
　さて、修士1年のうちは、建前としては「勉強」するという恰好ですが、実際には就活その他で忙しく、「内定が出たかな？」という修士2年次に入ってから、ぼちぼち何か始めるか・・・となるようなケースが極めて普通に見られます。
　それも、テーマを決めるのに結構時間がかかり、本当に着手するのは夏休みとか、下手すると秋口になってから大急ぎでというのもないわけではない。
　つまり2年間修士課程に在籍しているはずが、よくて半年から8か月程度、下手すると3か月ほど、比較的「大安売り」なテーマで、毎年量産する「修士研究」をつつがなくこなし、翌年3月には社会に出て行くのが標準的。
　本当の意味で学部学生と一段異なる、確固たる実力を持った学生は、かなり限定的であるような印象を残念なことですが、持つことになりました。
　私自身、別に褒められたような院生であったとは思っておらず、反省することばかりです。ただ、何と言うか、心の持ちようが根本的に違う若い人を見ると、複雑な思いに駆られてしまいます。
　こういう現実を見据えたうえで、教養1、2年生に尋ねるわけです。
「君は将来何がしたいの？」
「機械系に進みたいです」「金融」「バイオ」いろいろな学生がいるわけですが、「持続化給付金」の元請け、下請けの話をした後で、学生たちにはっきり伝えるのは、「大手に入ったら、モノづくりはまずはできないと覚悟しておいた方が安全だよ」というポイントです。
「ジェネラリストは要らない」
　大企業といっても様々な業態がありますから、もちろん一概には言えません。
　でも、例えば公共事業を落札するような巨大企業に入ったら、そこで待っているのは「モノづくり」の仕事ではない可能性が高い。
　そういう話を、学生たちに具体的に説明しました。
　例えばX君、ロボットなどを作りたいとしましょう。あるいは宇宙に飛ばす衛星を作りたい・・・いろいろな夢があって当然です。
　では、そういうことをやっているように見える企業に就職したら、そういう仕事に就けるかというと、必ずしもそのような職掌は保証されていない。
「持続化給付金」の例で公共事業の元請け、下請けの構造を具体的に見たように、実は何らかの公共「事業」そのものなどは扱わない。
　公共事業が適切に進行しているか、ヒト・モノ・カネの進行管理、プロジェクト・マネジメントが、もっぱら「大手」の仕事なのです。
「一流大学」を出て「一流企業」に入るというと聞こえは良いけれど、そこで公共事業など扱っていると、待っている仕事はモノづくりなどでは全くなく、金勘定と進行管理のマネジメントだけというケースも決して珍しくない。
　こういう話をすると、ちょっと驚いたような、ショックを受けたような表情になる東大生が少なくありませんが、現実のことです。
　芸大生たちも教えていますが、同様のことを伝えます。
　例えば仮に、東京藝術大学を卒業して、NHKに就職すると、番組を作らせてもらえるのでしょうか？
　新卒からある時期までは「ディレクター」として番組を作れる時期があるかもしれません。
　しかし、近年は（私はNHKも含めてテレビを基本的に見ないので、最近の詳細を本当には把握できていないのですが）民放でも仕事しているプロダクションがNHKにも入り込んでしまっているので、どの局でも似たような視聴者迎合型の出来損ないバラエティみたいになっているはずです。
　自社制作の番組なんて、報道以外にはほとんど存在しないのが実情。
　日本放送協会はまだNHKスペシャルとかETV特集とか自社の枠があるけれど、それを実際作っている人は、組織内で必ずしも待遇が良くなく、はっきり言うと薄給である場合も少なくない。
　給料がいいのは、大きな数字の金勘定だけしている「プロデューサー」「チーフプロデューサー」など、プロジェクト全体の「ヒト・モノ・カネ」の管理をしている人たちであること。
　いわゆる一流大学を出て、大きな会社や組織に入ると、まず99％クリエイティブな仕事などは無関係で、会議その他と金勘定に終始するような日常になる。
　その過程で、「悪いことをしてみる人も出てくれば、公私の生活で不幸になった人もここ30年たくさん見てきたから、よ～く気をつけるようにね。人生は1回だから」といったことを豊富な実例とともに教えると、学生はさらにいろんな表情になるわけです。
　日本国では、出世してお金を手にし、好待遇を楽しみたいなら、間違っても「ものづくり」なんて勘違いするべきではない。
　また、本当にモノを作って世界に認められ、かつ待遇もそれに見合ったものが欲しいと思うなら、「日本なんかいても意味ないよ、ノーベル賞もらった中村さんって人がいるでしょ、あのケースがどんなだったか知ってるかい？」というようなお話になるわけです。
　2000年、私は当時、東京大学工学部長であった小宮山宏さんを識り、大学の目玉プロジェクトであった「知識構造化」のメンバーに加えてもらうことになりました。
　この頃、小宮山さんが強調していたのが「ジェネラリスト教育なんか要らない。むしろ有害無益だ。大学が育てなければならないのはジェネラリストではなく、ジェネラルな業務ができるスペシャリストである」ということでした。
　その方向で、東大の人材育成を刷新するプロジェクトに参加しました。具体的には「工学部教育プロジェクト室を作り、そこに人材を導入し、各種システムを立ち上げ、いろいろ動かし始めたのですが・・・。
　くだらない政争で私が排除されたあたりから、急速に有名無実化して、「知識構造化」は見るも無残なことになって終わらざるを得ませんでした。
　それとの因果関係は措くとしても、「ジェネラリスト」つまり　ヒトモノカネの進行管理だけ行う、プロジェクトマネジメントの管理職、お偉いさん作り教育などというものは要らないわけです。
　本当に「もの」が作れる人を育て、その人が35歳とか40歳になって、酸いも甘いもかみ分けてから、器量をもってプロジェクトをマネージしていけばよい、という牧歌的な考え方。
　ところが、2000年代に入って、悪い意味で勘違いした新自由主義、ネオコンは何を作ってしまったか？
　学卒、あるいは修士程度で、まだ右も左も分からない洟垂れ小僧が、いきなりジェネラリストよろしく、上前を刎ねるだけの「元請け」やばかばかしい広告代理店などに入り、実務の片鱗も執行能力がないまま、寄生してちゅーちゅー吸い取ることだけ覚える。
　その結果できた世の中が、いま諸君が毎日、新聞やテレビで見ているような、スキャンダルだらけの末期症状、おなくなり社会にほかならない。
　自分のこれから5年、10年、20、30年の人生を、どう生きたら本当に幸せか。
「一度よく考えてみよ～」と、答えのない、オープンクエスチョンで遠隔講義時間が終わります。
　戦後の昭和20～30年代には、決してあり得なかった、こういう時代の病。
　今の子供たちは、いろいろな意味で、多層的に複雑、かつ「不幸」な時代に直面しているのかもしれません。

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