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2020年05月23日13:54

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日本が「戦わずとも負けてしまう」と言える根拠 現状の危うさを冷徹に分析する必要がある

 下記は、2020/05/23 付の 東洋経済オンライン に寄稿した、印南 敦史 氏の記事です。

                記

 平成期の30余年を軸に過去を振り返り、2012年12月以降の安倍政権の振る舞いを分析することによって、経済、社会、政治の現場で起こっていることを追っていく――。それが、『令和日本の敗戦』(田崎基著、ちくま新書)の目的だ。

 著者の田崎基氏は、憲法改正問題、日本会議、経済格差問題、少子高齢化問題、アベノミクス、平成の経済を担当している神奈川新聞記者。物々しさをも感じさせるタイトルには、次のような思いが込められている。

この国は近い将来、戦わずして「敗戦」状態に陥るのではないか。これまでに起きた出来事の1つひとつの点を線で結び、時代を立体的に捉えることで、見えてくる構図。それが令和日本の「戦なき敗戦」である。迫りくるその焦土を、私たちは避けることができるだろうか。(「はじめに」より)

7年余りを経た安倍政権は、いまだ「この道しかない」と経済成長を唱導する。ところがそんな鼻息の荒さは、いま起こっている現実からあまりにもかけ離れていると言わざるをえない。

 なにしろ経済格差は拡大の一途をたどり、非正規雇用比率は高止まりを続けるばかり。労働者は長時間労働を強いられているにもかかわらず、実質賃金は減り続けている。そのため必然的に産業は衰退し、国際競争力向上の期待は薄い。

 そんななか、少子高齢化は“着実に”進み、孤独死は年間3万人に達している。一方、子どもの貧困が深刻化し、10代の死因のトップが戦後初めて「自殺」となった。

 そんなこの国の現状は、まさしく「焦土」にも等しいということだ。

戦わずして敗戦する国

 しかもアメリカに媚を売る安倍政権はアメリカ軍との一体的軍事を深化させ、集団的自衛権の一部行使を容認した。また、それに基づいて安全保障関連法制を強行採決。権力を盾に市民の声を圧殺し、沖縄県の名護市辺野古沖では新基地建設を断行した。

 つまり、「表現の自由」「身体の自由」など、近代国家に生きるわれわれにとっての大前提であったはずの基本的人権が踏みにじられ、民主主義が破壊されているわけである。

 安倍晋三首相は、国の最高法規である憲法に「自衛隊」を明記し、緊急事態時に政府の権限を強大化しておく「緊急事態条項」を盛り込もうとする改正案も訴え続けてきた。

 今回、新型コロナウイルスの蔓延に伴って緊急事態宣言は発令されたが、それにかこつけて安倍首相は先の憲法記念日に「緊急事態対応を憲法にどう位置づけるか、議論を進めるべきだ」と主張した。

 コロナ禍を憲法改正に利用しようという発想は危うく、あまりにもお粗末だとしか表現のしようがない。

 だが、田崎氏も指摘しているように、そこにはいくつかの疑問が生じる。

客観的に起きている現象は不景気であり、私たち多くの市民の生活は貧しくなり、さらには、自由や人権は確実に軽視され踏みつけにされながらも、各種世論調査において安倍政権の支持率が劇的に下がることはない。

また、2016年7月の参議院議員選挙で自公政権が圧勝し、このとき衆院、参院ともに「改憲勢力」が3分の2を超えたとされる。したがって自公政権は会見を「発議」できたはずだが、改憲論議はいっこうに進んでいない。安倍自民党総裁が改憲項目を4つに絞り込んだのは2017年5月3日だが、自民党はおよそ3年を経た今も衆参それぞれの憲法審議会でこの4項目を示すことさえできていない。(「はじめに」より)


このように矛盾に満ちた数々の事象を並べたうえで全体を俯瞰すると、ひとつの仮説、構図が浮かび上がると著者は指摘している。50%前後という低い投票率、高まる若年層の自民党支持、つくり出される周辺国との摩擦と軋轢、圧倒的な少子高齢化、疲弊する経済――。

 それらを改めて確認するまでもなく、社会、経済、政治が一体となり、この国は奈落へと向かっているのではないかということだ。

 いってみれば、それが令和における「戦わずして敗戦する国」の形だということである。

景気後退局面への突入

 だが当然ながら、ひとごとのように傍観しているわけにはいかない。なにより気になるのは、この先どうなっていくのかということだ。

 この点については政府統計に詳しい明石順平弁護士による「まともな出口戦略は描けない」との観測が紹介されている。2019年1月に衆議院本館で行われた野党合同ヒアリングで、厚生労働省が公表してきた実質賃金の偽装を整然と説き明かしてみせた人物である。

 その主張はこうだ。

 日銀は国債のほか、上場投資信託(ETF)を大量購入し、株価を維持しようと躍起になっている。やめようにもやめられず、株価が暴落しては元も子もないだけに売ろうにも売れない。

 国債についても、日銀による大量購入を前提として市場が築かれてしまっている。この構図が崩れるかもしれないという観測がリアリティーを帯びたと同時に金利は上昇しはじめ、株価は下落基調に入り、円は信用を失って、異常な円安(ハイパーインフレ)になる可能性がある。つまりはそれこそが、最悪のシナリオだ。

 しかもいま、われわれが大きな脅威と直面していることは改めて言うまでもない。4月初旬に刊行された本書でも、いち早くそのことに触れている。

2020年1月以降、中国・湖北省武漢市から広がり始めた新型コロナウイルスの感染が世界規模に拡大している。世界経済の下押しは避けられそうにない。日本経済への影響も甚大で、実質GDP(国内総生産)は2019年10〜12月期に続いて2020年1〜3月期もマイナス成長を避けられそうにない。

2期連続のマイナス成長となればそれは「テクニカル・リセッション」、つまり本格的な「景気後退局面」への突入を意味する。(107ページより)


日本の金融政策は全裸状態

 田崎氏はこの時点で、「その結果として起こったこと」をこのように列記している。

政府は大規模イベントの開催を自粛するよう要請を出し、サッカーJリーグの試合が延期され、アイドルのコンサート等が中止となった。無観客ライブを決行するアーティストも出ている。飲食店では、送別会や懇親会が軒並み中止となり、ホテルの宴会場の予約もキャンセルが相次いでいる。「自粛ムード」は深刻で、消費はかつてないほど一気に落ち込む可能性が高い。(107〜108ページより)

それからおよそ1カ月。状況はさらに悪化し、老舗クラブ、ライブハウスの閉鎖、飲食店経営者の自殺などが現実のものとなっている。しかし、それでもこの国の首相は、緊急事態宣言の延長に伴ってポエムのように空虚な言葉を発するばかり。

 もちろん日銀も、効果的で新たな「追加緩和」策を持ち合わせているわけではない。こうした現実について著者は、「緩和」がネクタイを締める意味だとすれば、もはや日本の金融政策は全裸状態だと表現している。

 これ以上、緩めようのない状態(全裸)で寒空の下を全力疾走しているようなものだとも。まさに言い得て妙である。そんなことに感心している場合ではないが、いずれにせよ、進むも奈落、止まるも奈落、痛烈な痛みを直視しまいとするかのようにアベノミクスは迷走を続けているわけだ。

インパール作戦との類似性

この異常な経済政策の行きつく先はどこなのか。

数字やデータを偽装し、不都合な難題に直面してもなお「それは感性の問題」と言ってはばからない為政者。問題の深刻さを軽視し、責任の回避に躍起になる権力者の姿を、私は先の大戦、その末期と重ね合わせざるをえない。

川幅600メートルの大河と2000メートル級の山岳地帯を越え、470キロを踏破し、イギリス軍の拠点「インパール」(インド北東部の都市)をわずか3週間で攻略する作戦が決行されたのは太平洋戦争末期、1944年3月のことだった。(113ページより)


そんな状況下においては、曖昧な意思決定と組織内の人間関係が優先され、無謀な作戦は発令されることになった。兵士は3週間分の食料しか持たされず、行軍中に攻撃を受けて多くの死傷者を出したにもかかわらず、大本営は作戦継続に固執。

 イギリス軍の戦力を甘くみて、自軍の補給物資の確保をせず、当初3週間で攻略するはずが戦闘は4カ月に及ぶことに。結局は誰ひとりとしてインパールにたどり着けないまま、約3万人が命を落とすことになった。

 だが、それほど凄惨な戦闘は、国内では華々しく報じられていたのだという。対峙する敵の姿を見誤り、あるいは意図的に偽って虚像をつくり出し、自国の姿さえみようとせずに粉飾する。報道も、そのようなミスリードに加担していたということだ。

過去に権力と一体化して、この国を奈落へと向かわせた反省の上に、私たちの戦後はある。そうであるなら現状の危うさを冷徹に分析し、表明しなければなるまい。(114ページより)

なぜなら、空々しいスローガンの先に見えるのは「破滅」にほかならないからだ。しかも、権力者による支配のツケを払わされるのは、誰あろう私たちである。

 だからこそ個人的にも、さらに学び続けなくてならないと感じるのだ。そして、そのための“客観的な教材”としての本書の価値は大きいと実感してもいる。

 http://www.msn.com/ja-jp/news/national/%e6%97%a5%e6%9c%ac%e3%81%8c%ef%bd%a2%e6%88%a6%e3%82%8f%e3%81%9a%e3%81%a8%e3%82%82%e8%b2%a0%e3%81%91%e3%81%a6%e3%81%97%e3%81%be%e3%81%86%ef%bd%a3%e3%81%a8%e8%a8%80%e3%81%88%e3%82%8b%e6%a0%b9%e6%8b%a0-%e7%8f%be%e7%8a%b6%e3%81%ae%e5%8d%b1%e3%81%86%e3%81%95%e3%82%92%e5%86%b7%e5%be%b9%e3%81%ab%e5%88%86%e6%9e%90%e3%81%99%e3%82%8b%e5%bf%85%e8%a6%81%e3%81%8c%e3%81%82%e3%82%8b/ar-BB14tTe8

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