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2020年05月17日15:29

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J.S.バッハ: 平均律クラヴィーア曲集 第1巻(ピノック)

【収録曲】

J.S.バッハ: 平均律クラヴィーア曲集 第1巻

 CD1 BWV846〜BWV857
 CD2 BWV858〜BWV869

トレヴァー・ピノック(チェンバロ)

録音:2018年8月,2019年9月,Colyer-Fregusson Hall, University of
Kent, Canterbury
DG 4838436(セッション)


今月の初めに発売されたCD。トレヴァー・ピノックがおそらく満を辞してレコーディングしたバッハの平均律クラヴィーア曲集。バッハが書いた鍵盤楽器のための音楽のうち,ゴールトベルク変奏曲,イタリア協奏曲,パルティータ全曲,チェンバロ協奏曲集などを録音していたが,ようやく平均律のCDをリリースしてくれた。

このディスクの発売が発表されると同時に予約を入れ,自宅に届くのを待つ。期待は小さくなかったが,実際に聴いてみると,どうコメントすれば良いのか迷う。もちろん,演奏が良くないという意味ではない。かといって,これが平均律クラヴィーア曲集第1巻の決定版だと言い切るにはためらいを感じることも事実だ。バッハの平均律の全ての録音を聴いたわけではもちろんない。そのうちのごく一部聴いているに過ぎないが,それらと比較してこの新しいCDが優れていると断言するには,どこか抵抗を感じる。かといって,ピノックの平均律が明らかに劣っているというわけでもない。それどころか,これまでに聴いた平均律の録音の中では上位にランクされるのではないだろうか。

最初に買った平均律の録音は,ヴァルヒャの全曲盤(LP)。ドイツの演奏家にありがちなインテンポの演奏がつまらなかった。次がロシアのリヒテルが弾く第1巻と第2巻の録音(LP次いでCD)。この演奏で平均律クラヴィーア曲集の真価の一端に触れたように思った。これまで数え切れないほど何回も聴いている。しかし,平均律をピアノで演奏することに違和感を感じないわけではない。ポリーニが第1巻を2枚組CDでリリースした演奏も聴いた。わずかに残るイタリア的色彩が気になった。

あえて,これらの演奏に順位をつけると,1位がリヒテル,2位がポリーニ,ヴァルヒャが3位という順番になる。そして,ピノックの演奏はリヒテルとポリーニの間に割って入りそう。現時点で,音楽への切り込みの深さではリヒテルに軍配を上げたくなる。あと巨大過ぎる可能性はあるが,演奏のスケールの点でもリヒテルのピアノが優っているかも知れない。リヒテルのピアノが持つ表現力がわずかに上回っているように思う。別の見方をすれば,演奏家の力量というより楽器の表現力の違いなのかも。

ピノックの演奏が,チェンバロ協奏曲集をリリースした頃と比べて,内面に沈潜しがちという事情も関係がありそうだ。ピノックが年齢を重ねて自分の内面と向き合う傾向が強くなっているのかも知れない。それ以上に,オーケストラを相手にしたコンチェルトと鍵盤楽器の独奏曲というジャンルの違いは大きいだろう。

たとえば,第24番ロ短調の前奏曲とフーガ。リヒテルの演奏に洗脳されているからかも知れないけれど,チェンバロによる第24番はピアノによる演奏に敵わないような気がする。もちろん第24番をどのような曲としてイメージするかによるけれど。しかし,第1番の前奏曲に関しては,ピノックのチェンバロ演奏の方が好きだ。ピノックが弾く第1番のプレリュードは温かく柔らかで,チェンバロ以外では不可能なふくよかな表現で今のピノックの全てを表しているようだ。

おそらく,リヒテルのピアノによる平均律とピノックがチェンバロで演奏したこのCDは,これからも長いこと付き合うことになりそうだ。そうした過程を経て,自分なりの評価が定まるのではないだろうか。とにかく今は,リヒテルのピアノによる平均律が強烈過ぎて,チェンバロによる平均律のイメージを形作るのにまだ時間がかかりそうだ。
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