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2020年05月01日08:57

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死線を越えて 賀川豊彦ー3


 また更に胸を刺すのは、彼が巻き込まれる葬式の数々。その中でも幼児の死。極貧の者たちが僅かなお金欲しさに引き取り、そして食事も満足に与えられず死んでいく。まるで地獄。そんな地獄でも人は生き続けるという或る種の驚異。そしてどんな苦しみも笑い飛ばしてしまう強靭な生命力。それらの全てに圧倒される。そして飽くまでも彼等を支援し続ける栄一の底抜けの善意がすごい。幾つか持っていた衣類も、着たきり雀の一枚を残して分け与え、持ち金の全てを分け与えるその姿に周りの人達が感化されていく。特に感動的なのは、彼の家で世話していた重病人が、「(天国の)お父様(神様)のところに行きます」と言って亡くなったこと。直接イエスの教えを説いたこともないのに、彼が言い残した言葉は、新見の心にも深い感銘を与えたのだった。いつの間にか、まだまだ悩み迷いに惑うことも多い彼自身がとてもたどり着けない境地に彼は到達したことに・・・。
(原文より:「先生、柴田はとうとうお父さんのところへ帰りました」
 栄一には、まだその意味がわからなかった。
「エ、お父さんのところへ帰った、東出町の・・・」
「いいえ、天のお父様のところへです・・・柴田はほんとに安心して帰って行きました。くれぐれも先生によろしくと申しまして最後に『内山さん、私はこれから天のお父さんのところへ帰らして貰います』と云うて眠るように帰って行きました」
 それを聞いて栄一ははらはらと涙を流した。栄一は深く考えた。
「何故自分に内山と柴田だけの信仰がないのだろうか。自分が天国へ行くとは考えていたが、今の今まで天の父の所へ帰るとは考えなかったのだ。理屈も何もない。内山と柴田には、死は父の家へ帰ることであるのだ。まあ何という深い信仰と徹底であろう、ああそうであった、柴田が、私に先立って天の父の懐に帰って行ったのだ。放蕩息子が父の懐に帰ったように、勝利の足踏みをもって彼は帰って行った」
「アーメン、アーメン」と彼は繰返した。)

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