新型肺炎で分かった日本人の美徳

　下記は、2020.4.30 付の 正論 の記事です。

　　　　　　　　　　　　　　　　記

　□動物行動学研究家・エッセイスト・竹内久美子

　私が前回、寄稿した２月初旬は、新型コロナウイルスによる肺炎の患者がまだほとんど中国と周辺の国に限られていた。欧米ではアジアの病気だとし、アジア系の人々が暴行を受けるというニュースさえ見受けられた。

　≪嘘に騙されず正しい発信を≫

　あれから２カ月以上を経た今、どうなったのか。感染は欧州へと飛び火し、イタリア、スペインなどで猛威を振るい、都市が封鎖される事態となった。米国でもニューヨーク州を中心として大流行。感染者、死者ともに米国が世界最多となった（感染者約９８万人、死者約５・５万人）。

　ではこの間に中国の現状はどうなのかといえば、感染者も死者も米国、イタリア、スペインを下回るとされている。感染者約８万人、死者約４６００人だ。

　そんな数値が信用できるはずもない。何しろ、自国の一都市を発生源とし、いくつもの大都市の封鎖や住民のマンション隔離が約２カ月も実行された国である。

　こうした隠蔽（いんぺい）だけでも呆（あき）れかえるわけだが、中国はこの肺炎を自国発ではなく、日本、あるいは米国発であるとのキャンペーンを始めている。

　まさかそんなウソに騙（だま）される人がいるものかと思うが、中国は過去にこういう情報戦で驚くべきしつこさを見せている。下手をすると、「南京大虐殺」のように何十年かのちにはそれがあたかも“真実”であるかのように定着してしまう可能性がある。我々は彼らのしつこさに負けることなく、正しい情報を発信すべきだ。

　今、中国が弱っていることは確かだが、かの国は他の弱っている国につけこもうとしていることも事実である。それよりもこれを機に世界侵略を一気に進めようというわけだ。象徴的なのは、マスク不足にあえぐフランスに対し、マスクを１０億枚供給してやるから、うちの５Ｇの設備を買え、と取引をしようとしたことだ。

　≪静かなる侵略に負けず≫

　５Ｇとは第５世代移動通信システムの意で、高速、大容量、低遅延などをうたう。中国が覇権を握ろうとしている技術だ。なぜ覇権を握ろうとしているかといえば、この通信技術によって情報の「吸い上げ」が格段に早くなるからという。こうして、世界中の重要人物はもちろんのこと、ただの庶民までも監視下におき、コントロールしていくというのが、中国の狙いらしい。

　私は前回、この疫病を機に世界が中国包囲網を敷き、中国の世界侵略を食い止めようではないかと述べた。

　実際、米国のトランプ大統領は中国の盗人猛々（たけだけ）しい態度に激怒し、中国の支配下にある現在の世界保健機関（ＷＨＯ）には拠出金を出さず、新しいＷＨＯの創設を検討中との表明を出した。この疫病から回復した英国のジョンソン首相も同様の考えだ。また日本を含め、多くの国が中国頼りのサプライチェーン（供給連鎖）を見直そうとしている。

　これはもはや、中国と親中国の国ＶＳその他の国（といっても中国の静かなる侵略を多くの国が受け、日本も例外ではないが）との実質的な第三次世界大戦ではないのか。この戦いに決して負けるわけにはいかない。

　各国が感染の拡大を止め、終息に向かわせる努力をするにあたり、日本は一番のお手本になると思う。

　日本は比較的早くから感染者を出してきたが、今のところぎりぎり持ちこたえている。４月２８日現在の感染者は約１万４千人、死者は約４００人だ。死亡率が低いことが際立っている。

　≪非常時に一致団結する力≫

　緊急事態宣言が７つの都府県に出されたのが４月７日、宣言を全国に拡大したのが４月１６日。遅きに失したとされ、諸外国からは強制力なしではたして効力があるのかと指摘された。

　しかし日本人はそれ以前から強制力なしで大規模な集会などを自制していた。世界一清潔好きな国民はまた、この疫病が明るみに出た１月末から手洗い、うがいなどを徹底し、マスクの着用を心がけてきたのだ。

　そして日本にとって大変幸運と思われるのは、結核予防のワクチン、ＢＣＧの接種がかなり広い年代でなされていることだ。それによって新型肺炎の重症化のリスクが約６分の１にまで減ると、米国のジョンズ・ホプキンズ大学の研究者たちは報告している。この大学の公衆衛生部門は全米１位のランクにあり、大変信頼できる。

　ＢＣＧの効果については旧東ドイツと旧西ドイツでの重症化の違い（前者が重症化しにくく、ＢＣＧを接種している）など、かなり以前から指摘があったものの、いまひとつ決め手に欠けていた。

　ちなみにＢＣＧを接種していると、本人が持つ免疫力が働きやすくなるのである。

　国民の清潔好きと非常時に一致団結して立ち向かう態度、ＢＣＧワクチン接種の歴史。日本は、これらを武器にこの疫病を克服すると確信している。（たけうち　くみこ）

　https://special.sankei.com/f/seiron/article/20200430/0001.html