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2020年04月19日13:49

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J.S.バッハ:6つのパルティータ

Disc 1
 1 第1番 変ロ長調 BWV.825
 2 第2番 ハ短調 BWV.826
 3 第6番 ホ短調 BWV.830

Disc2
 4 第3番 イ短調 BWV.827
 5 第4番 ニ長調 BWV.828
 6 第5番 ト長調 BWV.829

トレヴァー・ピノック(チェンバロ,ディヴィド・ウェイ作,エムシュ製のコピー1983年)

録音:1998年9月(1,2,4)カールスルーエ,1999年11月3〜7日(3,5,6)ルートヴィヒスブルク
hanssler HC1853(セッション)


2000年に発売されたドイツ・ヘンスラー・レーベルのバッハ大全集から,ピノックが得意とするパルティータ全曲を再収録したアルバム。

5月にピノックが弾くバッハの平均律クラヴィーア曲集第1巻が発売されるという情報を入手し,関連する情報収集を行っている過程でパルティータ全曲もリリースされることを知り購入した。ピノックが弾くバッハの鍵盤音楽作品は昔から好きで,とりわけチェンバロのための協奏曲集からは深い影響を受けた。彼が弾くチェンバロ協奏曲集での顕著なスイング感によって,古楽演奏に対する見方を根底から覆された。古楽はジャズだったという発見がこの分野へ深入りするきっかけになった。言うなればピノックは古楽演奏に開眼させてくれた恩人である。

また,パルティータという作品に対する特別な興味があったことも,このアルバムの購入に一役買っている。鍵盤楽器のための作品の中で,パルティータが最高傑作であるという説があるらしい。以前なら,平均律クラヴィーア曲集とゴールトベルク変奏曲を超える作品はないと信じて疑わなかった。しかし,ヒューイットや他のピアニストたちが弾くパルティータを聴いてみると,パルティータは平均律やゴールトベルクに迫る水準の作品ような気もする。イギリス組曲やフランス組曲とはレベルが違うようだ。この点をもう少し追求してみたいという気持ちがあったため,このアルバムを買おうという気になった。

ついこのあいだ,ヒューイットのパルティータ全曲を買って聴いたので,どうしても彼女のアルバムと比較してしまう。ヒューイットはパルティータをピアノで,ピノックはチェンバロで演奏している。通常,演奏のスケールはピアノによる演奏が大きく,チェンバロの場合は小振りだと考えられる。しかし,ピノックの演奏の方がヒューイットのものより遥かにダイナミズムに富んでいる。二人の鍵盤楽器奏者の解釈や意図が如実に表れた結果だろう。ヒューイットが求心的な表現を求めているのに対し,ピノックは開放的で明るく華やかな演奏を目指したようだ。パルティータは多様なアプローチが可能である巨大な音楽という側面も有している。この意味であれば,鍵盤作品の中の最高傑作という評価を無闇に否定するわけにもいかないかも知れない。

もうひとつ指摘すべきは,音色の多彩さである。ピノックが使用している楽器は二段鍵盤のチェンバロ。彼が弱音用のキーだけで演奏している箇所があり,多彩な音色を楽しむことができる。チェンバロの場合,ピアノのように弾くときのタッチで様々なニュアンスを表現することは容易ではない。しかし,ピノックはチェンバロから万華鏡のように千変万花する音色を引き出してくる。しかも,その音の粒立ちに一切の曖昧さはなく,明晰そのもの。また,くすんだような音色も面白い。いくら録音だとはいえ,演奏者の腕が冴えわたっている。こうした点もダイナミックな演奏とい印象を与えるのに一役買っているのだろう。

平均律クラヴィーア曲集が対位法を追求した作品で,ゴールトベルク変奏曲が変奏のテクニックを追い求めた音楽だとするなら,パルティータはイギリス組曲やフランス組曲のように舞曲の持つ楽しさに焦点を絞った音楽といえるだろう。その上,パルティータはイギリス組曲とフランス組曲での舞曲の概念を音楽的に一層発展させたような一面がある。ダンス・ミュージックの枠組みを打ち破って音楽そのものへと進化したようなところが見受けられる。この意味でも,バッハの鍵盤音楽の中で最高傑作の候補にあげていいのかも知れない。

このところ立て続けに,ヒューイトとピノックのパルティータを聴いた。そして,どちらかに軍配をあげることは控える。どうやらパルティータを理解するうえで,どちらかの録音がもう一方の録音で代用できるほど,この作品のスケールは小さくないようなので。

そして,ピノックが5月にリリースする平均律クラヴィーア曲集第1巻を聴くのが楽しみである。
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