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2020年03月26日13:38

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聖夜

さだまさし の歌に 「聖夜」というのがある。

映画「二百三高地」の挿入歌として作られたものだけど、
この歌には、やりきれない思い出がある。

僕には、戸籍上三歳(実際には五歳)年上の兄がいる。
二人は、とても仲のよい兄弟というか、
兄は僕のことをとても可愛がってくれる優しい人だった。
そして二人供、大のおばあちゃん子だった。

兄は高校を卒業してすぐは、
一般の商社に入社したのだが、
会社の状態が良くなく、肩叩きにあって、
親父の影響(軍隊経験という意味で)
もあって陸上自衛隊に入隊した。

最初は山口駐屯地で一年の訓練。
実家の広島からも近く、お互いによく行き来もしたが、
訓練期間が終わって、決まった配置は、
北海道旭川の高射砲連隊。

もう、遠すぎて、簡単には行き来できない距離だ。
それでも、一度は行ってみたい北海道。
兄は、意気揚々と、出かけていった。


僕が高校二年の頃だ。

北海道に兄が行って一年目、
祖父母は祖母の不注意で、
食事に使えるわけのない廃油を醤油と勘違いて
料理に使用し、
入院することに・・・・

経過は順調で、そのこと事態はすぐに問題解決したが、
おばあちゃんは、病院を出ることができず、
その一年後、老衰死した。

スマホは当然、携帯も無い時代、

電話でことを知らせなければと、
僕は父親に具申した。

しかし、軍務中に家族の不幸を知れば、
動揺して事故を起こすかもしれない。
だから駄目だと言われた。


そして、葬式が済んでから、手紙を出すようにと・・・・
そんな馬鹿なと思った。

父親は怖い人だったので、逆らうこともできず、
ただ、悔しさと、兄の気持ちを思うと
やるせなさで一杯だった。

葬式が済んで数日後、僕は父に言われるまま、
手紙を書いた。
祖母が死んだこと。
事故を心配して勤務中に知らせるとができなかったこと。

兄からの、手紙はいつもより遅く帰ってきた。


そこには、さだまさしのこの歌の歌詞が書かれていた。

 こんなに 静かな 雪のふる夜は
 私の心だけ 故郷へ帰る

 みんなは 元気で暮らしているか
 私の おもいが 聞こえるだろうか

 静かに 静かに 雪のふる夜は
 私の 愛だけが 道にまよう

便箋のあちこちが、たぶん涙で濡れて、
インクが滲んでいた。
僕は何度も何度も手紙に、兄に向かって謝った。

それからの兄は自衛隊内でも
「腐ったみかん」と呼ばれるほどに荒れた。

そして満期を前にして除隊して帰ってきた兄は、
すっかり人が代わっていた。


僕に対する優しさは変わらなかったが、
父に対する態度ははっきり違った。

僕は今でも、祖母が死に向かっていることを、
父の反対を振り切ってでも、
電話ででも知らせなかったことを後悔している。
死に目にも、葬儀にも
参加させてあげることができなかったことを。

だから、この歌を聴くたびに、僕は涙が止まらない。
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