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2020年03月06日09:48

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『スター・ウォーズ』は40年かけて何を描いたのか、一つの答えコピペ

スター・ウォーズに内在する哲学的テーマ
　エピソード9「スカイウォーカーの夜明け」で、スター・ウォーズ本編のストーリーが完結した。

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　このことを受けて、「歴史的作品を見逃すな」では、ともかく今までスター・ウォーズを見たことがないという人も、この最終話を機会に、歴史的な作品の完成に生で参加せよ、とうながしてみた。映画館のスクリーンで見て、その迫力をまずは楽しむところから入ってほしいと。

　そしてそのようにうながすのは、この作品には非常に深い哲学的問題が示されており、一人でも多くの人にその問題について考えてほしいからだとも述べた。

　スター・ウォーズは40数年もの年月をかけて作られ、また全世界で見られてきた非常に特殊な連作映画である。

　この作品には私たちの生きる時代や世界が色濃く反映されている。エンターテインメントの向こう側に潜んでいる現代的テーマについて、ここで一つの深読みを示してみたい。

　もちろんここで展開するのは、一社会学者の哲学的読みである。

　良い作品には様々な読みが可能であり、スター・ウォーズにもそれができる。この全編完結を機会に、もっと多様な読みが試みられねばならない。

　ここでは私の読みを紹介しながら、まだこの作品を見ていない人、あるいは少しは見たが訳がわからずやめてしまったという人むけに、この9本の連作の芯にある骨太のテーマ・ストーリーを解説してみる(前編)。

　とともに、そのテーマ・ストーリーの哲学的意義について、ここで私の見立てを少し突っ込んで――ただし細かな筋は拾わずに――提示してみたい(後編)。

　ともかくこんな見方もできるのだという事例を示すことで、これから見ようという人はもちろん、すでに見たという人にも、この作品のエンターテインメント性を超えた側面を味わう手がかりの一つにしてもらえればと思う。
3世代の物語の鑑賞法
　まずは、スター・ウォーズ全9作の構成を確認しておこう。

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エピソード1　ファントム・メナス　1999年
エピソード2　クローンの攻撃　2002年
エピソード3　シスの復讐　2005年
エピソード4　新たなる希望　1977年、特別編1997年
エピソード5　帝国の逆襲　1980年、特別編1997年
エピソード6　ジェダイの帰還　1983年、特別編1997年
エピソード7　フォースの覚醒　2015年
エピソード8　最後のジェダイ　2017年
エピソード9　スカイウォーカーの夜明け　2019年
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　このうち、エピソード1から3までが親世代(アナキン・スカイウォーカー)の物語であり、エピソード4から6がその子世代(ルーク・スカイウォーカー)、そして7から9までが孫世代(ベン・ソロ、レイ)の話になる。要するに3本ずつで1つのセットになっていて、それが3セットある。＜3本×3セット=全9作品＞という構成である。

　シリーズが完結し、この番号で並べられてしまっているので、はじめてこのシリーズに接した人は当然、エピソード1から順に見ようと考えると思う。だが、鑑賞を途中でやめてしまった人はそこがネックになっているのかもしれないので注意したい。

　というのも、エピソード1から3のアナキン・スカイウォーカーの話は、フォースのダークサイドという陰鬱なテーマを扱っており、最初に見るにはなかなか手強い内容だからだ。

　これに対し、エピソード4から6は一転して、ルーク・スカイウォーカー、レイア姫、ハン・ソロらの明るい希望ある物語が描かれる。

　作品一覧にはアメリカ公開の年を付しておいたが、この作品の製作はエピソード順ではなく、エピソード4から始められている。おそらくこのシリーズの成功は、このエピソード4から6を最初に製作したことにある。

　1978年に最初の「スター・ウォーズ」を日本の映画館で見た世代は、その痛快な冒険活劇と、暗黒側の敵を倒していく爽快感に酔いしれた。そこには底抜けの明るさがあり、その記憶によってその後に示された厳しいテーマもしっかりと受けとめられ、多くの人が最後まで見通してきたのだと思う。

　それゆえ、これから見てみようという人、とくに途中で断念した人には、できればこの製作順に、エピソード4「新たなる希望」から見ることをおすすめする。

　そしてエピソード6「ジェダイの帰還」まで見たら、そこからエピソード1「ファントム・メナス」にもどって最初のストーリーを確かめるのがよい。

　先ほど述べたように、エピソード1から3は非常にしんどい話だが、この手順なら誰もが必ず見通せるはずだし、エピソード4から6を知っているからこそ、そこで描かれている内容が十分に楽しめるようになっているからだ。

　そして、その上でもう一度、エピソード4から6を見直してほしいのである。そこではじめてエピソード4「新たなる希望」の最初のシーンや、6「ジェダイの帰還」の最後はもちろん、そこで描かれている世界がどういうものなのかがわかるようになるだろう。どうして多くの人が夢中になるのか、この2度目の視聴でやっと実感できてくるはずだ。

　エピソード7から9は、その先のストーリーということになる。そしてそこではふたたび、フォースの暗黒面に物語の焦点があてられていく。

フォースの対立というテーマ
　このように9本もの長いストーリーも、基本的にはスカイウォーカー家およびジェダイに関わる親・子・孫の世代間の葛藤を、お互いの信頼と不信、愛と憎悪のなかに描くものだ。

　この"世代"を縦糸とすると、各話を描く横糸は戦争だが、表向きのドンパチを取り除けば、それはとくにフォースの善・悪をめぐるジェダイとシスの抗争となっている。

　そしてこのフォースをめぐる抗争こそ、非常に興味深い現代的なテーマを提起するものなのである。

　フォースとは何か。

　forceを辞書でひけば、まずは「力」の訳ででてくる。とくに相手に何かを強制する力であり、兵力や軍事力を示す時にもforceを使う。我が国の自衛隊も、Japan Self Defense Forcesである。

　もっとも、スター・ウォーズはフォースを軍隊のような直接的な武力ではなく、個人に内在する人智を越えた神秘的な力として描く。それは人が、それによって具体的に何かを実現するエネルギーのようなものであり、フォースの強い人は、それを鍛えることで超人的な能力を身につけることができるとされる。

　フォースを使う者は、目を使わずにものを見、手を使わずにものを動かす。それはまた遠く離れた人や亡くなった人を感じ、対話し、また未来を見通す力でもある。

　補足だが、例えばその修行のシーンに座禅が出てくるように、フォースには仏教とくに日本の禅に対するリスペクトが潜んでいるといわれる。服装や、ライトセーバーによるチャンバラなどにも、この作品の日本趣味、アジア志向が見て取れる。

　これはすなわち、欧米人にはない、(東側の文化がもつ)得体の知れない力への憧れの表現でもあり、しかもそれを、全編にあふれるハイテクノロジー文化(ドロイド、クローン、超破壊兵器など)に抗するものとして描いている点に注意が必要である。

　このフォースを訓練によって使いこなす能力を獲得した人々がジェダイたちである。ジェダイは厳しい戒律によって、このフォースを正しいことのためだけに使用する。

　この独特の用法をもつスター・ウォーズの《the Force》は今や辞書にも掲載されており、例えば手元にある『ランダムハウス英和大辞典』ではこう説明されている。「フォース、理力:正義を果たす人が得る神力;米国の映画Star Warsに出てくる」と。

　もっともこの説明は十分ではない。フォースは暗黒面(ダークサイド)も持ち、悪意ある人間がこの力を得れば、銀河を支配する力さえ手に入るようなものであるからだ。

　それは、手を下さずとも人をも直接殺しうる、暴力と同義の力でもある。怒ったダースベイダーが部下にこの力を行使するシーンは、スター・ウォーズの中でも印象的なものだ。

　さて、再び全体の構成に戻ればこうなる。

　スター・ウォーズのエピソード1から3は、このフォースの暗黒面が銀河帝国を生みだしていく過程を描いたものだ。それをとくにアナキン・スカイウォーカーという主人公を軸に示している。

　これに対し、エピソード4から6は、その銀河帝国に、アナキンの子であるルーク・スカイウォーカーらが抗戦する物語になる。強い帝国にひたすら挑み、戦う。だから痛快なのである。

　そして最後のエピソード7から9は、帝国の継承者であるファーストオーダーと、それに対するレジスタンスの戦いを、さらに次世代のカイロ・レンとレイを軸に描いている。その最終話になるエピソード9では、このフォースの善・悪の戦いの結末が示されることになる。

　このように、世代間の葛藤とフォースの対立がこの長いストーリーの根幹にあるわけだが、このうち世代間の葛藤は大河ドラマにはよくある主題の立て方である(私の好みで一例を出せば、高橋克彦の『炎立つ』など)。

　それに対し、おそらくスター・ウォーズ(宇宙戦争)を考えたことから派生してきたこのフォースの対立こそが、この映画の性格を大きく特徴づけるものになっている。

　それどころか、世代間の葛藤さえもが、このフォースの導入によって、意味深い物語として彩られることになった。

　世代とフォースをめぐる闘いの物語とはこういうものだ。

　戦争を終わらせる力をつけようと、人はフォースを身につける。が、まさにそのフォースこそが戦争や対立の原因になっていく。どのようにフォースを次世代に教え、あるいはまた前の世代から引き継いでいけばよいのか。そうした問いがこの物語全体のテーマになっている。

　そしてこのテーマこそ、世界史をひもとき、グローバル社会の行方を論じる際に決して避けることのできない、私たちにとって非常に重要な根源的な問いなのである。

パワーとフォース
　スター・ウォーズのテーマは、非常に重要な哲学的な現代的問題を示すものだと述べてきた。それはとくにフォースにあると。

　フォースはもちろんこの映画だけのものであり、現実のものではない。が、これは現実の何かを誇張して示したものである。それは何か。

　考えるに、それはパワー(power)である。

　パワーとは何か。それは何かを実現する力であり、能力である。パワーは電力や動力のような自然界にあふれる物理的エネルギーを指す。しかし、それはただあるのではなく、科学や技術によって人に利用され、人の力を高めるようなものである。

　こうしたパワーは、物理的エネルギーに限らない。パワーはまた人を動かす政治権力をも意味する。パワーとは人を支配し、統治する力である。さらにはそれは兵力や軍事力をも指し、他の人々を侵略し制圧するような力でもある。

　こうしてまずは、言葉の意味やその広がりが、powerとforceで非常に似ているということを確認しておこう。二つは同じ文脈で使われる語である。

　さて、スター・ウォーズには、こうしたパワーが全編にあふれるように描かれている。スター・ウォーズは、パワーの充溢した世界を示すSF作品である。

　現代をこえた超科学技術にあふれた世界が、ここでは丹念に表現されている。

　銀河の端から端までを渡り歩く宇宙船はもちろん、ドロイドをはじめ、様々なロボットがここには登場する。

　失った腕をも再現する医療技術、そして人間のクローンまでもが実用化されている。高度化した科学や技術が、人間の意のままに自然を支配する力を実現しているのがスター・ウォーズの描く世界だ。

　忘れてならないことは、議会や民主主義もまた、人の統治や支配のパワーを実現する場として描かれていることである(とくにエピソード1から3)。

　そしてなにより兵器については、ドロイド軍やクローン軍はもちろん、デス・スターのような超破壊兵器までもが登場する。

　設定は「遠い昔、はるかかなたの銀河系で」となっているが、スター・ウォーズは、技術・科学・政治・軍事に関する空想的未来の総合展示場である。

　さて、ではその中で「フォース」とは何か――。

　作品中のフォースは、「彼のフォースは強い」という表現に見られるように人の中に潜むものであるが、フォースは周りにあふれていて、それをただ利用するだけだとも語られる。

　ともかく大事なことは、フォースを身につけた人は、その神秘的な力によって、自己やその周りにある様々なパワーを自己の意のままに操ることができるということである。

　そしてこの「自己の意のままに」は、フォースの弱い人にも向けられ、フォースの強い人間は、フォースによって物を動かすだけでなく、人をも意のままに操作する。

　要するにフォースとは、世界にあるパワーを、自分の思い通りに使いこなすことができる超人的な能力なのである。フォースは、パワーを超えたパワーといえる。それは暴力を超えた暴力でもあり、権力を超えた権力でもある。

　このフォースが、善のために使われている限りは問題はない。が、権力や暴力と結びついたとき、フォースはその暗黒面をあらわにする。そしてその悪の具体像を、銀河帝国やファーストオーダーのようなかたちで描くのである。

マックス・ウェーバーの権力概念と帝国の生成
　さて、この権力(power)の問題を、近代の運命と結びつけて現代社会を読み解いた人物に、ドイツの社会学者・歴史学者であるマックス・ウェーバー(1864～1920)がいる。

　ウェーバーによる権力(パワー、マハト)の定義とその後の展開は、今述べたフォースと銀河帝国の関係を考えるのにたいへん示唆的である。

　ウェーバーは権力をこう定義する。

　権力とは何か。「力――すなわち自己の意思を他人の行動に対して押しつける可能性」(世良晃志郞訳『支配の社会学Ⅰ』5頁、創文社)だと。

　そして「すべての国家は暴力の上に基礎づけられている」というトロツキーの言葉を引いてこう主張する。

　「国家とは、ある一定の領域の内部で(中略)正当な物理的暴力行使の独占を(実効的に)要求する人間共同体である」と(『職業としての政治』9頁)。

　近代社会において、私たちは国家権力の前にさらけ出されている。国家は秩序を保たねばならぬ。その秩序を実現するのは権力である。権力とは、ある人間が別の人間を、自分の意思通りに動かす力である。そうした権力によって社会は――少なくとも近代社会は――実現している。

　マークス・ウェーバーのこうした議論は後に、カール・シュミットの「政治とは決定である」という透徹した考えにもつながり、そしてそれはドイツにおけるナチスの第三帝国へとより合理的な姿をとって実体化もした。

　ここで重要なことは、近代の中では、パワーの増大と合理化は強大な国家を出現させ、人による人々の支配力の徹底化を実現していくということである。

　しかもそれは必然的で不可避の現象と考えられており、第三帝国の結末はともかくとしても、権力、統治、国家に関するこうした議論は、いまもまだ論理的には否定されていないということだ。

　スター・ウォーズに現れる「フォース」。なかでもそのダークサイドはまさに、この近代国家権力を目に見える形で表現したものである。

　さて、ここで面白いことにフォースは、ダークサイドでなくとも、それを正しく使うジェダイたちでさえ、ウェーバーがいう「自己の意思を他人の行動に対して押しつける」力として用いているということである。

　例えばエピソード7で、捕らえられたレンが、警備する兵士をマインドコントロールして脱出を図るように。

　そしてフォースを善に用いるジェダイたちも、そのダークサイド側の人間に対しては武力行使をいとわず、それはもちろん相手を死に至らしめることにもなる。

　スター・ウォーズでは具体的な兵力のぶつかり合いが繰り返し描かれるが、それはある意味ではショーにすぎない。物語の中で戦いの勝敗を決めるのはこのフォースである。

　結局、物語は、フォースを使う者同士の戦いに行き着く。

　そこでは要するに、フォースの暗黒面の力を使う帝国は悪であり、それに対して帝国へのレジスタンスに用いるフォースは善であるという、非常に単純な図式が大胆に導入されている。この善悪の戦いが、善による悪の討滅に行き着くことが物語の最終目的となるわけだ。

　だが、物語はそう単純には進まない。

　というのも、ここにはトートロジーが出現しているからであり、しかもそれを登場人物の幾人かは自覚もしているからだ。

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(後編「映画『スター・ウォーズ』とは一体何だったのか、その哲学的意義」につづく)
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山下祐介（首都大学東京教授）

【私の私見】
スターウォーズは日本の黒澤映画をリスペクトしていると言われている。
ジェダイ＝時代（劇）というのは有名になっているが、滅ぼされた共和国は日本ではなかっただろうか？
帝国軍は連合国（アメリカ）であって、民主制もあり歴史・伝統文化を備えた国でもあった日本をダークサイドに墜ちたアメリカがフォースを以て滅ぼしたというメタファーの物語だと思うに至っている。

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