衆愚世界

菅田将暉が主演の『3年A組』というドラマをＤＶＤレンタルして全部観た。
結構話題になっているのは知っていたので、どんなもんかって観てみたんだが、予想以上に面白かった。
菅田将暉扮する高校教師の、1話1話に熱弁するセリフが、非常にストレートで熱く、単純で率直だが、現代社会の病理を鋭く突き刺してくる。
まあ内容について書いていくとそれだけで終わってしまうので避けるが、菅田将暉扮する教師が、最後に戦いを挑んだのが、ＳＮＳの世界であったことが意外だった。ちょっと最後は茶番ぽかったが、ＳＮＳなどにより拡散するネットの心無い誹謗中傷が、攻撃された人間の精神を衰弱させ、時には自殺に追い込む。というのは随分前から問題にはなっていたが、それをストレートに熱く訴えたドラマというのは、はじめてかもしれない。

ちょうどそのドラマを観ている最中に、俳優の東出と唐田の不倫騒動があった。
たかが芸能人の不倫で、ワイドショーはおろか、通常の報道番組やネットのニュースサイトなどで毎日のように報道され、あらゆるコメンテーターやら同業者やらが、批判をしていたりする。
毎日ヤフーニュースを閲覧している僕は、毎日ヤフーにあがってくるニュースソースに、うんざりもしていたんだが、よりうんざりしたのが、一般ユーザーのコメントである。
昨今のニュースサイトは、一般人もコメントが投稿できるようになっているのだが、もう、どいつもこいつも、東出・唐田を犯罪者のように糾弾し、口汚く罵る。
あまりにも酷いので、中には「これだけ他人を叩く現象は異常である」という記事を寄稿する人も出てきてはいたのだが、一般ユーザーは納まることを知らず、いわく、「芸能人なんだから、イメージで売っていて、そのイメージを裏切ったのだから言われて当然だ」だの、「良いことをしたら賞賛され、悪いことをしたら叩かれるのは当然だ」だの、あたかも自分が正義の側で、彼らに被害を蒙ったようなコメントがじゃんじゃん投稿される。
こんな異常な状況はないな、って思った。
そもそも、不倫していたのは、個人的な事情であり、東出・杏夫婦および唐田の間でモメるのは、勝手にやってくれってことだ。だが、我々第三者が、彼らを、芸能活動が出来ないほど追い込むって、一体何の権利があってだ？
もし、イメージが悪くなったので契約していたＣＭ企業が使えないと判断したとしても、それは企業側の判断であるので、仕方ないが、第三者があれこれいうべきことじゃない。
芸能人は、その仕事が評価されるべきであって、プライベートな事情で仕事の質が落ちたというなら、それは干されても仕方ないし、聴衆やファンがそのことを批判するのは仕方ないことだと思う。
が、不倫そのものについて、あたかも凶悪犯罪を起こしたかのように騒ぎ立て、彼らが二度と復帰できないくらい追い詰めるのは、道義的にも人道的にも異常なのである。

このように、ＳＮＳなどで他人叩きをしている、自称・正義の人間たちの異常性は、本当にうんざりしてしまう。
自分の日常生活に一切やましいことはないのだろうか？
人間は、１つの失敗で、もう二度と復活してはいけないのだろうか？
そもそも、ネットの匿名性というのが、この異常性を大いに引き出している。
こちらは、あくまでも匿名であって、どんなに日常で悪いことをしてたとしても、そいつの周辺で完結してしまい世間に叩かれることはないが、芸能人などの有名人は、一方通行の素性を知らない相手に安全圏から心無い集中攻撃を受ける。
日本人は、いつからこんな浅ましい民族に成り下がったのだろう。
いや、もともと持っている素質だったのかもしれない。もともとは、テレビのワイドショーなどをみて、主婦層が井戸端会議で芸能人の批判などをしていたのが、インターネットというツールが世の中に出回わったため、本人が目にするところに直接攻撃が可能になってしまった。村八分のレベルが、全国的に拡散されてしまった。
攻撃する一般人も、当事者に直接会って話をしたりするわけではないので、ワイドショーやネットのゴシップ記事が真実かどうかも確かめることなく、当事者の事情を察することもなく、無責任に攻撃できる。
ドラマ「3年A組」では、菅田将暉扮する柊先生が、「想像力を働かせて、自分で責任を負って発言しろ！」と言っていたが、まさに、想像力のなさが生み出す産物であろう。
攻撃をする人間が根拠としているのは、あくまでもマスコミの垂れ流すゴシップ記事であり、そこで悪人に仕立て上げられた人は、いくらでも攻撃しても良いと免罪符を得たかのようにバンバンに攻撃する。
もし、そこまで攻撃するのであれば、ゴシップ記事に踊らされず、自分で真実を確かめるべきだし、その発言で相手が社会的に死んでしまうことを想像するべきだし、もっと言えば言った以上は、発言に誤りなどがあったら自分も何らかの制裁を受ける覚悟をすべきなのだ。
正義に仮託した、他人が潰れるところを高見の見物をして快感に浸る悪趣味な人々は、社会性なき変態野郎たちである。
いつから、この国は、イケシャーシャーと他人を糾弾できるほどの道徳大国になったのだろう？それがブーメランのように跳ね返ってこないほど、皆が皆、寸分も隙がないほど道徳に満ちた「正しい行い」をしているのだろうか？
仮にそうだとしても、そんな国、嫌だ。

表面の情報に踊らされ、不満の捌け口を匿名でいくらでも吐き出すことのできるこの国の未来は暗い。
何が民主主義の世の中だ！民主主義は衆愚主義だって、このＳＮＳの世界をみればわかるじゃないか。
何が言論の自由だ！下品で頭が悪く他者に対する想像ができないような奴らは何も語るんじゃない！