下記は、2020.1.6 付の 産経抄 です。
記
徳川家康は、『源氏物語』を愛読していた。大坂夏の陣前後には、公家から講義も受けている。武断から文治の世への移行を意識していたのだろう。江戸幕府の歴代将軍も、家康の遺志を受け継いできた。
▼東京都墨田区の江戸東京博物館で今月2日から始まった企画展「天下泰平」は、将軍の文化人としての側面にスポットを当てている。3代家光は多くの御用絵師を抱えていた。展示物の一つ「東照大権現霊夢像」は、家光の夢に出てきた家康の姿を狩野探幽に描かせたものだ。
▼5代綱吉は儒学の精神を施政に生かそうとし、8代吉宗は医学や天文学などの実学を好んだ。11代家斉の下では、化政文化が花開いている。現代世界の指導者にもぜひ、文化創造の貢献者としての役割を果たしてほしい。
▼といった展開を考えていた正月原稿だが、そんな雲行きではなくなった。中東イラクの首都、バグダッドから衝撃的なニュースが入ってきた。米軍ヘリの攻撃によって、イラン革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」のソレイマニ司令官(62)が殺害された。
▼コッズとは、ペルシャ語で聖地エルサレムを指す。ソレイマニ氏が率いる部隊は、中東各地の武装組織に武器を供給し、戦闘員を訓練するなど対外活動を担ってきた。米国は、イランが中東各地で仕掛けるテロ活動の首謀者と見ており、不倶戴天(ふぐたいてん)の敵だった。
▼一方体制派のイラン国民にとっては英雄である。最高指導者ハメネイ師の信頼も極めて厚かった。イランは、「報復」を宣言している。これに対してトランプ米大統領は、報復があればすぐに攻撃する、と警告した。軍事衝突の危険性が高まってきた。2020年の世界は、「天下泰平」どころか「天下大乱」の兆しが濃厚である。
https://special.sankei.com/f/sankeisyo/article/20200106/0001.html
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