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2019年11月30日17:24

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ルーカス・ユッセン&アルトゥール・ユッセン ピアノデュオリサイタル

【プログラム】

1 モーツァルト: 2台のピアノのためのソナタ ニ長調 K.448(357a)
2 シューベルト: 幻想曲 ヘ短調 D940(連弾)
3 プーランク: 4手のためのソナタ FP8(1918年,1939年改訂)
4 ファジル・サイ: 夜 Op68(連弾)
5 ラヴェル: マ・メール・ロワ(4手のための組曲)
6 ラヴェル: ラ・ヴァルス(2台のピアノ)

(アンコール)
J.S.バッハ: 神の時こそいと良き時 BWV106(クルターク編)
ロマ: シンフォニア40

ルーカス・ユッセン(ピアノ)
アルトゥール・ユッセン(ピアノ)

2019年11月16日(土),14:00開演,札幌コンサートホール


11月16日に開催されたルーカスとアルトゥールのユッセン兄弟によるピアノ・デュオ・リサイタルを聴いた。これまで,アルゲリッチとフレイレ,アシュケナージ 父子のピアノ・デュオ・リサイタルを聴いたことがある。そして,今回,ユッセン兄弟のデュオを聴いてピアノ・デュオ・リサイタルの真価を理解できたように思った。ピアノはとても表現力の豊かな楽器である。ある意味,オーケストラと比べても遜色のない音楽表現が可能だといっても過言ではないだろう。それほど表現力に富んだピアノを2人のピアニストが弾いたら,どれほど大きな音楽的な世界を創造できるのか,まざまざと見せつけられた。もちろん,ピアノとオーケストラとでは,そもそも表現できる世界の質が異なっているのだが。

ルーカスは1993年,アルトゥーロは1996年生まれのオランダのピアノ・デュオ。兄弟はポルトガルとブラジルで,マリア・ジョアン・ピリスに招かれ1年間学ぶ。これまでに,ロイヤル・コンセルトヘボウ管をはじめほとんどすべてのオランダのオーケストラと共演。そのほか,ゲルギエフ指揮マリインスキー 歌劇場管弦楽団などとも共演し,今年はアダム・フィッシャー指揮モーツァルテウム管弦楽団とザルツブルク音楽祭デビューを飾り,去る9月にはアンドリス・ネルソンス指揮ボストン交響楽団のシーズン・オープニングでデビューを果たした。これまでにドイツ・グラモフォンから,モーツァルトとプーランクの2台のピアノのための協奏曲を含む6枚のCDをリリースしている。

ユッセン兄弟の持ち味の中で特筆すべきは,柔らかく明晰な音だろう。とてもピアノ線をハンマーで叩いて出た音とは思えないほど,ソフトでまろやかな音色である。それでいて,曖昧糢糊としたところのない,クリアーな響きだ。気心の知れた兄弟ということも相まって,一点の曇りもない息の合った明晰な演奏を披露してくれた。それでいて,彼らのピアノにはある種の気宇壮大なスケールも感じられる。リサイタルの最後を飾った「ラ・ヴァルス」からは,オーケストラが演奏する近代フランス風にデフォルメされたワルツ,シャンデリアが輝く舞踏会場の華やぎ,そのリズムの合わせて踊る人々の喧騒までもが再現され,ホールを満たす。2台のピアノでこれほど多くのことを表現できるとは,想像だにしなかった。

モーツァルトの「2台のピアノのためのソナタ」はニ長調という調性のせいもあって,華やいだ作風の作品。2人のピアニストによる丁々発止の遣り取りが楽しく繰り広げられる。この曲をこれほどの愉悦感で表現できるのはルーカスとアルトゥーロのテンペラメントの為せる技だろう。演奏技術的にも高度なテクニックが要求されるこの曲の細部を疎かにすることなく鮮やかに弾きこなす。かといって,作品の全体像を見失うこともない,バランスのとれた極上のモーツァルトだった。

楽天的なモーツァルトのソナタから一転して,シューベルトの「幻想曲」は,まろやかだったり,劇的だったり多彩で豊かな音楽が盛り込まれた変化にとんだ作品。そして,もちろん言葉では言い表すことが難しいシューベルト特有の美しさも持ち合わせている。ユッセン兄弟は持ち前のテクニックでその美しさを表現するとともに,変化に富んだ多彩な美しさも鮮やかに描き出す。シューベルトの音楽を味わう喜びを実感させてくれる演奏である。

弱冠19歳で書き上げられたプーランクの「4手のためのソナタ」は,演奏時間10分足らずの短い作品だが,小品を3曲セットにしたシンプルな音楽。この曲もプーランクのピアニズムがあふれる,少々エキセントリックなところがあるものの,民謡風の旋律を展開していく,気の利いた魅力的な名品。この作品でもルーカスとアルトゥーロの2人は,作曲家がどのような才能に恵まれたいたのかを明らかにするような理知的な演奏を繰り広げる。

「夜 作品68」は,トルコ出身のピアニスト,ファジル・サイがユッセン兄弟の委嘱で書いた作品。深い闇に閉ざされた夜の雰囲気と心の奥底で蠢く情動を同期させたような不思議な作風の音楽。ラヴェルの作品とも通底する側面を持つ音楽で,リサイタルの方向転換を図るには絶好の選曲といえる。

友人の2人の子どものためにラヴェルが書いた「マ・メール・ロワ」は明瞭で精密な作品ではあるものの,それほど高度な演奏技術が求められる作品ではない。しかし,ラヴェルが自分の作曲技法のエッセンスだけを用いて書いた,得も言われぬほどの静謐さに包まれた洗練の極みを行くような作品である。ユッセン兄弟は,この作品の輪郭をやや強めの音で際立たせるように弾く。ラヴェルの作品の明晰さを表現するために,この演奏スタイルを選んだことはわかるが,明晰ではあってももう少し静かな叙情を強調しても良かったのではなかろうか。

ルーカスとアルトゥーロは,傑出した音楽的才能と兄弟ならではの同質性を存分に生かして,見事というほかないピアノ・デュオを聴かせてくれた。ステージに登場する際,そして1曲引き終わってステージの袖へ下がるとき,両手を振りながら歩く仕草さえもシンクロしているようで,初心者が作ったアニメのようで可笑しかった。リサイタルの最中ということもあって,彼らの頭の中では,全てが連動しているのだろう。ピアノ・デュオの醍醐味を教えてくれたこの二人に感謝する。
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