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2019年11月23日21:59

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クリスチャン・ヤルヴィ&MDRライプツィヒ放送交響楽団

【プログラム】

1 J.S.バッハ: 管弦楽組曲 第3番 ニ長調 BWV1068より”序曲”(メンデルスゾーン編)
2 メンデルスゾーン: ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 Op.64
3 ベートーヴェン: 交響曲 第5番 ハ短調「運命」Op.67

(アンコール)
滝廉太郎: 荒城の月(ソリスト)
ベートーヴェン: カヴァティーナ(オーケストラ)

アン・アキコ・マイヤース(ヴァイオリン独奏)
MDRライプツィヒ放送交響楽団(管弦楽)
クリスチャン・ヤルヴィ(指揮)

2019年10月27日(日),16:00開演,札幌コンサートホール


クリスチャン・ヤルヴィとMDRライプツィヒ放送交響楽団の札幌公演で,ソリストはアン・アキコ・マイヤース。言うまでもなく指揮者は音楽一家の出身で,父はネーメ,兄はパーヴォ。エストニアに生まれ,アメリカで育つ。オーケストラの正式名称はMDR交響楽団(MDR Sinfonieorchester)で,旧称ライプツィヒ放送交響楽団。東西ドイツ統合後,ライプツィヒ放送フィルを併合し,オーケストラの名称も変わる。MDRライプツィヒ放送交響楽団は英語表記のオーケストラ名。そして,アン・アキコ・マイヤースはドイツ系アメリカ人の父と日本人画家の母の間にサンディエゴで生まれる。艶やかでピュアな美音と卓越したテクニックで,情熱的かつ気品あふれる演奏が特徴。ウィントン・マルサリスや坂本龍一などとも共演。ファッション・ブランドのモデルを務めるほど容姿に恵まれたヴァイオリニストでもある。

プログラムはまるで典型的な名曲コンサート。今回の日本ツアーのもう一つのプログラムもブラームスの交響曲第2番とベートーヴェンの「運命」で,こちらもほぼ名曲コンサートのような曲目。こうした選曲の真意は図りかねるが,古典的な曲目で真っ向勝負を挑んできたということだろうか。しかしながら,管弦楽組曲第3番の「序曲」,メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲そして「運命」のプログラミングで何を来場者に訴えたかったのかよくわからない演奏会だった。演奏曲目のコンセプトが曖昧になってしまったにしろ,あるいは明確なコンセプトを演奏で表現できなかったにしろ,前音楽監督のクリスチャン・ヤルヴィの技術的なレヴェルを超えた音楽的力量が問われるのではなかろうか。そもそも,海外オーケストラの日本ツアーの意義が問われかねない公演である。

とはいえ,ソリストもオーケストラも,音のクオリティの点では目覚ましい水準の演奏を披露してくれた。アン・アキコ・マイヤースは美音が特徴のヴァイオリニストだ。彼女の音は艶やかで透明感があり,濃厚な味わいにも事欠かない。当然,すっきりとした現代風の演奏技術の持ち主であり,独特の美しい気品をたたえるヴァイオリンである。メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲も悪くはないが,彼女のヴァイオリン独奏で後期ロマン派以降の作品を聴いてきみたくなる。たとえば,コルンゴルトやバーバー,シベリウスでもいいし,ベルクのコンチェルトをどう弾くのかも興味がわく。こうした作品の演奏でアン・アキコ・マイヤースの本領が発揮されるような気がする。

クリスチャン・ヤルヴィが指揮するMDRライプツィヒ放送交響楽団も巧いオーケストラだ。聴き慣れた地元のオーケストラと比べると,アーティキュレーションの次元が違う。より音楽的な演奏であり,より透明で明晰な演奏ができる団体である。指揮者のせいもあってか,ドイツ的な音がアメリカ風の響きに近づいているようだ。巧いと感じるのは,放送交響楽団だからということもあるのだろう。このコンビで何を聴いてみたいか問われて即答するのは難しいが,緻密なテクスチャーの作品を聴いてみたい。ブラームスなら交響曲第4番。でも,彫琢が浅くて失望する可能性もある。もう一度聴く機会があるなら,別の指揮者で聴いてみたいオーケストラだ。

国内オーケストラの水準が向上し,意欲的なプログラムを取り上げるようになった現在,果たしてこのような公演を開催することにどれ程の意義があるのか問われるコンサートである。ただ外国のオーケストラというだけで,しかも名曲コンサートのようなプログラムで演奏会を実施する意味があるのだろうか。しかも,チケット代は割高である。このような公演は,海外オーケストラのコンサート不要論が勢いを増すことに貢献しかねない。海外の演奏団体による演奏だというだけで有難がられる時代は過去のものになった。この指揮者,この独奏者,この演奏団体,そしてこのプログラムで,何を聴衆にアピールするのか,コンセプトが明瞭な演奏会を行う必要がますます大きくなってゆくに違いない。
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