50ｍ走

　日本の学校に体験入学中のことだ。
　夏休み前の2週間だったから、水泳が毎日のようにあるのかと思っていたら違っていて、水泳はもう成績をつけたしまったとかで、体育は運動会へ向けてのリレー選手選びをやっていた。
　そこで藤吾さんは、生まれて初めてタイムを取って走った。

　帰ってきてすぐ、「僕一番だったよ。」
　藤吾さんはいつも、この「僕一番だったよ。」を言うが、私は話半分に聞くようにはしている。「そう、よかったね。」と言うと、「僕が運動会までいられんから残念って、先生も言うたよ。僕は9.0秒。」9.0と言いながら、むしむしとうれしそうに笑っている。
　小学4年生で50ｍ走9.0秒は、速いのか、私には全然見当が付かないが、Ｋ小の藤吾さんのクラスでは、どうやら一番だったらしい。

　フランスでは、存在しないそういうことを、やれたのがよかった。運動会も行けたらものすごく燃えるんだろうな、藤吾さんは。