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2019年09月28日22:52

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グノー:歌劇「ファウスト」(ROH)

演出: デイヴィッド・マクヴィカー
装置: チャールズ・エドワーズ
衣装: ブリギッテ・ライフェンストゥール
照明: ポール・コンスタブル

ファウスト: ヴィットリオ・グリゴーロ
メフィストフェレス: イルデブランド・ダルカンジェロ
マルグリート: レイチェル・ウィリス=ソレンセン
ワグナー: ジェルマン・E・アルカンタラ
ヴァランタン: ステファン・デグー
ジーベル: ジュリー・ボーリアン
マルト: キャロル・ウィルソン

合唱: ロイヤル・オペラ合唱団
管弦楽: ロイヤル・オペラハウス管弦楽団
指揮: アントニオ・パッパーノ

2019年9月15日(日),15:00開演,東京文化会館


英国ロイヤル・オペラハウス(ROH )の日本公演2日目は,グノーの「ファウスト」。この演目は,典型的なフランスのグランド・オペラで,聴覚と視覚の両方に明快に訴えるプロダクション。前日の「オテロ 」ほど集中力を要求されることはない。フランスの歴史画を眺めながら,グノーのロマンチックな旋律に耳を傾けるひととき。オペラの聴かせどころは,パステルから油絵具に画材を変更したごとく濃厚に表現していた。演出も具象的で,抽象を具象に変換する労力は要らない。そんなサービス精神満点のプロダクション。

演出は明快で分かりやすい。「ファウスト」の舞台は,華の都へと変貌を遂げる前のパリ。第1幕,ファウストがメフィストとの契約を結ぶ場面は,埃が積もった薄暗い書斎。メフィストがファウストを美青年に変えた途端明るく輝く室内に変わる。第2幕,マルグリートの兄,ヴァランタンが出征するシーンは華やかな街中。それに続くのは「キャバレー〈地獄〉」のカンカン踊りをまじえた享楽と退廃のシーン。第3幕はマルグリートが質素に暮らす下町の一画。豊かではないものの人々の生活の温もりを感じさせる室内の灯りが印象的。第4幕はマルグリートの兄など戦いへ赴いた兵士たちが帰還する場面。下町のアパルトマンから灯りがこぼれ,ホッとした兵士たちの心情を描いているよう。第5幕はワルギプスの夜。ファウストは幻想の世界にいる。そこへ子供を殺した罪で牢獄に繋がれたマルグリートの姿が出現する。一緒に逃げることを促すファウストを振り切って,マルグリートの魂は天へ昇る。舞台美術だけで物語を過不足なく手際良く描いてゆく。

音楽も聴かせどころでは,ロマンチシズムが効果的に強調される。ファウストの最初の聴かせどころ「私に快楽を!」(第1幕)では,グリゴーロが学問に人生を捧げたファウストの心境を流麗な旋律に乗せて情熱的に歌いあげる。第2幕,残してゆく妹を案じるヴァランタンの「祖国を離れる前に」胸に迫るものがある。ヴァランタンを友人たちが励ましているところにメフィストが割り込み「金の子牛」を歌い周囲を熱狂に巻き込むが,それがメフィストの馬脚を露わす結果に。ダルカンジェロが歌うメフィストフェレスは,最後まで悪魔の凄味に若干欠ける。第3幕,マルグリートの住居の前にやってきたファウストは「この清らかな住まい」でマルグリートへの愛慕の情を叙情的に歌い上げる。帰宅したマルグリートは,素朴なバラード風の「トゥーレの王の歌」でキャバレーで声をかけて来たファウストへの想いを静かに語る。第4幕は子を身ごもったマルグリートが教会で主に許しを請う厳粛な場面で始まる。その後一転して故郷への帰還を喜ぶ兵士たちは,合唱「武器を捨てよう」を軽快かつ勇壮に高らかに歌う。第5幕はハルツ山地に魔女たちが集まり乱痴気騒ぎを繰り返すワルギプスの夜。そこへファウストが連れて来られ,メフィストはファウストの願いどおり,子殺しの罪で処刑を待つマルグリートの元へ。そこで,ファウストとマルグリートは情熱的な愛の二重唱「わが心は恐れでいっぱいだ」で幸せな思い出を甘美に歌う。次いで,一緒に逃げるよう急き立てるファウストやメフィストフェレスとそれを拒み神に救いを求めるマルグリートの緊迫した三重唱「早く,早く!」のあと,安らかな鐘が響き渡りマルグリートの魂は救済される。

イギリスのオペラ・ハウスが手掛けたフランス・オペラらしく,中庸を得たオーソドックスな「ファウスト」だ。とは言え,聴かせどころに差しかかると,濃厚なロマンチシズムを帯びた甘美な旋律が際立つ演奏である。これはイギリスのオペラ・ハウスらしからぬ予想外の出来事だった。
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