下記は、2019.2.28 付の JBpress に寄稿した、玉置 直司 氏の記事です。
記
2019年2月27日、ベトナムのハノイで2度目の米朝首相会談が開催された。
北朝鮮の動向は韓国にとっても死活問題で大きな関心を呼んでいる。もう1つ、韓国では、「ベトナム開催」も大きな話題と関心を集めている。
2017年の文在寅(ムン・ジェイン=1953年生)政権発足以来、韓国政府にとって外交安保上の最大の関心事は圧倒的に「北朝鮮」だ。
北朝鮮が韓国や米国との対話に動き、目の前の安保上の危機が当面回避できていることを評価する声は、進歩系保守系を問わず、韓国でも多い。
どこの国と仲が良いのか?
その一方で、中国、日本、米国と韓国との関係は以前ほど良好とはいえないことへの懸念も根強い。
今年初め、筆者は、閣僚経験者や企業経営者との会食でこう聞いたことがある。
「韓国と仲が良い国が減っているようですが、韓国はどこの国と一番、仲が良いのですかね?」
全員が、躊躇せず同じ答えだったのには驚かされた。
「ベトナムですね!」だったのだ。
韓国とベトナムの接近ぶりは、確かに目を見張るほどだ。
韓国は、もともとベトナム共和国(南ベトナム)と国交があり、米国政府の要請を受けて1964年から8年間、ベトナム戦争に参戦した経験もある。
30万人以上の軍人がベトナムに行った。同時に、輸送、後方支援などのために企業も多く進出した。
貴重なドルをこのときに稼ぎ、その後、財閥に成長した韓国企業もある。
このときの韓国軍の虐殺行為などもあって、ベトナム統一後は関係は途絶えていた。
1992年、国交回復を機に関係が急速に進展
ところが、韓国が当時の「東側諸国」との関係改善に動いた「北方外交」の一環で、1992年に国交を回復すると、急速に関係が緊密になった。
特に2000年以降は、ベトナム政府の外資誘致策に乗って韓国企業がものすごい勢いで進出したのだ。
ベトナムへの直接投資額では、2017年以降日本が2年連続で1位になったが、累積投資額では韓国は上回っている。
現在、ベトナムに進出している韓国企業数は、6000社以上だという。
12兆ウォン(1円=10ウォン)を投資し、15万人を雇用するサムスン電子の携帯電話機工場、家電工場、LG電子の家電工場、ポスコの製鉄所などもあるが、多くは中小企業が進出している。
韓国企業はベトナムで70万〜80万人を雇用しているとの統計がある。シンクタンクによっては100万人に達しているとの数字もある。
ベトナムの輸出の25%を稼ぐサムスン電子
ベトナムの全輸出額の25%をサムスン電子が占める。韓国企業全体では30%を超えていると見られる。
ベトナム経済に対する韓国企業の貢献度はそれどけ大きいのだ。貿易に占める比重も高い。
2018年の韓国の輸出先の国・地域別順位を見ると、1位中国、2位米国だが、3位はベトナム(486億ドル)なのだ。日本は305億ドルで5位だった。
輸入先でも、ベトナムは7位(196億ドル)だ。人の交流も活発だ。
ベトナム在住の韓国人は、ホーチミンに12万人、ハノイに5万以上、その他を合わせると20万人近い。
逆に、韓国在住のベトナム人も20万人近くに達している。
韓国からベトナムへの観光客数も2018年には300万人を超えた。ベトナム在住の韓国人は、企業の駐在員や家族のほか、飲食店などの経営する自営業者も数が多い。
国際結婚、サッカー、韓流ブームも
韓国に在住するベトナム人は、留学生、研修生が多いが、これと並んで韓国人と結婚したベトナム人女性がかなりいる。
特に、結婚相手不足が深刻な農村地域にはベトナム人の妻を迎える例が多い。
ベトナムに行くと、韓国企業の看板や食堂が目立つ。
サッカー男子代表チームが2018年の東南アジア選手権(スズキカップ)で優勝し、アジアカップでも好成績を残したことで韓国人の朴桓緒(パク・ハンソ)監督の人気も高い。
韓国ドラマやKポップの人気も高い。こうした見ると、ベトナムは韓国にとって、「心地よいパートナー」なのだ。
そんな国で開かれる米朝首脳会談だから、関心はさらに高い。
「金正恩委員長はサムスン電子の工場を視察するのか?」
先週以来、韓国メディアでは、大きな関心事になっている。
韓国政府も産業界も、北朝鮮が改革路線に踏み出すことを期待している。そのモデルが韓国との関係が強いベトナムの改革開放路線になってほしい。
ベトナムの外資誘致策の成功事例がサムスン電子だ。サムスン電子の携帯電話機工場は、ハノイから車で約1時間。
金正恩委員長が視察すれば、韓国で北朝鮮の経済改革路線への期待感がさらに膨らむことは間違いない。
2月26日、金正恩委員長がベトナム入りしてハノイに向かった。空いている時間が多く、サムスン電子の工場を視察するのではという憶測が飛び交った。
27日現在では、米朝首脳会談後のベトナム訪問の際に、サムスンやLGの工場に行くのではという報道も増えている。
休戦ラインをはさんで北朝鮮と向き合っている韓国にとって、軍事的緊張緩和は切実だ。これを超えて経済協力を進めたいというのが今の政府の立場だ。
その重要なステップになる米朝首脳会談。たたでさえ期待値が上がるが、ベトナム開催でさらに関心が高まるのは理解できなくもない。
期待値は高いが…
とはいえ、そんなに北朝鮮の経済路線の転換がとんとん拍子に進むのか?
韓国の大企業幹部は、「米朝首脳会談の中身次第だが、経済制裁の大幅緩和、北朝鮮の経済路線転換、が一気に進むと予想する声は少ない。ベトナムが韓国企業を誘致して成功したからといって、南北経済交流が進むという期待も、先走りすぎだ」と話す。
ベトナムと韓国との経済関係に詳しい大学教授は、こんな懸念も口にする。
「直接投資額では2017年以降2年続けて日本に逆転された。韓国企業歓迎一色だったベトナム政府だが、最近、『韓国企業がたくさん進出して、雇用や輸出は増えたが、技術移転や周辺産業の育成につながっていない』との不満もよく聞くようになった」
「ベトナムに進出した韓国企業のほとんどが、安くて優秀な人材を目当てにきた中小企業だ。いまのような良好な関係がいつまで続くのか」
米朝首脳会談という歴史的な出来事のベトナム開催を韓国では歓迎する雰囲気がシンガポールでの首脳会談時よりも強い。
だが、宴の後に何が残るのか?
米朝関係とともに、ベトナムと韓国との今後の関係も注目だ。
https://www.msn.com/ja-jp/news/money/%e9%87%91%e6%ad%a3%e6%81%a9%e5%a7%94%e5%93%a1%e9%95%b7%e3%81%af%e3%82%b5%e3%83%a0%e3%82%b9%e3%83%b3%e5%b7%a5%e5%a0%b4%e3%82%92%e8%a6%96%e5%af%9f%e3%81%99%e3%82%8b%e3%81%ae%e3%81%8b%e3%80%81%e3%81%8c%e8%a9%b1%e9%a1%8c/ar-BBUaBlP#page=2
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