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2019年02月18日12:32

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北方領土 「日本固有」となぜ言えないのか 木村汎氏

 下記は、2019.2.18 付の 【iRONNA発】 です。

                        記

 北方四島はわが国固有の領土である。にもかかわらず、最近の安倍晋三首相は「不法占拠」された事実を意図的に封印し、ロシア側に一方的に配慮する。交渉事とはいえ、ロシアの言い分を丸のみして大丈夫なのか。

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 毎年2月7日には、北方領土の返還を求める全国大会が催される。今年は、重大な変化が起きた。同大会を主催する官民団体が採択する大会アピールから、なんと「北方四島が不法に占拠されている」という事実を述べた文章が削除されたのである。同大会で最重要の安倍首相のスピーチにも「日本固有の領土」という言葉がなかった。

 これは現在進行中の日露平和条約交渉に対する影響を考慮しての決断と推測される。もしそうだとしたら、とんでもない思い違いである。逆効果だろう。それは、ロシア側に向かって誤解を招く誤ったメッセージを送るばかりか、日本側にとっても致命的な外交行為にさえなりかねない。

「戦争結果不動論」

 現プーチン政権は、国境線の決定問題に関して「戦争結果不動論」の立場を取っている。すなわち、国家間の国境線は国際法でなく、武力闘争の結果として決まる。現日露間の国境も先の大戦でソ連が北方四島の軍事占拠に成功したことによって決定した。プーチン大統領の忠実な部下、ラブロフ外相は昨年、両国間で平和条約交渉が本格化して以来、口を開くと必ず「もし交渉を進めたいのであれば、日本側は第二次大戦の結果を認めることが何よりの先決事項」と説く。

 戦争が国境線を決める。これは、野蛮、危険かつ間違った考えである。国境線を決めるのは、戦闘行為でなく、あくまで国際法であるべきだ。さもないと、際限なく戦争が起こるのを防止し得なくなる。

 そのような戦争の「負の連鎖」に終止符を打とうとして、連合国は大戦終結前後に領土不拡大の原則に同意した。「大西洋憲章」「カイロ宣言」「ポツダム宣言」「国連憲章」の条文がそうである。もとより、スターリン下のソ連も、これら全ての条約、協定、申し合わせに同意し、署名した。米国はこの原則を守り、軍事占領した沖縄を日本へ戻した。

 にもかかわらず、スターリン下のソ連は、国際法、その他あらゆる諸条約に違反して、北方領土を軍事占領した。他国領土の軍事的占領は、その領域に対する主権の取得を意味しない。米国、日本、全ての諸国は、このことを承知している。だが、ロシアだけが北方領土の軍事占領=同地域の主権の入手とみなす。これが法律上通用しないことは、占有権と所有権が異なる2つの概念であることからも自明の理であろう。

一方的譲歩は逆効果

 ロシアは、戦後70年以上にもわたって日本の「固有の領土」である「北方四島」を「不法占拠中」である。現ロシア指導部がいささかでも、法律が何たるかを理解しているならば、日本に対してその不法行為をわび、七十余年間分の賃貸料もつけて直ちに返還すべき筋合いのはずである。ところが、プーチン大統領も、ラブロフ外相も、同領土が「大戦の結果、ロシアの主権下に移った」と強弁する。

 もし彼らの主張を、たとえ一部でも間接的にでも認めるならば、どうであろう。日本政府は、ロシア主権下の領土を、ロシア政府の特別の好意によって日本へ引き渡してもらうことになる。

 北方領土の主権は依然、ロシアに残り、日本側に引き渡すのは施政権だけである。また、そのような引き渡しすら即時ではない。周辺の排他的経済水域(EEZ)すら、日本へ引き渡すとは限らない。ましてや、同地域に米軍基地を設置するなど問題外。ロシア側はこのように主張するかもしれない。

 ロシア人は、席を憤然と蹴って交渉会場を後にする毅然(きぜん)とした相手との間に初めて真剣な話し合いを行う。ところが、安倍首相は「己とプーチン氏の間で必ずや平和条約を結ぶ」と交渉のデッドライン(期限)を設け、実際次から次へと一方的な譲歩を行う。そのような人物とは決して真剣に交渉しようとは思わないのがロシア外交の本質である。

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【プロフィル】木村汎

 きむら・ひろし 北海道大名誉教授。1936年、京城(現ソウル)生まれ。京都大法学部卒。米コロンビア大Ph.D。北大、国際日本文化センター教授を経て、現職。著書に『プーチンとロシア人』(産経新聞出版)、『プーチン−外交的考察』(藤原書店)など多数。

 https://www.sankei.com/premium/news/190218/prm1902180009-n1.html
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