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2019年02月17日09:38

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『ともしび』感想

「まぼろし」「さざなみ」のシャーロット・ランプリングが、2017年・第74回ベネチア国際映画祭で主演女優賞を受賞したドラマ。ベルギーの地方都市を舞台に、人生も終盤に差しかかった主人公の女性が、さまざまな業を背負い、もう一度「生きなおす」までの悲しみや決意を描いたミステリードラマ。ベルギーのある小さな都市で、夫とともに慎ましやかな生活を送っていたアンナだったが、夫が犯したある罪により、穏やかだった生活の歯車が少しずつ狂い始めていく。やがてその狂いは、見逃せないほど大きなものとなっていき……。共演に「ル・アーヴルの靴みがき」のアンドレ・ウィルム。監督はイタリア出身のアンドレア・パラオロ。

自分の記憶用のために、内容をかなり詳細に書いてます。これから観賞予定の方はご注意下さい！

いやあ～、まさに、私好みの作品でした。
見入った、ハマった、前のめりになった。
93分のこの作品、台詞は本当、少ないです。
でも、でも、もう、あちこちの描写が素晴らしくて、痺れまくり！！！

覚えている順番にあれこれ書いていきますが、記憶違いもあるかもなので、そこはごめんなさい

冒頭は、いきなりシャーロット・ランプリング演じるアンナの奇声から。
これ、演劇クラスみたいな集まりっていうのは、すぐにわかりますが、いや、もう、最初から「キターっ！」ってなりましたね、私。

次が夫との無言での夕食場面なんですが、いきなり食卓の電球が切れるんです。
で、夫が淡々と

を交換する映像が丸ごと入ります。
その間、アンナは黙々と食事を続けています。
それぞれの役割。こうやって、長く夫婦生活をやってきた。薄暗く、そして、沈黙の理由。。。

翌日（？）、夫が自ら警察に出頭して、そのまま収監。
（どういう犯罪を犯したか？なんですが・・・具合的には示されていません。ただ、ある台詞から、なんとなく子供に悪さをしたのでは？という推測を私はしてました）

そこから、アンナの1人になった日常が、さりげなく、でも、鋭く描かれてゆく。
その不安といらだち、孤独、哀しみ・・・。

1人になったアンナが作る２個の目玉焼きのぐちゃ具合。

アンナの家政婦の仕事場は、豪奢な家。若くて美しき母親と知的障害者の息子がいる。
息子はアンナの事情等が全くわかっていないので、いつもと変わらず接してくれる。

会員制プールで、体と心を癒せるはずが、目の前に騒がしく飛び込んでくる子供たち。
そして、帰り際、受付で例の夫の犯罪ゆえか「もう利用はできません」と言われてしまう。

水が印象的に使われているのはこのプールだけではない。
アンナが住んでいる部屋の上の階からオレンジ色の水漏れ。天井にそのシミ。
（そのシミ箇所の修復のため、動かしたタンスの裏に、夫が犯してしまった罪の証拠のブツが見つかる）

孫の誕生日に、手作りバースデーケーキ（と百合の花）を持参して会いにいくが、息子に無下に追い返されてします。

何度も出てくる駅の風景。
最初の方で、アンナが数秒立ち尽くしている駅構内での背後の２つの絵画がいい。
左にはたくさんの四角形ばかりが集められている無機質な絵＝表向きはをなんとか平静を装っているアンナの姿。。
右にはちぎり絵＝張り裂けんばかりのアンナの本当の心情。

電車内で起こる２つの出来事。
①若いカップルの口喧嘩。スクリーンに現れるのは、女性（だったはず）のみ。
彼女が散々叫んで電車を降りた後、アンナが相手の男性（のはず）にふと目をやる場面がいい。
②黒人男性が何やら歌ってた？いや、何かを演じてた？場面

様々な「枠」にはまるアンナ
・息子には内緒で、孫の姿を一目見るために幼稚園（小学校？）に行くのだが、最後にその門にアンナの顔が挟まれたように映るショット
・インテリアを使った似たような描写もあった。ブラインドの開け閉め。アコーディオンカーテン。それぞれ区切られたような枠がある
・家政婦宅の階段は、スケルトン。そこに例の息子が不思議な恰好（階段にはさまっているかのような姿）で寝そべっている

あちこちで「挟まれたような描写」
これはまさに、アンナの置かれた状況以外の何物でもない。

アンナが身にまとう異なる３つの柄のスカーフ

あとは、犬。夫にかなり懐いていたと思われる犬とアンナの絡み。
自分がご飯をあげても、全く食べようとしない。
最終的には、別の飼い主を探すことに。（新しい飼い主の子供が知的障害者←多分・・・）

アンナがスクリーンの中心にくることはほとんどなかったような。
右にアンナ、左がアコーディオンカーテン。
右にアンナ、左に何か家具。
アンナを、あえて真ん中にもってこなかった意図もわかりすぎるほどわかる。

カメラの横移動。部屋から部屋へ。通路から通路へ。。。
駅でも横移動あったかな。自分の居場所がわからなくなる。息がつまる。

それらが凝縮されたのが、終盤、アンナがクジラが打ち上げられた浜辺に向かう場面。
モノクロめいたグレーの色彩。背後には生気があまり感じられない建物が連なる。
このクジラがこの作品の最大のメタファーであることは明らか。
（この事件については、家政婦宅の少年がニュースを新聞で読んでアンナに教えてあげてくれている）
今にも死んでしまいそうな浜辺に打ち上げられたクジラを、なんとか助けようと、水がかけられている。。。
そこでアンナは何を思った？

ラストシーン、駅に入り、階段を下って、下って、下って・・・ずっとアンナを追い続けるカメラ。
そして、いきなり映画は終わる。
（すみません、このラスト、思い切り油断してて、まさか、こんなところで終わるって思っていなかったので、何かを見逃してしまっているかも！！！）

言葉少なくとも、数々の見事な描写で、アンナの心理＆置かれている状況をどんどん伝えてくれる。
自分でもビックリなんですが、観賞直後いくつかメモはしていたものの、この日記を書いているうちに、次から次へと場面が蘇ってきたという。
こんな事、記憶力が悪い私には、滅多に起こらないですよ