貴乃花引退事件で、今まで特に興味もないのでみていなかった角界の場外乱闘を調べてみようと思っていたら、「週刊文春」が「文春ムック」として貴を中心とした角界の事件史をまとめたものを出版していた。
さすが悪名高き文春・・とさっそく買って読んでみた。
そこには、当然のごとく、2007年の時津風部屋で起こった、親方と兄弟子たちによる時太山のリンチ死亡事件のあらましが載っていた。
当時はあまりに凄惨な事件のため、目を背けていたのだが、改めて記事を読んでみる。
文春によると、前時津風親方は、５回はビール瓶で殴りつけ額を割っただけでなく顔面もビール瓶で殴った、とし、鼻が折れ鼻血が噴出した顔を踏みつけ「このクソガキ！」と唾を吐き掛け、兄弟子たちに「お前らもやってやれ」といった、とある。
それ以外の行為も、鬼畜の限りの行為をやったような書かれ方で、これではまるで綾瀬の女子高生コンクリ事件のような日本猟奇犯罪史に残るような事件じゃないかと思ってしまう。
いくらなんでも、大勢が関与し世間の目もある相撲部屋で、仮にも部屋を預かる親方がそんなことするか？と思った。
ただ全身傷だらけ、痣だらけの体で多発外傷性ショックで亡くなったので、何らかの暴力は振るわれていたことは事実なんだろうなと思う。
なお、事件のあらましは、ウィキペディアに載っているのでそちらを参照されたい。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%99%82%E6%B4%A5%E9%A2%A8%E9%83%A8%E5%B1%8B%E5%8A%9B%E5%A3%AB%E6%9A%B4%E8%A1%8C%E6%AD%BB%E4%BA%8B%E4%BB%B6
で、思い出したのが、前時津風親方が、事件のことを釈明した告白本があったなーということ。たしか事件の３年後くらいに出版されていた。
前時津風親方は、実は懲役５年の実刑判決を受けたのだが、2014年の服役中に肺癌だったかで亡くなっている。今更蒸し返すのもという感は否めないが、その本を読んでみたくなった。
まーすでにそのての本というのは、一時のブームで出されるため、当然、普通の本屋では既に絶版になっていることと思い、Amazonで探してみたら、やはりありました。さすがAmazon。
『悪者扱い』というタイトルで、第十五代時津風親方（山本順一）と、本名で出版されている。しかも出版は竹書房。さすがこの人の告白本を出せるのは、竹書房くらいかな・・と思わせる。
早速購入。非常に興味深く読むことができた。
これは、前親方の角界入りの経歴から始まり、大相撲八百長問題なども取り上げており、事件の告白のみではなかったことに驚いた。
親方（記述がめんどいんで今後、前時津風親方の呼び方は「親方」で統一します）は、室蘭出身の力士で昭和38年頃、中学生の時に時津風部屋に入門。双津竜という四股名で、最高位は小結。同時代には、先代貴乃花や北の湖、輪島などの早々たるメンバーがいて、相撲が最も華やいでいた時代の力士である。
本人は、コツコツ努力型の力士であり、大きく才能があるわけでもないが、逃げずに努力していくことでそこそこだいたいにまではなったという感じかな。まー角界に入門して、三役までいければ大したもんなんだが。
それに、相撲に対する愛情が深く、その相撲人生では結構嫌な思いもしてきたが、それでも相撲の世界に関与していたいという人。
引退後も特に人望があるわけではなく、借金してまで年寄株を買い、時津風部屋にしがみついたことにより、幸運もあって時津風部屋を継承することができた。
ただ、親方は哀しいまで愚直で、頭悪く器量が小さく人望がない感じが文章からあふれ出ているというのが正直な感想。しかし、人間は悪くない。どちらかというと小心者で、悪いことなんかできないタイプ。
八百長にしても、正直に「やった」と言い、八百長はやはり角界のような狭い世界だと、当然のように沸いてくるもんなんだが、過去にやった八百長については、後悔の念しか残らないという。その一勝が胸を晴れるものではないし、仮に負けるほうに加担したにせよ、後味の悪さしか残らないというようなことを言っているが、これも多分偽らざる心情だろう。
事件の告白の中では、弟子たちのことも愚痴っぽく批判していたりもするんだが、これもまあ小心者らしい。こういうリーダーなんて結構いるし、貴乃花だって似たり寄ったりだ。
まあ良く考えてみりゃ中学から相撲の世界に入り、その世界しか知らずに生きてきているわけだから、相撲道だなんだいったって所詮はムラ社会でピーチクパーチクやっているようなもので、厳しい世界で修行を積んだといって、人徳も素晴らしい人たちだなんて、そりゃー外野の勝手な妄想だろう。
それこそ日本相撲協会の面々を見ればわかるじゃないか。誰がそんな人格者？結局、あそこに残る人たちって、番付上位だった人たちばかりだから所詮はお山の大将の集まりでしかない。
時津風親方も、まあ典型的な相撲人だなってとこ。最高位が小結しかも一場所だけってのも、なんかね。横綱、大関だった人たちが主流の相撲協会にあって、小物感もいなめない。
で、事件についてなんだが、死亡した時太山って、4月に入門して6月に亡くなっている。3ヶ月ももたなかった。
元々は、本人は全くやる気がないのに、父親や親戚に無理やり入門させられた。
それはよくある話なんだろうが、親方や兄弟子に挨拶に行ったときでも、シャキっとした返事もせずに、モゴモゴなんか言うだけ。
稽古もほとんどせず、何度か脱走をしている。
報道では、辞めたいのに辞めさせてもらえず、やむなく脱走を試みたが、見つかって連れ戻されリンチされたみたいなことが言われていたが、親方の発言を信じるのであれば、
脱走したが実家の父親に連れ戻された⇒親方は今後こういうことをされても困るから、本人がやる気ないのなら連れ帰ってくれと言った⇒しかし父親は、土下座してまでいさせてくれと親方に頼んだ
となっている。
これ、文章で読むと穏やかな語り口っぽいのだが、実際は親方ももっと威圧的に言ったことだろう。しかし、内容は親方の言うことは筋が通っているし、このこと自体も嘘ではないと思う。
つまり相当困った親子だったわけだ。
もちろん、稽古も生活面も並外れて厳しい角界のこと。時太山がこのような態度を続けていたら先輩からヤキが入るのは火を見るより明らかである。
ここで普通の感覚なら、おっかない兄弟子からヤキ入れられないように何とかしようとする。
しかし時太山は、火に油を注ぐごとく、禁止されている部屋の屋上とか近所の空き地で喫煙し、近所からクレームがくるわ、稽古は無気力だわ（やっているフリさえもない）、挙句に脱走を繰り返すわ、親方の感情を逆撫でするような発言をするわ。
これはもう、わざとというより、恐らく時太山は発達障害だったのだろうと思う。
注意力欠乏のＡＤＨＤか、相手の感情や場の空気を読めないアスペルガーあたりじゃないかと想像する。
でまあ、父親が何が何でも部屋に留め置こうとしたのは、家でも持て余すような子供だったのだろう。
ちょっと異様だったのが、最後の脱走を試みたときに、父親に電話した内容が
「いいこにするから家に帰らせてください」
という発言。これ、17歳くらいの男の子が言うセリフではない。「いいこにするから」に妙に引っかかるんだが、これって例えば家庭内暴力が激しかったとか、すぐに警察沙汰になってしまうようなことしでかすとかで、親としては、差し詰め戸塚ヨットスクールにでも入れるように子供を相撲部屋に入れたのではないかと疑ってしまう。
まあそんな事例も過去には多くあったと思うが、時太山の場合は、いくらひどい目にあっても全く変わらないということ。
これは、僕が推測するように発達障害だったら、変わりようがないのだ。本人は何故ヤキ入れられるのか全く理解できないから。
んで、ちょっと総論めいたことになるが、いくつかの不幸が重なった事件じゃないかなと思った。
親方の著書は、もちろん公表できない肝腎なことは書いてないとは思うが、全面的に否定はできない。ここで嘘言ってもしょうがないし、メディアが作り上げた極悪な人間だとは文面からではとても想像できない。何よりも自分を演出して実物より良く見せるような器用さは持ち合わせていないどころか、それがなさすぎて事件を一身に背負わされることになってしまったという、むしろ「なんでそこまで要領悪いの？」タイプである。
それを前提として、この『悪者扱い』を読んで思ったこと。
�〇猖瓦靴浸�太山は発達障害の疑いがあること
これは上記の通り。
命をも落としかねないくらい厳しい相撲部屋で、ここまで親方、兄弟子をはじめとした関係者の怒りを誘ってしまう性質は、恐らく致命的だろうし、父親がそうなる結果を想像できずに、親としての責任を放棄してしまった無責任さも不幸の原因であろう。
�⊃栃�の人望のなさ、器量の小ささ
兄弟子たちによるリンチはあったし、結果的にそれが原因で死亡したのは事実だと思う。
ただ、メディアが書きたてたように、それが全て親方の指示か？といわれると、親方の弁明のように「そりゃー違うだろー」と思わざるを得ない。
恐らくなんだけど、兄弟子たちから暴力を受けていたことは親方は知っていたし、それを止めるように親方は注意した、というのも事実だろう。
だが、親方の人望のなさ故に、弟子たちは親方など軽んじているため、親方のツルの一声で暴行を止めることはしなかった。
また、親方も知ってはいたが、割って止めに入って、暴行をしている弟子から嫌われたり蔑まされたりするのも怖いのであえて黙認したのかもしれない。
「オイオイやめとけよ、やりすぎんなよ・・」くらいしか言わなかったんじゃないかな。
それに、本で弟子のことを愚痴っているくらいだから、他の弟子たちの前で時太山の愚痴を言ってた可能性もある。
「あいつよー。ホント勘弁してほしいよー。何とかしたってくれよ。根性叩きなおしてくれよー」くらいは言ったと思う。
で、所詮、相撲部屋に入門してくる奴らなんて、頭パップーの体だけはでかくて地元で悪張ってたような奴ばっかりだから、これを「親方からぶん殴っても良いという許可がでた！」と過大解釈して、暴行はエスカレートしていった。
親方自身、日頃から態度が酷すぎてムカついている奴が殴られているんだから、「いい薬だ、ざまあみろ」くらいは思っていたかもしれない。これほどの大惨事になるなんて想像も及ばずに・・
それが、結局、メディアが書きたてた「親方から指示された」ということなんだろう。
だいぶニュアンスが違うと思うんだが・・
�７残鏤劼燭舛僚乎張劵好謄蝓�
さて最も怖いのがこれ。通常リンチによる暴行致死事件というのは、だいたいが集団ヒステリーに陥った結果である。
多分、時太山はかなり兄弟子からの怒りを買っていて、ヤキを入れられたんだが、最初は加減していたと思う。まあ厳しい相撲の世界でありがちな、先輩から後輩へのヤキくらいで済んでいた程度だとは思う。
だが、ここで発達障害の時太山は、さらに追い討ちをかけて先輩を怒らせてしまう。
「あの野郎！まだわかってねえのか！！」
となり、次もヤキを入れる・・という具合にやっていって、次第に暴行はエスカレートしてきた。
そうなると、人間の加虐嗜好が芽生えてくるもので、暴行そのものが快楽になってきてしまったパターンじゃないだろうか。
そうなると、さほど関与してこなかった兄弟子も、集団ヒステリーにかかってしまい、「こいつぶん殴っていいんだ」みたいな倒錯した思いになってくる。
暴力を奮っていた兄弟子の１人が「死んでもいいと思った」と証言しているように、このままだと死んでしまう、死んでしまうと自分の人生も破綻する、という見境もつかなくなってくる集団心理である。
つまり、
被害者が他人を徹底して怒らせてしまう発達障害の性質があった⇒親方・兄弟子たちの怒りを買った⇒兄弟子たちに暴力を振るわれた⇒それに気づいているのに止められない器量の小さい親方⇒強く止める人がいないため暴力がエスカレートしていった
というなんとも不幸な構図である。
あってはならない事件だが、被害者も加害者も本当に不運としか言い様がない。
そして角界に約４０年、たいした魅力もなく才能もないながらも、ただひたすらに相撲のためにコツコツと真面目に仕事をこなしてきた、前時津風親方。その集大成が、異常な集団暴行殺人の鬼畜の親玉として世間に認識され、裁かれ、実刑判決をくらい、服役中に話題になることもなく、ひっそりと死亡した、という何とも哀れな結末だった。
時が流れ、いつか、前時津風親方−元小結・双津竜こと故・山本順一氏を、再び名誉回復させてやる日がくるのを、一相撲ファンとして、ひっそりと願っている。
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