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2018年09月26日21:38

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日本は「大人の国」になったか 金沢工業大学虎ノ門大学院教授・伊藤俊幸

 下記は、2018.9.26 付の【正論】です。

                       記

 ≪公表に踏み切った対潜水艦訓練≫

 今月17日、海上自衛隊は南シナ海で「9月13日に護衛艦部隊と潜水艦が対潜戦訓練を行った」と公表した。これまで海自は対潜訓練や潜水艦の行動については、ほとんど公表してこなかった。それは「隠密性の確保」が、潜水艦の存在意義そのものだからだ。筆者も潜水艦乗りだったが、「明日から出港する」と家を出ても「いつ帰る」とは家族にも伝えなかった。にもかかわらず公表に踏み切ったのは、これが「戦略的な情報発信」だったからだ。

 平成25年に日本政府が策定した「国家安全保障戦略」の「(日本国)内外における理解促進」の項目の中に、「官邸を司令塔として、政府一体となった統一的かつ戦略的な情報発信を行う」とある。今回はこれが行われたのだ。

 中国外務省の耿爽報道官は「現在、南シナ海の情勢は安定に向かっている。域外の関係国は慎重に行動し、地域の平和と安定を損なわないよう求める」と述べたにとどまった。人工島などの12カイリを意図的に通過する「航行の自由作戦」ではなく、九段線内の公海で行った訓練はそもそも中国に文句を言われる筋合いはない。

 しかし、中国を刺激することを見越した海自の公表は、国家安全保障局との綿密な事前調整によって行われたことは間違いない。

 今回の海自艦艇の活動は、「平成30年度インド太平洋方面派遣訓練」として、護衛艦かが、護衛艦いなづま、護衛艦すずつき、および搭載ヘリコプター5機、総勢800人からなる部隊が、8月26日から10月30日まで約2カ月間行う訓練航海の一環である。

 その間、インド、インドネシア、シンガポール、スリランカ、フィリピンを訪問し、各国海軍との共同訓練も行われる。この活動は8月21日に公表され、その目的の一つは「地域の平和と安定への寄与を図る」と明言している。活動地域は“自由で開かれたインド太平洋”の海域だ。

 ≪活動は米海軍とも調整ずみ≫

 太平洋軍からインド太平洋軍に名称を変更した米海軍空母部隊は、中国を意識しつつ半年間ずつ年間2交代で、この地域を遊弋(ゆうよく)するプレゼンス活動を行っている。

 今回の海自部隊は、同レベルの活動をしていると見ることもできる。当然、対外的にインパクトが大きい訓練実施の可否は、官邸や国家安全保障局と調整される。ちなみに同部隊にはテレビなどのメディアも同乗しているという。

 27年4月に策定された「日米防衛協力のための指針(ガイドライン)」には、「日本の平和及び安全の切れ目のない確保」のため、平時から緊急事態までのいかなる段階においても、日米調整メカニズムにより「柔軟に選択される抑止措置(FDO=Flexible Deterrent Options)」をとるとある。

 FDOは、国力の各要素(外交、軍事、経済、情報など)を駆使し、これを柔軟に運用することで紛争を抑止する方法論で、その手段の一つが「適切な経路を通じた戦略的な情報発信(IO=Information Operations)」だ。今回の活動も米海軍とは当然、調整されている。

 ちなみに「IO」という用語は、筆者が在米国防衛駐在官だった2000年頃から米軍で多用され、イラク戦争では記者を従軍させるエンベッド方式を採用して「正しい戦争」の宣伝に成功、「戦略的広報」とも呼ばれた。

 このように国家としての目的を果たすため、国力の各要素を政府内で一致(Synchronized)させ、統一的メッセージとして伝えることを「戦略的コミュニケーション」あるいは「コミュニケーション・シンクロナイゼーション」という。

 昨年4月以来、米国が採用している「あらゆる選択肢がテーブルの上に載っている」とする対北朝鮮政策や、尖閣諸島の日本国有化の際に、中国が日系企業の破壊や日本人の拘束、レアアースの禁輸などを日本に同時にぶつけてきたのもこれにあてはまる。

 ≪従来なら忖度して取りやめに≫

 日本の対外政策は一度友好ムードになると、たとえ相手国が間違っていても、なるべく刺激を避ける対応になりがちだった。特に日中友好の機運が高まり、来月には安倍晋三首相の訪中が予定される時期にあって、従来なら中国を刺激しかねないインド太平洋での活動・訓練は、各省などが“忖度(そんたく)”して取りやめになっていたかもしれない。

 そもそも大国同士は経済では相互依存の関係であっても、国際政治や国際法上間違っていることに対しては「堂々と伝える」ことができる「是々非々の関係」であるべきだ。

 南シナ海での中国の海洋政策が国際法違反であることは、仲裁裁判所による裁定のとおりだ。その中国の誤りを正すべく、日米豪印英仏の海軍が行動で示している。日本も「右手で握手し、左手でげんこつを握る」ことができる“大人の国”になったと評価すべきだろう。(いとう としゆき)
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 http://www.sankei.com/column/news/180926/clm1809260006-n1.html
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