アニキはいつ来るか分からない猫バスを、5時間待ってやっと乗り込んだ。
フワフワでヤワヤワの席は、なんとも不思議な乗り心地だった。
始発駅はどういうわけか、渋谷ハチ公前にある、緑電車のモニュメントだった。
その緑電車の中に入って、座席に座って待っていると、窓の外から猫バスが「おいでおいで」をして、ニヤーッとしたので、なんとか乗り込めた。
周りにいる人たちは誰も気づいていないようだったので、どうやら僕らは見えていないようだった。
こうした現象は、心のきれいな少年少女にしかみえないようだ。
ムフ♪
運転手から「あ〜ん？」と、行き先を聞かれたので、「七国山 よぼよぼの里」と答えると、バスは急旋回して、怪しい空へ旅立っていった。
15分ほど乗っていると、目的地のよぼよぼの里に着いたのだが、そこにはニコニコ顔のぐーちゃんが、傘をさして待っていた。
「アニキ〜ふんふんふん」
彼はいつもこうしてスリスリしてくるのだ。
「アニキも早くここへおいでよ」と、いつも言われているのだが、まだまだボクは自宅生活を続けたい。
こうして、時々訪問してあげないと、彼はとても淋しがるのだ。
今日は野外で納涼大会のはずだったが、台風とぶつかってしまったので、急きょ室内に変更して開催した。
スイカ割りやかき氷、とうもろこしにワタあめ、焼きそばにお好み焼きと屋台がならぶ。
普段はお酒厳禁だが、この日はビールだけは少し飲んでもいいことになっているので、入居者は久しぶりのアルコールに、みんなゴキゲンだ。
首に「たろう」というネームプレートをかけたおじいちゃんが、食堂のイスに腰かけて一杯やっていた。
「うまいねえ。久しぶりののど越しだよ。グラス一杯で酔っちゃいそうだよ」と、話していた。
胸にはかわいらしい青い鳥のアップリケがつけられていて、かなり下がった目じりが年を感じさせるが、ボケてはいないようだ。
「あれ！？こんなところにエレピがあるじゃない？」と、部屋の片隅にひっそりと置いてあったエレピをさわるのだが、音が出ない。
あぁ、たぶん弾きたいんだろうなと、ボクはそっとスイッチをONにしてあげた。
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