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2018年08月19日01:14

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8月18日

 久しぶりに親戚に会うと、体型の変化や加齢の軌跡がはっきりとあらわれて見える。まじまじと互いに見つめ合い、興味深くひとつひとつを確かめていく。共通する遺伝子が時を経てどういったところにたどりついたのか、自分と比較する。たとえばそこで自分だけがハゲていた場合、足をばたつかせて不公平を叫ぶだろうし、もし相手の人生が上手くいってなければ妙な優越をおぼえながらも心配する、という訳のわからない気持ちになる。一番近い味方でありながら、競技的な対象でもある不思議な存在だ。
 昨日、何年かぶりに親戚が一同に介する機会があった。そこでは、ぼくを含めたすべての男性たちが、もれなく頬が気色の悪い青髭におおわれていた。この因果な特色はすこしの不公平もなく、我が一族に分け与えられていた。まだ二十歳になる手前のいとこにも、その傾向がすでに目に見える形で現れている。この例外なき宿命的悲劇と向かい合い、ぼくたちは改めてこの青い沼地から抜け出せないことを痛感した。
 会食の席は、図られたように青髭が一列に並んだ。向かいの女子たちはその一種異様な光景を至近からうちながめて悲鳴をあげた。もとから配慮に欠けるところのある叔母にいたっては、グラタンにふりかかる細かいパセリと青髭を交互に指差して、「食欲が失せたわ」とほたえた。ぼくたちはそれには取り合わず沈黙し、伏し目がちに箸をすすめた。それぞれの想いは、青髭の祖先へと向けられた。見守っていただいている感謝とは別に、たゆまずに流れついたこの問題をどう受け止めればよいのか胸のうちで尋ねていた。
 喫煙所で男だけになると、髭剃り事情について近況をぼそぼそと報告し合った。とても高価で刃が何枚もついている電動髭剃りを購った人も何人かいた。でも結局は、T字カミソリがこの髭を刈り取るには一番適しているというのが共通した意見だった。みんなの頬っぺたには、漏れなく痛々しい傷跡が残されていた。やいばとの戦いに負けて血をながし、それが凝固して治癒する前にまた新しい朝がやってくる。みんな、終わることのない戦いに挑み、すり減り、くたびれ果てていた。
 誰かが涙目になりながら、自分たちは青の戦士だと言った。世界中でこの共通のギフトを認め合うことができるのは、ここしかないじゃないか。悲観なんかする必要はない。むしろお互いを褒め称えようぜ。だって、こんなに美しい青って他に見たことあるかよ。
 ぼくたちはその言葉に拍手をした。そこにはぼくたちにしか分かち合えない想いが確かにあった。なぜ頬っぺたから毛が生えるのかすこしだけわかったような気がする。血縁を越えた団結。ホモみたいな顔の男の掛け声が、一足早く訪れた秋の空によく響いた。
 
 
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