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2018年08月17日00:30

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8月16日

 心霊のことばかりしゃべって仕事がおろそかになる同僚がいる。彼女は霊的なものの輪郭を目でとらえることができるらしく、ときおり「そこにいるよ」などと唐突に言い出してぼくたちを怖がらせたりする。それが本当なのかはぼくには判断がつかない。でも勘の鋭い人にいたっては「だからさっきから寒気がするのかあ」などと証明の手助けをなるような発言をする。
 彼女自身、そういったものにとりつかれやすい体質であるとも公言している。以前、休憩室でとつぜん彼女が白目をむいて泡をふいたということがあった。場は騒然としたけれど、たまたまそこに居合わせた霊的知識を持ち合わせる職員が、テーブルにあった食卓塩をつかみ取り、すぐさま彼女にふりかけるにいたった。そうすると彼女は打たれたように体をそらせて、ハッと意識を取り戻した。しばらくぐったりとしていたが、頬には赤味がさしてきた。そして「あわや連れて行かれるとこだったわ」などとぽつりと言う。なんともおどろおどろしい光景ではあったが、ぼくたちはその卓上塩がアジシオだったことに気づいており、少なからない疑念をもってそれを見ていた。
 いったい真実はどこにあるのか。五感で判断がつかないのだから検証のしようもない。そういった世界が実際にあるにしても、ぼくにはその片りんに触れることが許されていない。そう思っていた。
 でも、なんだか不思議なことが起きた。ある朝に出勤すると複数人の職員から「顔が変わったね」と言われた。ある人には「別人じゃん。だれかわかんなかった」とまで言われた。別に髪を切ったわけでもなく、もちろん美容整形を施したわけでもない。鏡をのぞきこんでみても、これといって特徴のない顔面が普段と変わらずそこにある。首をかしげていると、その霊的な彼女が出勤してきて慄然とした表情を浮かべた。ぼくは「おはよう」と言う。でも彼女はそれには答えずに踵をかえしてどこかへ去っていってしまった。
その日、彼女がぼくに近づいて来ることはなかった。妙だなと思っていると、人づてにぼくが女性の霊にとりつかれているという噂がたっていることを聞いた。もちろん先の霊的な彼女が言いはじめたことで、彼女はそれをひどく恐れてもいるという。ぼくはそんな馬鹿な、と笑い飛ばした。顔の前で手を高速で振り、ないない、とやった。でもふと、今朝のみんなの訝しげな視線を思い出すとだんだん動悸がはげしくなっていった。それから昨晩、何故かのたうちまわるような激しい頭痛に見舞われたことについても思い当たると、いっせいに肌が粟立った。
 「どうすれば取れるんですか?」とそこにいる人たちに聞いた。でもみんな口を揃えて「わかんない」と言う。ぼくは霊的な彼女のもとへ向かった。彼女ならばいくつか有効な手段を知り得ているだろうと思った。
 でも、ここからは理屈がよくわからないのだけど、おそらくぼくよりも先に、霊の方が早くに彼女のことを見つけ出したのか。ぼくが彼女のもとにたどり着いたときには、すでに女性の霊は彼女の方に宿替えをしていたらしい。彼女は深刻な顔で「ついてしまった」と言った。怒りの感情によるものなのか、からだを震わせている。それから彼女はぼくを何度も怒鳴り付けた。お前のせいだからなと責め立てられた。ごめんよと言っても許してくれはしなかった。
 たぶん女性の霊は、ぼくよりも彼女の方が居心地がよかったのだと思う。そして昨晩ぼくに起きた圧倒的な頭痛を、いま彼女に引き起こしている。ぼくはアジシオを持ってこようかと思ったけど、あまり携わらない方がいいと判断してそこを去った。とても奇妙な体験だった。でもやっぱりぼくには難解だと感じた。そういった分野を専攻している人に任せておくのがいいとおもった。

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