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2018年07月31日21:31

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本 ”川の光” 松浦寿輝

”川の光” 松浦寿輝

ずっと気になってた芥川賞作家によるネズミが主人公の児童文学、
ようやく文庫になったのでお買い上げ。

川の護岸工事で住み慣れた川辺の巣を追い出された
三匹の小さなネズミの家族、父とタータ、チッチの兄弟。
川の上流へと向かうも、イタチに襲われ、
ならず者のドブネズミ軍団に行く手を阻まれたり、
駅前の雑踏の人間たちにヒヤヒヤし、飛び乗ったバスで大騒動、
排水管で水に溺れたり、ノスリにさらわれたり、
寝てる間に父が金網で閉じ込められたり、困難が続く。
急げ、早く巣作りをしないと冬がやってくる、、、。

ワクワク、ドキドキ、そして涙、期待通りのこれぞ王道!の冒険小説でした。
いつも冷静で、間違った時には子供にも素直に謝れる偉ぶらない父、
そんな父を尊敬し早く一人前になろうとするタータ、
まだまだ遊びたい盛りでおっちょこちょいの弟チッチ、
そんな親子がお互いを想う様、そして子供たちが次第に我慢することを覚え、
自分で判断して行動できるように成長する姿に感動です。

そしてそんな親子に次々襲いかかる困難を力を合わせて乗り越え、
バラバラになった時はきっとまた一緒になるんだとそれぞれが一人耐え抜く力、
どしてもダメな時には犬のタミー、スズメの親子、モグラの一家、
図書館ネズミのグレンとその仲間たち、猫のブルー、圭一少年、
田中動物病院の先生夫婦たちが助けてくれ、
そして最後はみんなが連携して引き起こす奇跡。
小さなネズミの物語なのに、親子の絆の深さ、
そしてこの多彩な顔ぶれの仲間との絆の強さに心打たれるとともに、
その絆の広がりが物語の世界をすごく大きなものにしています。

ネズミ親子は旅の途中で図書館、モグラの巣、田中動物病院に辿りつき、
一旦は安住の地を得ます。それでも無難なところに収まるのではなく、
川の流れのように止まらず、流れていくことを選び、
川面のいつか見たキラキラした光を求めて旅を続けた彼ら。
川は辛いことや、悲しいことがあっても流してくれる、
そして流れる川はいつも新しい、
だから川と一緒にいる限り自分自身も新しくなれるのだ。
そんな前向きな姿に大の大人も勇気をもらえます。

作者の松浦寿輝(元東大教授 小説だけでなく詩、評論、NHKラジオのDJと多才)の
語り口が、これまた素晴らしい。
子供でも楽しめるような(読売新聞朝刊に連載されていた)優しい表現ながら、
匂い立つような川や草むらや公園の自然描写、様々な動物たちの愉快なキャラ、
動物目線の人間世界(特にネズミ目線の図書館や本への考察)は見事。
小さい生き物であっても三匹の運命は宇宙の運命に匹敵するぐらいの大問題、
ネズミの命も一つの奇跡であり、その命の一瞬にも膨大な記憶が詰まっている、
と彼らへ最大限の愛情を表現しています。

自分にとっての最高の児童文学は(といってもそんなに数を読んでないが)
斉藤惇夫の”冒険者たち〜ガンバと十五匹の仲間たち”。
そしてこの物語もネズミが主人公ですが、負けずとも劣らずの内容です。
どちらも海や川といった自然を大事にし、そして親兄弟や仲間を愛して、
理想を求めて努力するという、人間がお手本にしなければいけない話だけに
すっと心に入ってくるのでしょう。(この小説もNHKでアニメ化されてます)
そしてガンバの物語が三部作なのと同じように
この物語も楽しい続編があり、またタータやチッチや仲間たちと
再会できるのも嬉しいです。

ということで親子の愛、兄弟愛、子供達の成長、動物仲間たちとの絆、
そして自分たちの信じる素晴らしいもの ”川の光” を目指し前へ、前へと
進むことの大切さ、そんなキラキラしたものがたっぷり詰まった
素晴らしい物語でした。

ちなみに作者の後書きによると、この物語の舞台が私の比較的ご近所の
野川と野川公園というのにびっくり。
タータやチッチと会えるかも? と、
野川沿いをジョギングしたり自転車で走る楽しみが増えました。

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