下記は、2018.5.31 付の産経ニュース【国際情勢分析】です。
記
1991年に旧ソ連から独立した中央アジア5カ国。人口は域内最多のウズベキスタンでも3212万人で、5カ国を合計しても日本の7割に満たない。しかし、長年、中央アジアの経済・外交に関わってきた専門家は、中国やロシアなど大国のはざまにあるこの地域に親日国家が存在することには「大きな意味がある」と指摘、日本は積極的な関与を行なうべきだと訴えている。
(外信部 岡田美月)
中央アジアで要職歴任
「小国だとしても国連総会では米国など大国と同様に1票を持つ」。こう強調するのは、中央アジア・コーカサス研究所の田中哲二所長だ。その言葉には、経験に裏打ちされた重みがある。
田中氏は日銀に勤務していた93年、中央アジアのキルギスに派遣された。独立から間もない同国の経済改革に取り組むよう、国際通貨基金(IMF)から先進7カ国(G7)に要請があったのを受けてのことだった。
キルギスでは中央銀行最高顧問や同大統領特別経済顧問などを歴任。97年にはウズベクの銀行協会特別顧問に就任したほか、カザフスタンでも大統領府戦略計画改革庁特別顧問などを務めた。
四半世紀にわたり、中央アジア諸国の発展を金融、経済面から支援する仕事に携わってきた田中氏。大国に挟まれるこれらの国々の動向がいかに重要か、実感した出来事があるという。
「親日」環境づくり
2005年7月、日本はブラジル、ドイツ、インドなどとともに作成した国連安全保障理事会の改革に関する決議案を国連総会に共同提出した。常任6議席と非常任4議席を追加する内容で、狙いは、責任ある大国として日本の常任理事国入りを実現することにあった。
田中氏は外務省からの要請で、ウズベク、カザフ、キルギス、タジクの中央アジア4カ国の説得に回った。各国の大統領らからは「日本の立場を支持する」との言質を得た。
同案は結局、常任理事国のひとつである中国の強い反対を受け、廃案となってはいる。田中氏も「4カ国を口説いただけではだめだった」と振り返る。
ただ田中氏は、「中国政府に対して中央アジア諸国の抵抗があったことは意味のあることだった」という。「国連における日本の位置づけを考えたとき、中露が反対するときでも中央アジア地域は日本側に回ってくれる、という環境を整えておく」ことが中露を牽制する力となるからだ。
国連総会では、すべての加盟国が同等の1票を持つ。田中氏は、中央アジアのウズベク、カザフ、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタンの5カ国に、アゼルバイジャン、アルメニア、ジョージアの南コーカサス3カ国とモンゴル、トルコを加えた計10カ国との関係を構築し、国連総会での10票を確保することの重要性を説く。
経済界の関心は「資源」限定
ところが中央アジア地域は、民間の投資先としてみた場合、日本が関与を広げるには厳しい状況が続いている。田中氏によれば、ウズベクの投資環境は「日本の経済界からみると、資源以外に魅力のある分野はほぼない」のが現状という。
ウズベク、トルクメン、カザフは、石油や天然ガスが採れる資源地域。15年には安倍晋三首相がこの地域を歴訪した。当時の安倍首相の随行団は、商社や資源関係者が中心で、資源以外の関心が限定的と印象づける光景だったという。
田中氏は「儲からなければ出ていかないという貿易外交に頼っていてはだめだ」と懸念を示した。
高まる中国語学習熱
ウズベクの首都タシケント中心部には漢字で「孔子学院」と刻印された深紅の看板がある。05年、中央アジアで初めて開設された中国の教育・文化普及機関「タシケント孔子学院」だ。
孔子学院の生徒、ザキロフ・アリムさん(17)は、「将来的に(日本よりも)中国の影響力の方が大きくなると見込んで中国語を学ぶことを選んだ」と話した。将来の進路は「中国留学して、中国語を生かした仕事をウズベク国内でやりたい」と語った。
孔子学院の目と鼻の先にあるタシケント国立東洋学大には日本語学科があるが、同科1年のジノーザ・ギオソワさん(20)は「ウズベクには中国企業が多く中国語を勉強する人が多い」と教えてくれた。
田中氏は、ウズベクなど中央アジアではいま、「嫌々ながらでも中国についていくという力関係」の下で親中化が加速していると指摘する。だからこそ、「日本は経済、技術援助を含めた多面的な外交をプログラムを作っていかなくてはならない」。中央アジアに精通したエキスパートはこう、注文を付けた。
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http://www.sankei.com/premium/news/180531/prm1805310006-n1.html
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