山本五十六の半狂乱の生涯

山本五十六は生まれた時、五十六歳であった。
そのため父、山本三十五(やまもと・さんじゅうご)は、
五十六(いそうろう)と名付けた。
小間使い達からは「いそろくちゃん」と呼ばれた。

三十五の五十六番目の子供だからというのは俗説で、
五十六の兄姉を十四人養子に出した後に生まれたので、
実際には八十七番目の子供である。
母、四十三(しとみ)は、その時まだ三十四歳であったが、
歯が四十九本あった。

五十四歳になると『第一次背痒体染(せかいたいせん)』に感染した。
彼は、はす向かいのセルビア人の開業医に注目され、
研究発表の人体見本としてオーストリアに渡ったが、
そこの皇太子に病気を移してしまい、
リップブルグ城の地下牢に一年間幽閉された。
この病気は粘膜接触でしか感染しないため、
王室は皇太子を隠し、ドイツとイタリアのマスコミだけが騒いだ。

幽閉中、牢番と仲良くなったが、牢番はまったく発症しなかったので、
五十六は、近代軍事兵力は、金属甲冑こそ要であると確信した。

一年後、帰国してみると、五十一歳になっていた。
その年、ヨーロッパの体験を綴った『万醜痔変』や『注火事編』、
『ニィ・ニィ・ロック実験』、『ロック王狂爆破実験』、
『調査区倫の察外』、『日駐専送』を次々と出版し、
一躍ベストセラー作家となったが、
日本定刻理区群(にほんていこくりくぐん)からは、
危険思想者として睨まれることとなった。

四十九歳になると、『第二次背痒体染』が発症した。
患部には海水が一番効くというので、
日本定刻貝群(にほんていこくかいぐん)の新弟子検査を受けた。
その際、シリコーンを入れる場所を間違えたので、
日本初の婦人部屋に入門して東の奥の下張りになった。

その年の十二月、四十五歳になった彼は、
映画『トラ？虎？寅？』に、真珠売りのフーテン役で出演した。
貝群婦人部屋に「さくら」が何人もいたからである。
赤城山で旗を振り振り宣伝活動にも従事し、和歌山では、
『我、紀州で成功せり』と新聞の大見出しで報道されたが、
興行成績はさっぱりであった。
その頃の趣味について書いた随筆『一富士、ニイタカヤマ登山記』
もヒットせず、背痒体染の病状は悪化の一途を辿った。

荒療治のため、翌年四十二歳の彼は、硫黄島から茨城県の
水戸植(みとうえ)という港まで遠泳に出た。
その港で、実母、継母、空母、雲母、ほか計八人の訃報を受け取り、
八人の海女に言い寄ったが、撃沈した。

この地、水戸植で飢えに苦しみ、農地改革に取り組んだが、
三十八歳になっていた。
改革として、金属甲冑製の『ゼロ戦車型耕耘機』を発明したが、
録井戸(ろくいど)社製の『腐意(ぷい)三十七号』や
喰萬(くらまん)社の『減猫(へるきゃっと)号』等の方が人気があり、
普及は伸び悩んだ。

翌年三十四歳で、零手党(れいてとう)を一人で結成し、
村議会議員選に打って出た。
選挙カーが海水魚臭いので、選挙管理委員が山となって
押し寄せて調べてみると、九人目に口説き落とした海女と組んでの
密漁が発覚し、五十六は落選した。
これを当時の新聞の小見出しから取って、
『魚臭い、選管、山と。事件』
(ぎょくさいせんかんやまとじけん)と言う。

翌年三十一歳の時、録井戸家の娘をたぶらかしたとの噂も加わって、
村議会の証人喚問を受けることになった。
喚問が始まるや否や、裏庭で耕耘中の録井戸社製『腐意三十八号』が
暴走して議会に突っ込み、議員は一人残らず椅子から放り出されたが、
不思議と五十六ただ一人、椅子に座ったまま瞑目した。
息を吹き返して「瞑目した記憶はございません。」と証言したものの、
水戸植城の地下牢に一年幽閉された。

二十七歳で一年後そこを出ると、醜聞に尾ひれが付いて怪談となり、
全国で中々の有名人になっいて、
サントリービールや日本盛のCMに出演した。
彼は下戸であったが、小指の立て方が貝群式で、粋であると評された。

今年で彼は十四歳だが、なお盛んに勢力的活動をしている。
と、誰しもが聞いている。
ガダルカタルという病を患っているとか、ラバウルモバイルという
IT企業を起業したとかいう噂も都市伝説である。
という噂が囁かれているとかいないとか、
貝になって築地の移転に賛成しているとか反対しているとか等々である。

現在最も有力な説は、突如1519年に生まれ変わり、1452年に死んで、
後に、筒井康隆の『レオナルド・ダ・ヴィンチの半狂乱の生涯』
という伝記小説の題材になったということである。

（2007年11月09日より再掲載）



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