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2018年04月24日14:49

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北朝鮮が試みる冷戦構造解体の詭謀 防衛大学校教授・倉田秀也

 下記は、2018.4.24 付の【正論】です。

                       記

 20日の朝鮮労働党中央委員会総会の決定書には、核実験、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射停止などが盛り込まれたが、核兵器能力を「増殖」させないという意思表明に近い。それらの措置はいずれも不可逆的とも言い難いが、北朝鮮が米朝首脳会談で、トランプ米大統領から「完成」したとする「国家核戦力」の解体を求められることは知悉(ちしつ)している。この会議でも米国に挑むべき「条件闘争」が決定されたに違いない。だがそれを知る手がかりは北朝鮮の過去の言辞にしかない。

≪「非核兵器地帯化」も念頭≫

 先月初頭、平壌を訪問した韓国政府代表団は、金正恩氏が「朝鮮半島非核化」は金日成以来の「遺訓」と述べたと伝え、北朝鮮側が「朝鮮半島非核化の意思を明確にし、軍事的脅威が解消され、体制安全が保証されれば核を保有する理由がない」と述べたという。

 この一文を目にして以来、筆者の脳裏を離れないのが、2016年7月に発せられた政府代弁人声明である。ここで北朝鮮は−過日伝えられた金正恩氏の発言と同様−「朝鮮半島非核化」は金日成以来の「遺訓」であるとしつつ、「米国と南朝鮮当局」が先行してとるべき措置を求めていた。

 そこには、在韓米軍の非核状態を宣言し、検証を受けることに加え、「朝鮮半島とその周辺に随時展開する核打撃手段を二度と引き入れない保証」が含まれていた。

 「その周辺」に核搭載可能な戦略爆撃機がローテーション配備されるグアムのアンダーセン米空軍基地が含まれるのなら、ここで北朝鮮が米国に求める措置は、朝鮮半島の局地的「非核化」を超えた地域的広がりをもつ。それは中国、ロシアの核を不問に付す非対称な「非核兵器地帯化」に近い。

 この声明で北朝鮮が挙げたのは、この地域に配備された米国の核だけではなかった。この声明は続けて「核が動員される戦争行為」で、米国が北朝鮮を核で「威嚇・恐喝」しないことに加え、使用しないことを求めていた。この声明は、「このような安全の保証が実際に遂げられるなら、われわれもやはり、それに合致する措置を取ることになり、朝鮮半島非核化の突破口が開かれるようになるであろう」と締め括(くく)っていた。

≪明らかに助長している条件闘争≫

 ここで北朝鮮が求めるものの多くは、この地域での米国の拡大抑止の無力化、冷戦構造の解体に等しい。それは、北朝鮮が冷戦終結後、築き上げてきた核・ミサイル能力と、米国が冷戦期に形成した冷戦構造を「取引」することに他ならない。北朝鮮が非核化との関連で「条件闘争」を挑んだのは初めてではないが、過去を振り返ってみると北朝鮮が米国に求める措置は明らかに助長している。

 かつて6者会談の過程で、ブッシュ米政権が北朝鮮に「完全かつ検証可能で不可逆的な核解体」(CVID)という原則を主張したとき、北朝鮮は「完全かつ検証可能で不可逆的な安全の保証」の下に在韓米軍の撤収を求めたが、その当時、北朝鮮はグアムのアンダーセン米空軍基地に対する攻撃手段を欠いていた。

 だが、北朝鮮は16年6月、最大射程4000キロと推測される中距離弾道ミサイル「火星10」(「ムスダン」)の発射成功で、グアムを射程に収める潜在的能力を手に入れた。先の政府代弁人声明が「火星10」発射成功の直後に発せられたのは、そこでいう朝鮮半島の「周辺」がグアムを指すことを改めて傍証していた。そして、その能力は昨年複数回発射された中距離弾道ミサイル「火星12」で拡充し、それを含む核戦力を北朝鮮はいま「宝刀」と称する。

≪非対称の「取引」には応じるな≫

 しかし、北朝鮮が試みる「取引」は、「等価交換」ではない。冷戦構造とは文字通り、冷戦期に築かれたものであり、北朝鮮はその当時、核兵器も弾道ミサイルも保有していなかった。北朝鮮の核放棄と「等価交換」となりうるのは、過去の米朝協議、6者会談で議論されたように、核不拡散条約(NPT)の不平等性を補填(ほてん)する「安全の保証」−核兵器国は非核兵器国に核の使用、威嚇を行わない誓約−であり、日本と韓国を危殆(きたい)に晒(さら)す冷戦構造の解体であってはならなかった。

 だからこそ、6者会談共同声明でも、北朝鮮が「全ての核兵器および既存の核計画を放棄する」との誓約に対して、米国は包括的な「安全の保証」を約したものの、同盟を弛緩させる措置には触れなかった。北朝鮮に非核化を迫る上で、米国が冷戦構造の解体に着手するよりも、経済制裁を科し続けることが正当である。

 もとより、朝鮮半島非核化に応じて朝鮮戦争の終結−軍事停戦協定の平和協定への転換−が議論されるように、非対称な「取引」もありえる。だが、日本と韓国の安全の多くは、冷戦構造に依存している。27日の南北首脳会談が、北朝鮮に朝鮮半島非核化に対して、米国が冷戦構造の解体に着手するとの期待感を抱かせ、実際それに着手するなら、その代価は日本が払うことにもなる。(防衛大学校教授・倉田秀也 くらたひでや)
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 http://www.sankei.com/column/news/180424/clm1804240006-n1.html
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