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2018年03月03日22:39

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ミンコフスキ&レ・ミュジシャン・デュ・ルーヴル

【プログラム】
 メンデルスゾーン
1 序曲《フィンガルの洞窟》op.26
2 交響曲第4番 イ長調 op.90《イタリア》

   ***** 休 憩 *****

3 交響曲第3番 イ短調 op.56《スコットランド》

 レ・ミュジシャン・デュ・ルーヴル(管弦楽)
 マルク・ミンコフスキ(指揮)

2018年2月27日(火),19:00開演,東京オペラシティ・コンサートホール


ミンコフスキとレ・ミュジシャン・デュ・ルーヴルの演奏会を聴くのは,これが3度目である。最初はハイドンのロンドン・セットから4曲,2度目はシューベルトの交響曲(第5番と第9番だっただろうか),そして今回。ハイドンの交響曲の独創性を存分に表現した演奏には衝撃を受けた。だが,シューベルトの演奏では肩透かしを食らう。このコンビとシューベルトとの相性が悪かったのだろう。なので,彼らのポテンシャルに対する信頼は根本から揺らいでしまうことはなかったが。そして今回メンデルスゾーンの作品を聴いて,名誉はかなり回復された。

この演奏会の醍醐味は,管弦楽による演奏がいかにあるべきかを明快に示す瞬間に恵まれていたことだ。それは指揮者とオーケストラ双方の歯車が一部の隙もなく噛み合った瞬間である。演奏作品に対する深い洞察を持つ指揮者と腕利きの演奏家の集合体であるオーケストラとが同期したとき,作品に魂が吹き込まれ,そのことが指揮者やオケに霊感を与え,その相互作用から,その作品が誕生する瞬間の即興性が生まれる。約束事に縛られた演奏とは異なる表情が現れる。アンサンブルの僅かな乱れに神経質になることなく,演奏の流れや勢いに身を任せて,そういう瞬間が訪れるのを待つのが彼らのスタンスだ。

こうした奇跡を可能ならしめるのは,オーケストラのメンバーひとり一人が有する卓越した個人技ゆえである。これ見よがしのプレーに走るヴィルトゥオーゾとは異なる,高度な演奏技術と優れた音楽性とを併せ持つ地味ではあるが超絶技巧に創造される音楽を響かせる。いうまでもなくレ・ミュジシャン・デュ・ルーヴルは古楽オーケストラだ。そのメンバーが古楽器を選んだのは,オーセンティックな響きを再現するためではなく,古楽器が音楽そのものを表現するうえでモダン楽器より優れた表現手段だからと主張するような演奏だ。もちろん,古楽器には様々な制約があるが,そうした制約を逆手に取ることでモダン楽器では表現不能な豊かな音楽的表現が可能になるとでも言いたげである。

もう一つは,彼らの際立った自発性が演奏を特徴づけていることだ。団員の自発性に関しては,超一流のオーケストラの上を行っているような気がしないでもない。メンバー同士の息が合っていないときは,演奏に乱れがあるような印象を受けることもあるが,いったん歯車が噛み合うと,1足す1が3,ときには5くらいの効果を発揮する。サッカーでいえば,創造性に富むファンタジスタ集団といったところか。チームプレーが最優先の統御されたオーケストラが多い中,これほど自発性に富むオケの演奏を聴いていると,音楽が生まれる現場に立ち会っている気分になる。

指揮のテクニックや作品の独創的な解釈という点を別にすると,ミンコフスキの最大の功績は自発性や創造性に富むヴィルトゥオーゾ集団を作り上げたことなのではないかという気さえしてくる。彼が19歳のときにレ・ミュジシャン・デュ・ルーヴルを創設したというから,この一事をもってしてもミンコフスキが異能の持ち主であることは確かだろう。それほど若い頃から天才肌の音楽家たちを束ねているという事実も,彼の音楽的な能力の比類なさを物語っているのだろう。

ミンコフスキとレ・ミュジシャン・デュ・ルーヴルの非凡な音楽性の何よりの証は,「フィンガルの洞窟」と「スコットランド」が優れた作品であることを明快に示したことである。スコットランド地方のやや陰鬱な風景を音楽で描写した佳作であるという域を超える演奏を聴いたことがない。これまでに接したどの演奏も,どこか寒々とした感じの曖昧模糊とした音楽であるとの印象を与えるばかり。ところが,このコンビの演奏を聴くと,音楽の造形が実に見事で,活き活きとした新鮮な音楽をきかせてくれる。まるで,スコットランドを旅行したメンデルスゾーンが,風光明媚な風景や長い歴史が刻まれた遺構から受けた感銘がありありと伝わってくるようだ。さらに,メンデルスゾーンがこれらの作品で用いた音楽形式が明快に浮かび上がり,その形式の用い方にも数々の創意工夫が凝らされていることを明瞭に示す演奏である。手垢にまみれた作品が,修復後の絵画のような新鮮さを取り戻している。一方「イタリア」は昔よく聴いたトスカニーニの演奏に僅かに及ばない。

音楽を演奏することはその場で音楽を再創造することだというメッセージを強烈に放つコンサートだった。その目標を達成するため,古楽器を用いるのが最適であり,ソリスト級の腕前のメンバーを集め,自然な勢いや流れが演奏には大切であることを示すミンコフスキの慧眼が光る演奏である。それは,どの作品の演奏にもクリストファー・ホグウッドが校訂したベーレンライター新版の楽譜を採用する,独創性を重んじる姿勢にも通ずる。
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