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2018年02月06日04:28

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【芸術】【日常】少女が見た湖の夢

★さて、話は前後しますが、先週1月29日、横浜に日帰り旅行してきました。
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目的地はここ。横浜美術館であります。

★ただ今開催中の同美術館収蔵品展。今回のテーマは「シュルレアリスム」。
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★すべて収蔵品のためか、なんと展示場は全て「撮影可」。太っ腹!
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★大御所のサルバドール・ダリをはじめ、マグリット、ミロ、ピカソなどの作品が並びます。
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★…しかし私の本当の目的は、正面にあるこの一枚。マックス・エルンストの作品「少女が見た湖の夢」。この絵が観たかった!
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★マックス・エルンストはダリやピカソほどの知名度はありませんが、「コラージュ(既成物の貼り付け)」の技法の発明者の一人とされたり、「フロッタージュ(こすり出し)」や「デカルコマニー(絵具や他のものを塗り付けた布や紙をキャンバスに貼り付け、乾かないうちに剥がしてできるパターンを利用する)」などの、前衛的表現に欠かせない技法の達人として、シュルレアリスムの中心的画家の一人です。私はこの辺の絵画は概ね好きですが、エルンストは格別で、一番好きな画家なのです。

★いや、ただ単に「好き」というだけでは言葉が足りません。私は別に彼の技法や歴史的業績を評価しているから好きなのではないのです。より正確には「病的に惹かれている」と言うべきでしょう。そう、私にとって彼の絵には、誰もが心の奥底に持っている壊れた部分、潜んだ狂気を「オン」にするスイッチがあるのです。きっとそのスイッチは、一人一人違った形をしているにちがいありません。私の場合はそれがエルンストの絵で、しかもそれが、運命的といえるほど、この上なくぴったりと嵌まるスイッチなのです。

★私が特に惹かれるのは、デカルコマニーの技法を駆使した、彼の一連の油彩画です。代表作には「雨後のヨーロッパ」や「沈黙の目」という作品があります。興味のある人はぜひ、画像検索してみてください。その恐ろしく精密な、しかし「異様」としか言いようのない風景に圧倒されること必定です。「雨後のヨーロッパ」は終末戦争後、人間のいなくなった直後の恐ろしく詳細な風景画。そして「沈黙の目」は、その後の都市の廃墟が苔むした景色。私にはそう見えます。特に「沈黙の目」は、あの「風の谷のナウシカ」の「腐海」そのものです。宮崎駿氏も、この絵を見てあの世界を創造したのだと、私は直観的に確信しています。

★…いや、これも私にとっては、ただ「そう見える」というだけの話ではありません。しばらく見ていると、これらの絵の、フロッタージュによる不規則な、しかし恐ろしく細かいパターンの膨大な集積が、私の狂気のスイッチを「オン」にします。そして一旦そうなると、ちょうどロールシャッハテストの時のように、それらのパターン全てがとてつもないリアリティを持った「何か」の描像…何人もの人体が溶けかかった状態で融合し、乾き固まった塊。異常な熱と毒で溶融した建造物。何か巨大な生物の腐乱死体。など、など……になってきます。こうなったらもう止まりません。私の心は絵画の世界に捉えられ、その異様な終末の風景の住人となってしまいます。それはもう絵画ではない実在の世界で、私はその世界の空気とその温度、息苦しいほどの匂いまで感じてしまうのです。そしてよほど強い意志を持たないと、その世界から帰ってくることができなくなってしまうのです。

★…このような異常な幻覚は、全ての人に起こるものではないかもしれません。しかしエルンスト自身も、幼少の頃熱に浮かされて天井の板目に異様な風景を幻視し、後の絵画表現に至ったという逸話があります。つまり私はある意味、彼の意図通りに彼の作品を鑑賞している、ともいえるでしょう。別に私の鑑賞眼を自慢したいわけではありません。ことほど左様に、私にとってエルンストの絵画は「特別」なのだ、ということが言いたいのです。これは「相性」のようなもので、別な人には別な作家の作品がこうなのでしょう。

★…さて、果たして今回の「少女が見た湖の夢」も幸いにしてそういう「特別」な絵でした。カメラでも撮りましたが、さすがにここにそれを掲載するのは気が引けるので、後で買ったポストカードの写真を貼っておきます。
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私にはこの風景が、枯木と無数の異様な生物たちが融合し、乾いた苔で覆われた、無人の死の森に見える…というか森そのものです。写真ではディティールまで分かりませんが、あちこちに無数の動物たちや鳥人(エルンストの複数の絵にでてくるキャラクター)、そして異人たちの顔も見えます。実物をよく見ると、そのいくつかは幻覚ではなく、エルンストが筆を加えてそのように描いているのが分かります。右下には画面から逃げ出そうとしている少女が描かれています。しかしその髪や背中は、すでに苔に変わりつつあります。私もこの少女と共にこの死の森を歩き回りますが、出口は見つかりません。ただ中央にある沈黙の湖の周りを、いつまでもぐるぐると回るしかないのです。

★…そんな悪夢の幻想を楽しみ(?)ながら、私はこの絵の前で一時間半ほど過ごしていました。ダリやピカソも好きですが、こんなに長い間見続けていられるのは、やはりエルンストの、しかもこの系統の油彩画だけです。

★午後いっぱいを会場で過ごして現実世界に戻り(笑)、ミュージアムショップでおみやげを買いました。「少女が見た湖の夢」のポストカードと、エルンストのコラージュによる物語三作。
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これらは巷の小説や物語本の挿絵をコラージュして、謎めいた詩句のような言葉を添えて並べられた「絵物語」。物語といっても、その筋は偶然に任せた不可解なもので、結局読む人の解釈によってそれぞれ違った物語になってしまう、というもの。これまた奇妙で不条理な魅力があり、読む(?)のが楽しみです。

★長々と書いてきましたが、私がいかに「病的」にエルンストの絵が好きなのか、分かっていただけたかと思います(笑)。私が一番好きなのは先に書いた「雨後のヨーロッパ」(厳密には同名の作品が二つあり、有名で私も好きなのは「II」の方)で、これはアメリカのワズウォース美術館にあるとか。死ぬまでに一度本物を見てみたいものです。そしてこの絵の前なら、私は一週間くらい過ごせそうな気がします。


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