第178話 再会するまでの狭間に〜前編〜
〜永遠に私達の目の前にはお互いの姿しか見えないわ
分かっているわ、叶わぬ願いだと
彼とではなく、ただ私自身と語り合っているだけだと〜
〜ルトー・ジャンサイド〜
密林の中、トリモチに全身を包まれながらもジャンの殺気は全く衰えず、ルトーはジャンの言葉に目を丸くする。
ルトー「ナンテが半世紀かけてやろうとした事を記された手紙が、貴方の懐に・・?」
ジャン「ウキキキ、すこしは目を丸くしたようじゃな。ここまでお主の隠し芸に驚かされてきたが、今度はワシが驚かしてやったわい。
その面食らった顔、もっと見せてもらおうかの!モンキーアーマー、『猿人(エンジン)全界(フル・ワールド)』!!」
ジャンのアーマーの蒸気口から蒸気が吹き出され、トリモチに包まれた体が動き出す。白いトリモチがヒビが入り、中の腕が見え始める。
メル「な、コンクリート並みの硬度を誇る僕特性のトリモチだぞ!?なんで・・」
ジャン「ウキャキャキャキャ、悪いなぁ!ワシの腕は壊し屋知らず!
こんな温い小細工じゃ、ワシは止められんぞ!」
蒸気がジャンのアーマーから噴出し、それに比例するようにトリモチが壊されていく。そして白い殻を突き破り、怪人がその姿を現した。
ジャン「ウキャキャキャキャ!
ワシ、ふっかああつ!!
さあ、更なる力を見せてやるぞ!
『猿人(エンジン)開界(オープン・ワールド)』!うぅぅぅっきいいいい!!」
ジャンが植物の種を大量に握りしめながら拳を地面になぐり、二の腕まで大地にのめり込む。
すると、ぐらりと大地が揺れ始めた。
ルトー「!?」
ジャン「ルトー、狭い世界で跳び跳ねる事しか出来ないお主に、広い世界を見せてやる!『バトルジャングル・モデル『RAKUYO』』!」
それは奇妙な光景だった。
密林が更なる密林に呑まれていく。葉は赤く、扇形に広がっていく。ルトーはこれが何の葉なのか知っている。たしか公園に植えられていた『椛』という樹林の葉ではないか。
ルトーが辺りを見渡している間に密林はすっかり椛の大木に侵食されてしまった。
驚きのあまり声もでないルトーを嘲笑うかのように、ジャンの笑い声が密林に響く。
ジャン「ルトー!逃げ隠れしか出来ない貴様に密林の恐怖を味あわせてやる!ウキャキャキャキャ、キャーッキャキャキャ!」
ルトー「・・!」
その時、ルトーの眼前に一枚の椛の葉が落ちて、はっと息を飲む。
何故なら葉が落ちた先にある石のレンガに刺さったからだ。葉はしなびかず、レンガに刺さったまま直立の態勢を崩さない。
ルトー「な、なんだこの硬い葉は・・!
まさか、これ全部『そう』なのか!?」
ジャン「さあ、行くぞルトー!
『緋葉(もみじ)・・』」
ルトー「ぼ、『ボウシールド』!」
ルトーは頭の帽子飾りを手に取り、中の仕掛けヒモを引っ張る。すると手のひらサイズの帽子は巨大化し、ルトーを護る盾となった。
盾の内側にある取っ手を両手で握り、上に持ち上げる。それとほぼ同時にジャンが大木の間を枝から枝へ飛んでいき、その振動で大量のもみじが舞い落ちる。
キキキキキキキキキキキキキキン!
鋼鉄の硬度を誇る葉が擦れ合い、金属音が森林中に響き渡っていく。
そしてボウシールドの周りに大量の刃の葉が降り注いでいき、地面に次々に刺さっていく。
やがて、葉が止む頃には大量の紅葉の刃の葉で敷き詰められた世界が広がっていた。その中でボウシールドを上に掲げていたルトーの足元だけが、ここが元は城内の廊下だと思い知らされていく。
ルトー「あ、危なかった・・ボウシールドがなかったら、今頃身体中が引き裂かれていた・・!」
シールドを下ろし、上を見上げるルトー。先ほど大量に散ったばかりなのに、もう若葉が生えて急成長を始めていた。
ルトー「まずい、このままじゃ動けない!まるで、刃の檻だ!」
ジャン「ウキキキ!刃の檻とは上手く言ったな!ならそこにしばらく囚われているが良い!」
木々の間からジャンが顔を出す。良く見るとアーマーの背中に飛行エンジンが装着されているのか、ごうごうと炎が燃えながら空を飛んでいる。
ジャン「お主じゃワシを倒すには力不足じゃ。この程度の森も抜けられんようじゃ倒すには程遠いな。
気を悪くするなよ?お主はまだ若いんじゃからな」
ルトー「つ・・!
いい気になるなよ、まだ僕には大量の武器が残ってる!もう前みたいにあっさり諦める僕なんかじゃないんだ!」
ルトーは睨み付けた。
目の前で嘲笑う男を、そしてかつて敵に寝返るしか出来なかった自分自身を重ねて叫ぶ。その心に、怒りが宿る。
また裏切ってたまるか。また逃げてたまるか。もう、どんな手を使ってでもこの男を倒す!
ルトーは怒りを膨らませながら叫ぶ。
ルトー「見せてやる、僕のとっておきを!
究極封印最終形態を!ハアアアア・・!」
ルトーはそう言いながら、右腕を上に、左手を下に動かし構えを作る。そして、大声で叫んだ。
ルトー「キャッピピーン!
ポンピレパニャーントルトリンリン!
ミラクルマジカルだい・へん・しん!」
ジャン「は?」
目を丸くするジャンの前で、ルトーの眼前で煙が吹き上がり、一瞬その姿が消えていく。
そして次の瞬間には煙が晴れていき、ルトーの姿が変わっていた。
帽子は細長く、まるで舞台上の奇術師が使うようなシルクハットをかぶっている。
スカートはマントに早変わりし、ルトーの背中に羽織っているが、一部は腰に残りまるでふんどしのようになっている。
そしてルトーは顔を真っ赤にしながら呪文を叫んだ。
ルトー「愛と!日陰と!卑怯パワーを糧に!
ミラクルマジカルだい★へん☆しん!
魔法使い、ルトー・クンチャン!
さーーんじょう!!」
ジャン「・・・・コスプレ坊主が、ついに頭おかしくなったぞ・・!」
ルトー「言うなーーーー!
凄い恥ずかしいんだからこれーーー!」
顔を真っ赤にして叫びながら、ルトーは昨日の事を思い出していく。
それはアタゴリアンに到着する前の深夜の事だった。
ルトー「ふう、準備はこれぐらいで大丈夫かな?
全く、僕は他の皆より準備するのが沢山あるから大変だよ」
ルトーは準備を終え、明日使うであろう武器の一つ一つを吟味しながら考えていた。
深夜のルトー「これ、結構使い捨ての武器が多いからなー、なんか再利用できる武器があればいいんだけど・・そうだ!
武器を再利用できるよう、一旦さまざまな武器を使い終えたら新しく交換できるようにしよう!
どうせならへんしーん、みたいにしたいよね、カッコいいし!
はははー、なんか急に色々思い付いたぞ、僕って天才だな!
よーし、せっかくだから変身を特別な音声で発動できるように」
今のルトー「ぬあああああぉぉぉえうあおあああ☆★□◆●◇(声にならない悲鳴)」
今のルトーはその記憶を全力で忘れようと思いっきり叫ぶが、忘れようとすればするほど鏡に映った自分のどや顔を忘れられなかった。
ルトー「なんで、なんで僕はあんなバカな事を思いついちゃったんだああああ!!」
ジャン(見ていて痛々しい・・)「あー、それで何かこの状況が進むのか?
お主のバカな過去しか見えんが・・」
ルトー「あ、当たり前じゃあああ!
行くぞこらああああ!
『キュルリン・ピラリン・キンピラゴボウ!ひっさーつ、『キラキラビュンビュン☆スカイハイ』!グハァ!」
ジャン(恥ずかしさでダメージ受けたぞあいつ!?)
ルトーが吐血しつつもマントのヒモを引っ張るとマントの中に隠された筒から火が噴き出し、空を飛び上がる。
ルトー「ま、待たせたな!今お前をぎっちょんぎちょんに倒してやるんだからなぁ!」
ジャン「恥ずかしいかっこで恥ずかしいセリフ吐いても全然怖くないぞ」
ルトー「グハァ!」
ジャンの台詞にルトーの心にダメージが入る。だが、ルトーは負けずにジャンを睨み付けた。
ジャン「なあ、お主はここまで頑張った。
これ以上やりあっても意味ないぞ。さっさと諦めたらどうなんじゃ?」
ルトー「う、うるさいうるさいうるさーい!
た、確かに恥ずかしい姿だけどさ!僕、もっっと恥ずかしいやつを知っているんだよ!
バカでアホで間抜けで後先考えずに敵に突っ込んでいく大馬鹿野郎!
しかもそいつあんまりアホすぎて、たまに自分がアホだと忘れちゃうんだよ!
そいつにアホな奴なんて言われたくないから、僕は頑張るんだ!上から目線で人の事を決めつけてんじゃねーぞバーカ!」
ジャン「お主も上から目線じゃないのか・・?」
ルトー「本音も言えない貴方に言われたくない!い、行くぞー!『ドッキュン★バッキュンダッシュアターック』!もうやけだあああ!」
そしてジャンの所まで一直線に向かっていきながら帽子に隠されたスイッチを押した。
ルトー「く、喰らえっ!『ギュルギュルグルグル★ハッドリル』!ぐうわああああ!」
ジャン(技名の後の悲鳴がガチだ・・)
ルトーの帽子がとんがっていき、グルグルと高速回転していく。ルトーは精神的ダメージを負いながら、火筒のエンジンを強化していく。
ジャンは避けようかと思ったが、辺りの森の状態を思い直しそれを諦めた。
ジャン「ち、アホな技名に反して強そうな攻撃しやがる!その度胸に免じて、受け止めてやるわい!」
ルトー「これでも喰らええええ!」
ジャン「ウッキイイイイ!!」
ジャンは右手の拳に力を思い切り込めていき、ドリルめがけて殴りかかった。
ジャンのアーマーには予め『IWAHADA』という名前の薄いバリアが張ってあり、それが拳の周囲に集約される事で更に硬質化されていく。
ルトーのでたらめな槍とジャンの拳の盾が激突し、激しい火花を散らしながら互いに一歩も退かない。
この時回転しているのは帽子だけで、ルトー自身は回転せず両手も空いていた。
その両手に、マントに装着されていた花飾り型の爆弾が握られている。
ルトー(まだだ、まだこの爆弾を投げて奴にダメージを与えれば・・)
そう思った瞬間、ジャンの左手の拳が揺らいだかと思うと、腹部に強い衝撃が走った。
ルトー「え?」
ジャン「惜しかったな。貴様のドリルは一本、ワシの腕は二本。
こんなちゃちな武器でワシには勝てんよ。『猿業・不成者格闘術(サルワザ・ナラズモノコマンド)』ーー・・」
ズン、ズン、ズン、ズン!
ルトーの腹部に、脚部に、胸に、殴られた痛みが激しく襲いかかってくる。ルトーは嫌な予感を感じ手を伸ばそうとするが、もう出遅れだった。ドリルがグニャリと歪み、破壊される。マントに大量の拳の跡が浮かび上がってくる。
今まで少しずつの痛みが、一気に強くなって襲いかかってきた!
ズドドドドドドドドン!
ルトー「ぐああああああ!」
ジャン「『目一鬼酔象(マヒトツオニ・ドラッケン)もどき』。
悪いな、ワシは強欲。
欲しいモノは全て手に入れる。
金も、勝利も、貴様らの技すらも、な」
笑みを浮かべるジャンを余所に、ルトーの全身にダメージが入り、上に飛ばされていく。幸い二人の上には木の枝が無いから葉の刃に刺さる事は無いが、落ちれば床に敷き詰められた刃の餌食になるだろう。
ジャンはルトーが上に上がるのを見届けようとして、自身の手に幾つか花飾りが付着している事に気付いた。
ジャン「む?なんじゃこれ、」
その花飾りが、白く輝き出す。
ジャン「は・・?」
ボボボボボオオオオオオオン!!
花飾り型爆弾は一斉に爆破し、ジャンのアーマーに強力な衝撃を与えていく。バリア装置は破壊され、アーマーの各部分にヒビが入っていく。
爆炎に呑まれながらジャンが見たのは、今まさに重力に囚われて落ちていこうとするルトーの姿だった。
意識を失っているのか動く気配が見えない。このまま落ちれば確実に刃の葉に串刺しにされる。
それに気付いたジャンは、
ジャン「ーーー」
壊れゆくアーマーのエンジンの出力を上げ、ルトーに向かって飛んでいく。
エンジンは嫌な音を上げながら飛んでいき背の低いルトーを空中で両手でだっこで捕まえた。
それと同時にエンジン部分が爆発し、ジャンはルトーを捕まえたまま刃だらけの森に落ちていく。
ジャン「ーーーーー」
ジャンはルトーをぎゅっと抱きしめ、木の中に落ちていく。そして刃が次々に壊れかけのアーマーに刺さり傷つけていく。
ジャン「ーーーーーーー」
ようやく地面に降りた時、刃の葉によりアーマーはほぼ破壊され、もはや服としての機能すら果たしていない。
幸い脚部にダメージはなかったため床の刃が刺さる心配はなかった。
ジャンはルトーの容態を確認しようと顔を上げて、
いつの間にかその肩に剣が乗せられている事に気付いた。ジャンは後ろを向かずに訊ねる。
ジャン「・・貴様、ルトーの味方か?」
アーサー王「我はルトー殿の護り手なり。アーサー王と呼ばれている。ルトー殿が危険な目にあったら我が助ける手筈になっていた。
だが、助けたのは敵である貴様だ。助けていただいた事には感謝する。だがなぜ、ルトー殿を助けたのか?」
ジャン「・・」
ジャンはルトーがただ気を失っている事、体に怪我や切り傷がついてない事を確認してから、後ろの男の問いに答える。
ジャン「なぁに、下らない理由さ。
ワシが強欲だからだ」
アーサー王「・・?」
ジャン「ワシはな。昔からただ一人の存在でありたかった。
ただの罪であればよかった。ただの悪であればよかった。屑なら良かった。間抜けでバカで、どうしようもなく心根の腐った奴であれば、それで良かったんだ。
だがワシの周囲の奴等は、どうにも良い奴すぎて、面白い奴が多くて、それでいてそいつらが見せるもんがあんまりキラキラ輝いているもんだから。
ワシはつい、そいつらの手助けをしちまう。自分一人の生き方だけを見れば良いのに、どうしても色々と手助けしたくなっちまう。そうして俺はいつまでも奴等と一緒にいたくなるのさ。
強欲、だろう?」
アーサー王「・・・・」
ジャン「こいつは、確かに成長する。成長できる。光を生むか闇を生むか知らんが、確かにでかくなれる。
そんな奴をこんな場所で、こんな下らん理由で終わらせるなんて勿体ない。
だから、こいつはのしをつけててめえに返すよ」
アーサー王「のし?」
ジャン「ほれ」
ジャンは後ろの騎士に向けてルトーを投げる。騎士は思わず剣を投げ捨て、落ちてくるルトーを抱きしめた。
そしてルトーの姿を良く見ると、胸元に何枚か紙がねじ込まれている。
ジャン「『不思議の国のアリス計画』の一部だ。それで俺との戦いの結末は引き分けにできるぜ」
アーサー王「な!?き、貴様何を考え・・!?」
アーサー王が顔を上げた時、ジャンの姿はどこにも見えなかった。森は少しずつ枯れ始め、葉は萎びていく。どうやらこの森は短時間しか存在できないらしい。
アーサー王は消えた男から、腕の中で寝ている少年に向けられる。
少年は黙って目を閉じていた。目を閉じたまま、拳を強く握りしめていた。
後編に続く
ログインしてコメントを確認・投稿する