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2017年12月22日13:31

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今年も発表します!


 遅くなりましたが、日本映画MYベストテンを公開させていただきます。

 総評というか、全体の印象としては「これ!」といった強く動かされる作品がなかった
という気がするが、実は昨年の印象がまだ続いているせいであって、たとえば今年の
前半は「この世界の片隅に」を引きずりながら見てしまうと、印象がかすんでしまう
イメージがあった。
 そのような状況の中で今年のキーワードを探すなら「緩やかな変容」だった。
 日常は緩やかに変質し、それを受け入れ、あるいは抗い、拒絶する。
 ある人は自分にとって不動の常識と思われたものが、実はいつの間にか批判され
拒否される対象となるのにさほど時間がかからない。あるいは旧態依然と否定された
ものが、無批判に復活しさも価値があるようにあがめられる。
 大震災以降の日本の混迷は実ははるかに深まっているのに、なかったこととして
思考停止することで、あるいは国家的なイベント、対外的なオリンピックと国内的な
天皇退位の二つを組み合わせることで、問題の先送りとすり替えが着実に進んでいる。

 1 幼な子われらに生まれ
 自分の娘がいつしか反抗期になっていることにあせり不安を感じる父親、問題を
先送り見えないふりで解決するすべを放棄する母親、映画にするといかにも困った
両親のようだがこれは普通の家族の物語だ。私自身のことでもあり、30年余の
教師生活において具体的な例を持って感じることでもあった。
 そんな「ふつう」を演じることの難しさ、ドラマとして成立させることの難しさを
成功させた「幼な子われらに生まれ」は、家族が家族として成立するためのひとつの
方法を提示し、深い感動を与えた。
 子供の目はごまかせない。
なぜなら彼らは未来しか見ないからだ。
つらい過去や懐かしい思い出にとらわれる大人は、未来を描けないが、子どもには
未来しか描けない。だから国の将来も子どもに聞くべきなのだ。

 2 貌斬り KAOKIRI〜戯曲「スタニスラフスキー探偵団」より〜
 ロールプレイの怖さを身をもって体験したものなら、この映画の持つ怖さに
震えるだろう。役者という人々はこうしていくつもの人生を生きている。すごい人々だ。
そんな役者賛歌を超越したこの映画的構成のみごとさ。
長谷川一夫の顔切り事件を映画化したい映画監督が自ら長谷川一夫を演じる、と
いうお芝居をする俳優、を演じている俳優の演技。一三役、四役が当たり前の状況で
すべてを同じテンションで演じていくという試みは実験ではなくまさに映画的な事件で
あった。
 自分が何に対して涙を流しているのかわからなかったが、それは演じる人々を
信じて映画を作った人々に対しての喜びだったのではないか。

 3 彼女がその名を知らない鳥たち
 痛快さでは一番だった。主演4人の見事なアンサンブルに加え、映像、編集、音楽の
映画的完成度は、醜悪な連中を描くにふさわしい美しさ。ゆえにエンディングが饒舌に
思う。語るべきではないのではないか?原作ゆえなのか。

 4 あゝ、荒野 前篇
 前編の圧倒的な熱量が後編で異様に変質したか?終幕のドラマは自分として
陶酔できなかった。これは受けてとしての自分の問題かもしれないが、命を賭けると
いうことはこういうことではない、と思うと別のエンディングを期待してしまう。それほど
すごい作品ではあるのだが。
劇場で観た次の日にブルーレイで見直す幸せはおまけ。

 5 武曲 MUKOKU
 いい映画はやはり役者が作る。綾野剛、背筋の美しい姿に演じる自信がみなぎる。
薄っぺらいCGでしか物語れないハリウッドに忘れ物を届けてやりたい。

 6 散歩する侵略者
 繰り返される黒沢神話の世界はここまで変容した。もしも夫が宇宙人だったら、
そんな使い古されたアイデアがこうして美しい愛の物語になる。近年まれに見る
本格SF映画の誕生を喜びたい。

 7 帝一の國
 今年一番のおばか映画。ある意味マイベストワンであるが。別に男の裸が趣味の
わけではないが、見せるなら美しい裸を見せてほしい、そういう意味で映画は
「わかっている」。

 8 夜明け告げるルーのうた
 「崖の上のポニョ」の呪いを解き放った、まさに会心の傑作。津波=震災なら、町を
覆う影はまさに時代の閉塞感なのだ。日陰町に光が差し込むために崖を崩壊させる
力は、若者たちの歌と愛しかない。 

 9 君の膵臓をたべたい
 まさか、泣かされるとは。年のせいで涙腺が緩いのは認めよう。しかし、思い出すと
切なくなる。ということは、映画として物語がきちんと成立しているということだ。
これは実は貴重なことなのだ。

 10 火花
 そういう意味では映画が純文学している映画だった。ストイックに、実直に映像で
語る文学だった。今でもこんな日本映画の王道を行くことができるのだという発見が
うれしかった。

 個人賞、各章は省略します。
例年のことですが、いずれの作品も、また選に漏れてしまった作品も、明日見たら
違う評価かもしれないし、ましてや5年、10年たってみれば、あるいは別の切り口から
比べてみれば、当然順位は変わります。これはあくまでも私の個人的な映画記憶の
一部だということでご容赦ください。

 ともあれ、すばらしい映画と出会えた1年を感謝しつつ。
皆様、ありがとうございました。ごちそう様でした。

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