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2017年12月12日22:48

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BCJ:モンテヴェルディ《ポッペアの戴冠》

モンテヴェルディ 歌劇「ポッペアの戴冠」全3幕,演奏会形式
 (アラン・カーティス版,イタリア語上演・日本語字幕付き)


ポッペア: 森 麻季
ネローネ: レイチェル・ニコルズ
オットーネ: クリント・ファン・デア・リンデ
オッターヴィア: 波多野 睦美
セネカ/警護官: ディング・ヤンデル
フォルトゥナ/ドゥルジッラ: 森谷 真理
ヴィルトゥ/ヴェネレ: 澤江 衣里
アモーレ/ヴァレット: 小林 沙羅
アルタナ/乳母/セネカの友�機А‘L據‖臙�
兵士��/ルカーノ/セネカの友�供А−�田 亮
メルクーリオ/セネカの友��/執政官: 加耒 徹
ダミジェッラ/アモーレ�供А‐尚罅^ヾ�
パッラーデ/アモーレ�掘А\郷紂‐�
兵士��/リベルト/護民官: 谷口 洋介

管弦楽: バッハ・コレギウム・ジャパン
指 揮: 鈴木 優人

舞台構成: 田尾下 晢

2017年11月23日(木・祝),16:00開演,東京オペラシティ コンサートホール


首都圏ではオペラ史の嚆矢となる作品と掉尾を飾る作品が11月に上演された。BCJによる「ポッペアの戴冠」と読売日響による「アッシジの聖フランチェスコ」である。後者はチケットの入手に失敗して聴き逃したものの,前者ははたっぷりと堪能させてもらった。「アッシジの聖フランチェスコ」もチケットが完売する盛況ぶりで,演奏も充実したものだったと聞く。当然,異論はあるだろうが,ひと頃に比べ国内のオペラ上演も成熟に向かいつつあるようで感慨深い。新国立劇場や海外歌劇場の引越し公演がオペラの聴衆を育てた面は小さくないだろう。

言うまでもなく,モンテヴェルディのオペラは,ルネサンス期に古代ギリシャの演劇を再興する試みの過程で誕生した。今回,「ポッペアの戴冠」を観て,オペラの草創期の作品であるにもかかわらず,現代のオペラ作品との共通性が著しいと感じた。あたかも,オペラの歴史が螺旋を描いて,出発点に戻ったかと思うほど,「ポッペアの戴冠」は現代性をど備えていることに驚く。

まず,ストーリーが勧善懲悪どころか勧悪懲善であるところが現代的である。ポッペアの略奪愛,邪魔立てする賢者を情け容赦なく自害に追い込む冷酷さ,さらに欲と血に塗れた愛の成就に対する絶賛など。さすが,暴君ネロの物語を題材にして,ポスト・マキャベリの時代に書かれた脚本だけのことはある。

また,音楽面でも現代作品に通ずる特徴が。まず,作品全体がほぼレチタティーヴォから成り立っていて,アリアらしきものはほぼ見当たらない。第3幕の最終盤で歌われるネローネとポッペアの二重唱「ずっとあなたを見つめ」を除くと,アリアと呼ぶに値するものはなさそうだ。また,不協和音を大胆に使用して,登場人物の心理をはじめとしする情感を生き生きと表現する。聴衆は不協和音に生理的な違和感を覚えると同時に,不協和音を巧みに織り交ぜた多彩な表現に惹きつけられもする。

前置きが随分長くなってしまったが,鈴木優人が指揮する「ポッペアの戴冠」を聴いている最中,このようなことを考えていた。おそらく,指揮者はバロックというジャンルの中のオペラを振っているというより,オペラというジャンルの中のバロック期に書かれた作品を演奏していたのではないだろうか。それゆえ「ポッペアの戴冠」と現代作品との共通性が際立ったという一面も。もちろん,指揮者の腕の上げ下げ,つまりリズムの取り方を観ていると,紛れもなくバロック音楽の拍子の取り方である。しかし,そこから聴こえてくるのは弾むようなバロックではない。モンテヴェルディの音楽全般に妥当することだが,バロックのリズムをレチタティーヴォが覆い隠してしまったようにきこえる。そこに不協和音が登場人物の内面を掘り起こす斬新な響きを付け加える。

ただし,鈴木優人がこの上演を隅から隅まで掌握していたかというと,必ずしもそうとはいえない。この上演には14人の声楽家が登場するが,バロック音楽のスペシャリストやオペラ専門の歌手など,その背景は千差万別である。ソリストたちが専門とする分野に応じて,「ポッペアの戴冠」に対するアプローチが微妙に異なっていて,客席で聴いていてその違いがかなり明瞭にわかる。例えば,ポッペアを歌った森麻季はオペラ歌手で,オッターヴィア役の波多野睦美は古楽のスペシャリストである。専門分野のスタイルの違いに加え,歌手の個性や声質の違いも相まって,この上演が想定する様式感を超える相違が耳につく。アリアをベースにしたアプローチとレチタティーヴォに基礎を置いた歌い方の違いといってもいい。と言っても,短い期間でよくここまでスタイルを統一したという面に目を向けるべきだろう。

管弦楽もBCJというのは名ばかりで,普段とは違うメンバーがいつもとは違う楽器を演奏する。リコーダー/ショーム(2人),コルネット(1人)ヴァイオリン(2人),ヴィオラ(1人)。通奏低音ではドゥルシアン,ヴィオラ・ダ・ガンバ,チェロ,ヴィオローネ,アーチリュート,ギター/テオルボ,ハープ,チェンバロ/オルガン,チェンバロ/レガール(各1人)。共演する機会が多くないメンバーもいるとは思うが,そこは古楽器奏者仲間で共有される共通理解が幸いして,闊達な演奏を楽しむことができた。それどころか,モンテヴェルディならではの色彩豊かな音楽表現だったように思う。

ところで,このコンサートは演奏会形式だったが,モンテヴェルディのオペラを上演する場合,舞台装置はなくても構わないのではないか。器楽演奏者は指揮者を含めて15名。オーケストラの前後左右を舞台として使用でき,背後には一段と高い舞台が設えられている。モンテヴェルディの作品では,登場人物の動きは少なく,かつ,動作が緩慢なこともあり,ドラマの再現には大きな仕掛けは必ずしも要らない。舞台装置よりも登場人物のステージ上での動きに工夫を凝らすことで,ストーリーを表現しうると思った。美術や衣装がドラマの展開を邪魔せず,音楽とストーリーに集中できる演出には好ましい印象を持った。

鈴木優人の指揮は及第点をつけても構わないだろう。演奏全体をまとめる指揮者としての役割は果たしていたし,賛否はともかく,オペラというジャンルの中のバロック期に書かれた作品というコンセプトもある程度は明瞭といえるだろう。ただし,上演に関してより強い自己主張があって然るべきという気がしないでもない。器用だが無難なだけの指揮になってしまう可能性がゼロではなさそうだ。

このプロダクションは東京オペラシティと神奈川県立音楽堂でそれぞれ1回上演され,ほぼ完売状態だったと聞く。大手プロモーターがバックに付いていて,知名度の高い歌手を器用したことが成功の一因だろうが,生誕450周年を迎えたモンテヴェルディのオペラを聴きたいという層も少なくなかったように感じる。モンテヴェルディやメシアンなど定番とはいえない作品の上演が定着しつつあり,多くの聴衆がそれを楽しみにしている雰囲気を会場で感じ取ることができた。オペラ上演のもう一つ上のステージに向かう段階に差しかかっているようで嬉しい。
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