ホンダエンジンのMGU-Hのトラブルが注目を集めたので目立っていないが、マクラーレンのタイヤ戦略ミスが酷かった。
今回、マクラーレンは明らかにウイングを立てていて、各メディアのコメンテーターがそれに言及している。
ホンダエンジンは中低速トルクは改善したがピークパワーはまだ不足しているので、ホンダの弱点を補うつもりならば、ウイングを寝かせて最高速を稼がないといけないが、マクラーレンはそうしなかった。
なぜかというと、ウイングを寝かせて直線でオーバーテイクを狙うよりも、ウイングを立ててハイダウンフォースにし、ラップタイムを速くして2ストップ戦略とし、タイヤ交換のタイミングを他チームとずらしてピット戦略で抜く方がトータルでは得だと判断したから。
マクラーレンが2ストップ戦略なのは、エンジニアとアロンソの無線交信の内容で分かる。
アロンソは何度も、(2ストップだから)ハードにプッシュするのか、それともプランB(1ストップ)でトラックポジションを守るのか、戦略をハッキリしてくれと交信していた。
それに対してエンジニアは「マキシマムスピードだ」と返しているので、タイヤを消費してでもマキシマムスピードにするなら2ストップ(タイヤ交換タイミングで抜く)なのだが、それでいて近いポジションにいたフォース・インディアをコース上で抜くように指示するという矛盾があるので、アロンソとしてはどっちなんだよ? と聞き返したくなる。
たぶん、アロンソのスタートが良すぎたからマクラーレンのストラテジストは欲が出てしまった。
スタートでポジションアップしたから、それを守り切れば中団の先頭に出られるつもりになって、プランA(2ストップでハードプッシュの攻撃的戦略)なのか、プランB(1ストップでトラックポジションをキープの防御的戦略)にするのか曖昧になってしまった。
マクラーレン・ホンダが今回のコースではスタートが良いであろうことは予測出来た。
鈴鹿のホームストレートは下りなので、ホンダエンジンのゼロ発進からの蹴り出しの良さは活きなかったが、サーキット・オブ・ジ・アメリカはスタートから1コーナーまでが登り坂なので、中低速トルクのツキが良いホンダエンジンはスタートダッシュが効く。
シンガポールもマレーシアもホンダはスタートダッシュが良かった。アジアラウンドに入ってから、明らかにゼロ発進や低速コーナーからの立ち上がりが速くなっている。
マクラーレンがホンダエンジンの長所短所を本当に理解しているなら、スタートグリッドが8番目のアロンソはトラックポジション重視の1ストップ戦略で、1コーナーで多少のリスクを負ってでもスタートダッシュでポジションを上げることに集中し、そのポジションを最後まで守り切るのが妥当。
エンジン交換ペナルティで最後尾スタートのバンドーンは、後ろから多数抜いて行かないといけないので、ピットのタイミングが他車と被らないように2ストップ戦略にし、エンジンも新品だから飛ばせるだけ飛ばす戦略にするべき。
アロンソに防御的戦略の1ストップをやらせるならば、ストレートで抜かれないようにウイングは寝かせないといけないのに、ウイングは立てていた。
ウイングを立ててダウンフォースをつけたのなら当然ストレートは伸びないのだから、タイヤを消費してでもどんどんコーナーを攻めてコーナーでタイムを稼がないと、ピットのタイミングで前に出ることが出来ない。
2ストップで行くなら、無理してトラック上で他車を抜く必要はない。
ウイングを立てたらストレートでは抜けないので、リスクを負ってコーナーで抜かないといけない。それだと失敗したらトラックポジションを失う。
2ストップなら、空いている隙間のところで目いっぱい飛ばせるように指示するべきで、近いポジションのライバルをプッシュしろとか言っては混乱の元になる。
アロンソへの無線指示は、2ストップの攻撃的戦略(プランA)なのか、1ストップの防御的戦略(プランB)なのか混乱する内容で、ウイングを立ててスタートしたのに途中でプランBに変えたら、タイヤを労わってコーナーを攻められないからウイングを立てた意味がないし、ウイングを立てるとストレートが伸びないからポジションを守り通すのは厳しい。
たぶん、アロンソはエンジントラブルがなくても終盤でタイヤがタレて抜かれていただろう。エンジントラブルによってマクラーレンのタイヤ戦略ミスがバレなかったのだから、マクラーレンとしては悪い結果をホンダのせいに出来てラッキーだった。
バンドドーンのタイヤ戦略もおかしい。後方スタートだけど、前に上れるスピードがある車ならば、攻撃的な2ストップ戦略が妥当で、同じくエンジン交換ペナルティで後ろに下がっていたレッドブルのフェルスタッペンは、2ストップ戦略で3番手まで上がった。
なぜかバンドーンは1ストップで、かつ後半をウルトラソフトで30周も走らされている。
ウルトラソフトタイヤで30周も走ったのは全車両中バンドーンだけで、最後の方は明らかにタイヤがタレていて、実力では格下のストロールに抜かれてしまった。
マクラーレンのストラテジストは、ちょっとトラック上でのポジションが上ると、欲目が出て本来の戦略を捨ててしまっているようでなんとも稚拙だし、ピットストップ作業も他チームと比べて遅い。とてもじゃないがトップチームと呼べる内容ではない。
サーキット・オブ・ジ・アメリカはセクター1が連続高速コーナー区間で、マクラーレンの謳い文句通りにエンジンはクソだがシャーシは1級品ならば、セクター1が速くなるのだが、マクラーレンはここが遅い。
セクター2の前半は高速コーナーで、真ん中に折り返しの急なターンがあり、バックストレートがある。ここは予定通りに遅い。
セクター3は低速コーナー区間で、この区間はホンダエンジンの低中速トルクの良さに助けられて速い。
エアロ勝負になる高速コーナー区間が遅く、2ストップのつもりでウイングを立てたのでストレートが伸びず、低速コーナーだけホンダパワーに助けられて平均以上という結果だった。
ホンダエンジンのトップスピード不足が、マクラーレンのチームとしての弱さを隠蔽した形になっているので、マクラーレン首脳陣としては実はホンダに助けられている。ホンダを叩いておけば自分達の力不足が露呈しないから。
正直、ロン・デニスを追い出した後のマクラーレンはまったく別のチームで、往年の輝きはさっぱり無い。
メディア上ではホンダエンジンのふがいなさにマクラーレンが愛想を尽かしたことになっているが、別れて得したのはホンダのような気がする。
レッドブル系のチームはエアロが洗練されていてドラッグが少ないので、ピークパワーで後れを取っているホンダの弱点をカバーできる。
マクラーレンは逆に、レッドブルやルノーワークスよりも車体設計やチーム力が劣っていることが露呈してしまうので、来年は成績の悪さをどう言い訳するのか、スポンサーに対して非常に苦しくなるはず。
■F1アメリカGP決勝:ハミルトン優勝、ベッテルは2位に食らいつきチャンピオン決定は持ち越し
(AUTOSPORT web - 10月23日 06:32)
http://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=186&from=diary&id=4825221
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