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2017年10月21日22:26

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BCJ:モンテヴェルディ《聖母マリア夕べの祈り》

モンテヴェルディ:《聖母マリア夕べの祈り》
  1 「神よ,わが保護にーーー主よ,われを助けに」
  2 詩篇109「主は,わが主に言いたまいぬ」
  3 コンチェルト「われは黒けれど」
  4 詩篇112「しもべらよ,わが主をたたえよ」
  5 コンチェルト「わが愛する者よ,汝は美し」
  6 詩篇121「われは喜びに満ちたり」
  7 コンチェルト「2人のセラフィムが」
  8 詩篇126「主が家を建てたまわずば」
  9 コンチェルト「天よ,わが言葉を聴きたまえ」
 10 詩篇147「エルサレムよ,主をたたえよ」
 11 「聖なるマリアよ,われらのために祈りたまえ」によるソナタ
 12 イムヌス「めでたし,海の星」
 13 マニフィカト

 鈴木雅明(指揮)
 ソフィ・ユンカー,松井亜希(ソプラノ)
 青木洋也(アルト)
 櫻田亮,谷口洋介,中嶋克彦(テノール)
 シュテファン・フォック,加耒徹(バス)
 コンチェルト・パラティーノ(コルネット&トロンボーン)
 バッハ・コレギウム・ジャパン(合唱&管弦楽)

2017年9月24日(日),15:00開演,東京オペラシティ・コンサートホール


先月の下旬,オペラシティでBCJのモンテヴェルディ「聖母マリア夕べの祈り」を聴いてきた。去る6月に神奈川県立音楽堂での公演に続き,これが今年2回目となるこの作品の公演である。これもモンテヴェルディ・イヤーの恩恵だろう。

横浜で聴いたコンチェルト・イタリアーノによる「聖母マリア夕べの祈り」と同様,素朴で力強い演奏だった。今年になって,この作品をライブで聴くまでは,壮麗であっても繊細な教会音楽だというイメージを持っていた。ジョン・エリオット・ガーディナー&モンテヴェルディ合唱団,イングリッシュ・バロック・ソロイスツのCDを聴いてそのような印象を持ったためだ。

だが,2回続けて素朴で力強い演奏だったからには,先入観を改める必要があるようだ。少なくとも若干の軌道修正は必要だろう。ルネサンス様式からバロック様式への移行期にあたる1610年代に書かれた作品であり,1613年以降ヴェネツィアのサン・マルコ大聖堂楽長をモンテヴェルディを務めたことなどを考えると,BCJやコンチェルト・イタリアーノのような演奏スタイルの方がこの作品にふさわしいように思う。何より,洗練の度合いは低くとも,凝縮された響きのダイナミックな演奏で聴くと,この作品がストレートに伝わってくるような気がする。

今年の2月に同じ会場でベートーヴェンの「ミサ・ソレムニス」を聴いて,鈴木雅明&BCJには失望した。正直なところ「聖母マリア夕べの祈り」にもあまり期待していなかったのだが,残響の長いヴェネツィアの教会に響き渡るような,密度の高い響きで力のこもった演奏は意外だった。それと同時に,のちに同じヴェネツィアで活動したヴィヴァルディのオペラや教会音楽との結びつきが確認できて満足した。

今から振り返っても「ミサ・ソレムニス」は中途半端な演奏だった。力感あふれるベートーヴェンに振れるわけでもなく,かといって清澄な古楽演奏に徹するわけでもなく,どっちつかずの生煮えな演奏である。それにひきかえ「聖母マリア夕べの祈り」は,洗練は一応捨てて当時のヴェネツィア音楽のダイナミズムに的を絞ったのが成功の最大要因だろう。BCJは既にこの作品をレコーディングしていて,おそらく何度もステージで取り上げたことがあるはず。こうした経験がモノを言っている面もあるのだろう。

ところで,モンテヴェルディの「聖母マリア夕べの祈り」は,J.S.バッハの「ミサ曲ロ短調」のように,何か実際の演奏を想定して作曲されたのではなく,教皇パウルス5世へ献呈するために,個別に書かれ演奏に使われた楽曲を現在のような形でまとめた作品であることをこの日のプログラムの解説で知った。

通常「夕べの祈り」(晩課)は5つの詩篇,イムヌスおよびマニフィカトで構成され,5つの詩篇とマニフィカトの前後にはアンティフォナが配される。一方,モンテヴェルディの晩課では,アンティフォナの代わりにコンチェルトが使われているうえ,コンチェルトのうちの1曲には聖母マリアの祝日には普通歌われない歌詞が使われているのである。さらに,本来であれば曲全体の最後に歌われるリタニア(「聖なるマリアよ,われらのために祈りたまえ」によるソナタ)は後ろから3番目に置かれている。つまり,モンテヴェルディの「聖母マリア夕べの祈り」は,実際の典礼でそのまま使うことできない形式で書かれているそうだ。ちなみに,晩課はミサと並ぶ典礼儀式である聖務日課のうち,夕方に行われる礼拝をいう。

今年,生誕450年を迎えたモンテヴェルディは,世俗歌曲であるマドリガーレをルネサンス様式からバロック様式へ転換させ,劇音楽であるオペラを確立し,教会音楽の分野でも伝統的な手法による作品と新しいコンチェルト様式の作品を書いた。マドリガーレは10巻を超える曲集として残され,オペラのスタイルは「オルフェオ」,「ウリッセの帰郷」,「ポッペアの戴冠」などの作曲を通じて確立され,アンソロジーといえる曲集「宗教的・倫理的な森」や「聖母マリア夕べの祈り」などの作品で新旧の様式により宗教音楽を書いた。モンテヴェルディ・イヤーが,彼の作品を聴く機会を増やしてくれたのはありがたいことだ。
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