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2017年10月08日07:02

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長編小説 角が有る者達 第164話

この話はカスキュアがヤバイヤバイヤバイヤバイと言い出した後、ショックな内容があります。その点に注意してお読みください。

『乙女達の帰還』

『手術室』

レミファソラ「術式終了ーーー」
看護師「お疲れ様です」

 ドクター・レミファソラの宣言と共に張り詰めた空気が消え、その場に居合わせた全員が安堵の溜め息をつく。
 それはこの手術を間近で観察していた果心林檎も同様だった。

果心(ふむ、流石は世界でも数少ないGチップの研究者、レミファソラ氏ね。
 ユーの手術を完璧に行えるとは大したものだわ)
レミファソラ(やべえ、やべえよ。
 洗脳装置仕込まないまま手術を終わらせちゃった。この事がダンスにばれたら俺は一巻の終わりだ・・・)
「患者を病室まで運んでくれ。術後で数時間は目を覚まさないだろうが、慎重にはこぶんだぞ」
助手「分かりました」

 そう言って助手がユーが寝ているベッドを運ぼうとした瞬間、手術後で寝ている筈のユーがむくっと起き上がった。

ユー「ふわあ・・・あれ?
 手術もう終わったの?」
全員「ええええええええええ!?」

 目をぱちくりとしたままキョロキョロと辺りを見渡すユーに、全員が驚き悲鳴を上げてしまう。
 果心も思わず目を丸くしてユーの姿を凝視していた。

果心(あ、そ、そうか!
 アイの、いや、ユウキの『超再生能力』が発動したのね?)

 そもそもユーは、アイが昔捨てた『超再生能力』を持った腕から造られた人造人間(デザイナーベビー)。
 手術の間は発動しなかったけど、術後に発動するように能力を調整していた可能性もある。

果心(ユー、あなたって子は本当に、本当にあの男に似ているのね・・・)

 果心が少し笑みを浮かべる前で、ユーは手術室内を興味深く歩き回る。

ユー「うわ、この緑のシーツ、凄い血だらけ、え、これ私の血なの!?
 貧血とか大丈夫かな・・・」
レミファソラ「・・・貧血より前に、心配しなきゃいけない事があるぞ、ユーちゃん」
ユー「あ、音符おじさん」
レミファソラ(音符おじさん!?)「ユー、君は手術により特殊なGチップを埋め込まれた。
 それにより、君は才能・能力に恵まれなくなった代わりに寿命が延びる事となったわけだ」
ユー「そうなの?
 でも私、手術からすぐに回復したよね?それって能力じゃないの?」
レミファソラ「それは『遺伝能力』だろう。親が強力な能力や才能を持っていた場合、子どもに能力の一部が引き継がれる事がある。
 君の親は、再生能力の持ち主だったんだろう」
ユー「親の能力・・・パパかな?ママかな?どっちの能力か、分かる?」
レミファソラ「私はどちらの能力か知らないから分からないな」
ユー「そっか・・・ううん。
 お医者さん、助手の皆さん、私の病気を治してくれてありがとうございました」

 ユーが満面の笑みで手術室の人達に頭を下げていく。助手は笑みを浮かべ、レミファソラは硬い笑みを浮かべながら訊ねる。

レミファソラ「・・・君、もう一人か二人礼を言う人を忘れてないかな?」
ユー「あ、そうだった。
 果心さん、私の手術を見届けてくれて、ありがとうございました」
果心「いいえ、大丈夫よ。
 私はあなたの手術を見守る事ができて良かったわ。それと、これも」

 そう言って果心がユーに渡したのは袋の中に保存された、赤い鬼のぬいぐるみ。
 ユーはそれを見た瞬間、嬉しい顔をしながら涙をこぼしていき、袋の中のぬいぐるみを強く抱きしめた。

ユー「パパ・・・私、頑張ったよ。
 見守ってくれて、ありがとう・・・」 果心「あらあら、こんな可愛い女の子を泣かせるなんて、この鬼は悪い鬼ね」
ユー「ううん、パパは良い人だよ。
 私を全力で助けてくれた、私を力強く守ってくれたんだ!」
果心「そう・・・」

 果心はちらっと医者達を睨み付ける。それだけでレミファソラは一瞬だけだが全身が震え上がってしまった。

 ユーはぬいぐるみを抱いたまま果心と一緒に歩き、手術室の扉の前に立つ。
 そして手術室の前でユーはペコリと頭を下げた。

ユー「皆さん、私を治してくれて本当にありがとうございました。私、この恩は忘れません」
果心「そうね、病気が治って嬉しいわ。
 あなた達も、嬉しいわよね?」
レミファソラ「は、はい、もちろん・・・」

 手術室の扉が開き、ユーは右手で手を一生懸命振りながら手術室を出ていく。
 そして扉が閉まった瞬間、レミファソラが叫ぶ。

レミファソラ「全員、今すぐこの城から逃げる準備をするぞ!
 ダンスに殺されたくない!」

▼     △     ▼

 手術室の外に出たユーは、きょとんと首を傾げる。目の前にいる筈の大きな友人、ニバリの姿がないからだ。

ユー「あ、あれ?ニバリ、何処にいったの・・・?」
果心(僅かだけど、廊下のあちこちに修復された跡がある。
 これは、何か戦いがあったみたいね。
 それも一人二人の戦いじゃない、何十もの相手との戦いだわ。
 一体どれほど激しい戦いが、手術室の外であったと言うの?)
ユー「あれ?」

 ユーがふと床を見ると、小さな花が転がっている事に気付く。それはかつて、ニバリに渡した小さな白い花。岩と岩の間に咲く、小さな花だ。ニバリに巻いた筈の糸もしっかり付いている。

ユー「これ、ニバリに渡した花だ・・・」
果心「イワツメクサ・・・。
 花弁が傷付いてないから、大切にここに置いたのでしょう。
 ニバリが、花をここに置いたんだわ」
ユー「なんで、こんな所に?」
果心「・・・言いづらいけど、あなたに嘘をつきたくないわ。
 多分、彼女は別れのつもりでここに置いたのでしょう」
ユー「ええっ!」

 ユーは目を丸くし、小さな体を震わせる。果心は真っ直ぐユーを見たまま話を続ける。

果心「これはあくまで憶測だけど、彼女は私達を守る為にここを離れたんじゃないかしら?
 今は修復されているけど、床や壁には切り傷の跡が幾つもあるわ。
 きっと、激しい戦いがあったのよ。そして狙われてるのはユーちゃんではなく、自分だと悟った。
 たから私達の前から消えたのよ。私達を守る為に・・・」
ユー「そんな、ニバリ・・・!
 私、ニバリを探さなきゃ!」
果心「ダメよ、あなたは今、助けられたばかりなのよ?
 いくら超再生能力で傷は癒すことはできても、体力まではそうはいかない。
 あなたは本来、まだベッドで寝ていなきゃいけない存在よ、助けになんていけないわ!」
ユー「でも、でも友達が危険な目にあってるのに黙ってるなんてできない!」
果心「わがままを言わないで!
 それで自分を危険に晒したら、それこそニバリの気持ちを犠牲にするのが分からないの!?
 立場を弁えなさい、私達に自由は許されないのよ!」
ユー「・・!」

 果心の言葉にユーは黙ってしまう。そして花を見つけた場所をもう一度見る。
 花は、手術室の方に向いて置かれていた。ニバリはどんな気持ちで、ここに花を置いたんだろう。
 どんな気持ちで、私達から離れたんだろう。そして今、どんな危機に陥っているのだろうか。
 考えれば考える程、ニバリを心配になる気持ちが強くなってくる。それと同時に、自分達を助けてくれた人達の顔も次々に浮かんでくる。
 パパやゴブリンズや、ダンクや、音符おじさん等々の顔が見えて・・・消えていった。

ユー「・・・ごめんなさい、果心さん。
 私、やっぱりニバリを・・・」

「果心様、果心さまぁー!」

 二人の会話を遮るように、いつの間に近づいていた一人の兵士が話しかけてくる。
 果心は一応ユーの右手を掴んでから、それに答えた。

果心「どうしたの?」
兵士「はい、ダンス様があなた様をお呼びしています。
 そろそろ結婚式が始まるから、花嫁衣装の支度をしろとの事で・・・」
果心「やれやれ、私は手術を見た後で疲れているのに、暇もくれないみたいね。
 わかった、すぐにいくわ」
兵士「ではご案内します。
 こちらへ・・・おや、その子は?」

 果心はふと、ユーの顔を見る。
 ユーもまた、果心の顔を真っ直ぐ見た。
 果心は少し考えた後、こう答える。

果心「彼女はね、今の今まで病院で手術していた子なのよ。手術の経過を私は見たけど、それはとても大変な手術を彼女はやり遂げたわ。どんな手術かと言うとねーーー」

 果心が兵士に話している間、ゆっくり、ゆっくりとユーを掴む手が離れていく。
 それに気付いたユーは果心の意図を汲み取り、小さく頭を下げた後、素早く腕を引っ張り果心の手から逃れる。

果心「あ!」
兵士「は!」

フォト

フォト




 ユーは走りながらおさげの髪に花のついた糸を巻き、必死に走り始めた。
 それを見た兵士は慌てて彼女を追いかけようとするが、果心がそれを制止させる。

果心「彼女を追いかけてはいけません」
兵士「し、しかし!」
果心「私が彼女を見守る約束は『手術まで』です。そのあと彼女がどうしようか、私には関係ありません。
 それより私には花嫁衣装の準備をしなければいけないのでしょう?早く私をそこまで案内しなさい。
 その後でなら、彼女を追いかける事を許すわ」
兵士「・・・分かりました。
 こちらです・・・」
果心「ありがとう、物分かりの良い子は好きよ」

 果心は兵士に案内され、足早に歩いていく。先程まで掴んだ小さなぬくもりが消えていくのを感じながら、果心は物思いにふける。

果心(走りなさい。あなたは沢山の事を知る権利がある。立場、状況、歴史、善悪、意志、その全てをあなたは知らなければいけない。
 誰かから聞くのではなく、あなた自身の全てで学ぶのです。
 彼等に付き従うだけの私と、違う道を進みたいのなら・・・)

 不意に、一筋の涙が流れるのを果心は感じる。果心はハンカチを取り出し、汗を拭うようにその涙を拭き取りながら、足早で歩く兵士の後をついていった。
 
▼    △    ▼
 

 シティとダンスは、暗い地下道を歩いていく。シティの方は両手を背中で縛られている為に少しふらつきながら歩いていく。 
 おまけにドレスを着ているので足元がみえなくて歩きにくい。
 それを見たダンスはため息を軽くついた。

ダンス「貴様、さっさと歩く事も出来ないのか?」
シティ「うるっさいわね!レディの両手を縛ってる癖になに偉そうにしてんのよ!
 さっさとこれ外しなさいよ!」
ダンス「黙れ。
 貴様にはこれから、ある試験につきあってもらう」
シティ「あー?
 結婚式に参加させる為にここまで来たんじゃないの?断ったらムカデに喰われるからここまで来たのに、今更趣旨換えとか恥ずかしいなー。私、変な歩き方して凄い疲れたんですけどー?」
ダンス(この女いちいち癪に触るな・・・)「もうすぐだから、黙ってろ。
 じゃないとムカデをぶちこんでやる」
シティ「うわあ嫌な脅し方だこと。
 はいはい、黙っていますよーだ」

 そう言いながら、シティは小さく舌を突きだす。あくまで反抗の意図は崩さないつもりだ。
 ダンスはそれを無視した後、一つの扉の前に立つ。鋼鉄で出来た重そうな扉だ。
 ダンスが扉を横にずらすと、中には灯りが付いてないのか部屋の様子が見えない。 
 だが、部屋の中は異常に臭く、近寄りがたい雰囲気を醸し出していた。

シティ「なによ、この臭い部屋は・・・この臭いはなんなのよ」
ダンス「む、お前はこの臭いが何か知らないのか?てっきり知ってるかと思ったが」
シティ「知らないわよ。
 まさか、ここに入れって訳じゃないわよね?」

 シティは少しひいたが、ダンスは当然のように答える。

ダンス「そのまさかだ。
 さっさと入るがいい。俺がもう一度開けるまで、ずっとそこにいるんだぞ。
 おっと忘れてた、その前にこれを付けて貰う」

 そう言ってダンスが取り出したのは首輪だ。赤い首輪をシティの首に付け、装着させる。

シティ「なによこの首輪は。
 あんた人をペット扱いする気なの?」
ダンス「それは現在研究中の『能力封印の首輪』だ。短期間ではあるが能力を使う事を封じる事が出来る。
 お前が勝手に逃げられると困るんでな」
シティ「ち、今は甘んじて受けてやったけど、後で外す時は気を付けなさいよ。あんたの指全部噛み千切ってやるわ」

 ぎろりとダンスを睨み付けながら、シティは部屋の中に入っていく。部屋の中は強い悪臭がたちこめており、両手を縛られているせいで鼻を塞ぐ事も出来ない。

シティ「なんなのよこの臭い・・・」(シティ、シティ!この臭いはヤバい、早くここから出なさいよ!)「ん?カスキュア?
 なんでそんなびびってるのよ」

 カスキュアと話し合う中、ダンスが扉をゆっくり閉める。完全に閉めると同時に部屋の灯りがつき、中がよく分かるようになった。
 部屋の中には半裸の男性が十人、部屋の壁際に立っていた。シティは眉をひそめ、心の中でカスキュアが悲鳴を上げる。

カスキュア(ぎいいいやああああ!
 薄い本案件だこれえええ!?)
シティ「薄い本って何よ?
 なに、こいつらとバトれば良いって訳?」
カスキュア(違う違う違うちがあああう!
 こう、いろいろヤバいのよ!裸!裸がああああ!)
シティ「カスキュア、あんた悪い奴の親玉の癖に変な所で弱いのね・・・」

 シティはそう言いながら、辺りの人間をぐるりと見回す。男達の中で一際太った男が涎を垂らしながら歩き始めた。

男H「ふへへへへ、また活きのいい女が来たぜ。今からおめえをお・・・」

 その次の台詞を言う前に、シティは太った男の腹に思いっきり蹴りを入れていた。
 ヒールは走る時に捨てていたので素足が脂肪の詰まったお腹に突き刺さり、男は壁に叩きつけられ、気絶しながら顔面から床に落ちる。
 それを見た男はゾッと震え、シティは首をかしげた。

シティ「なんだ、前に来たからやる気あるのかと思ったらこんなに弱かったのね。
 筋肉も無い、武器も持ってない、格闘術も学んでない癖に、何をする気だったのかしら?」
カスキュア(あー、うん。
 アタシ、あんたが破壊神と呼ばれてたの忘れてたよHAHAHA)
シティ「あら、忘れないでくれない?
 私はすっごい強い女なんだから。
 蹴り技だって、アイがやってるのをよく真似してるし」

 シティはどん、と床を踏み鳴らしこの場にいる男性達を睨み付けた。

シティ「あんたらなんかに、絶対負けない!」
男性「!!」

 それを聞いた男性達は一斉に足を強く踏み鳴らした。その中の一人が叫ぶ。

男A「ぜっっったいに組伏せるぞ、てめえら!」
男達「おう・・・」

 と叫び切る前に、男Aの顔面に蹴りが入り、男Aは倒れていく。
 シティは足一本で地面を踏み、ぐるりと体を回転させもう一本の足を垂直に上げ、側にいた男達を蹴飛ばしていく。
 だが蹴りが浅い為か一人の男が倒れずに、ドレスを掴む。これで逃げようとすれば体勢を崩し、たおれてしまうだろう。

男B「とった、これで・・・」
シティ「ハハァ!」

 シティは男Bに素早く近づき、頭突きを喰らわせる。男はふらつきつつもドレスから離さない。足止めだけでもさせるつもりなのだろう。だがそれがシティの狙いでもあった。
 シティは自身の体を回転させ、ドレスを引き裂く。足が露になり、ドレスが半分近く裂けていきながらも、シティの浮かべる表情に恥じらいも羞恥心も欠片も無い。
 更なる闘争ができるという、歓喜の愉悦だけだった。

カスキュア(こいつ・・・?)
シティ「ハハッ!アハハハハッ!
 やっと邪魔な拘束具が消えた!
 これで遠慮なくーーー」
男C「くらえええ!」

 男Cが飛び上がり、シティに飛び膝蹴りをくらわせようとする。シティは愉悦を浮かべながらそれを見た後、軽く跳躍して男Cより高く飛び上がる。
 
男C「なっ!?」
シティ「温いわ、あんた」

 シティが両足の平で男Cの頭を掴み、空中で自らの体を回転させ、男Cも空中で回転し、降りた所を組み伏そうとしていた男Dの頭めがけてシティは膝を使い振り下ろす。
 ゴシャッという音が響き、二人は倒れて動かなくなった。それに目をやる事もなくシティは立ちはだかる残りの男達を睨み付けた。三人の男達は震え、一歩後ずさった。

シティ「はは、ハハハハハハハハハ!
 その程度で私に闘いを挑む気なの!?
 さっさと尻尾巻いて逃げた方が良いんじゃないの?」
男達「ぐ・・・う・・・」
カスキュア(ふぅん。
 騒いだり吠えたりする男から攻めて他の奴等の気を徹底的に削いでいく。
 半数の有象が失せればもう半数の無象は闘う気は無くなる。
 まるで狂気の犬のように笑いながら、内心では機械のように倒す算段を計算し続けている。
 こいつの闘いかた、マジで強欲のジジイそのものじゃねえか)
シティ「・・・逃げる場なんて、あんたらにゃ与えられてないか。
 なら、一気にーーーー」

バチィッ!

シティ「ーーーー!」

 電撃が、体中を駆け巡る。力を入れる事ができずにあっさりと倒れてしまう。
 その背後にいる男の手に、紫電が走る。

男G「へ、へへ・・・!
 俺には『触れた相手に電撃を与える能力』があるんだよ!
 てめえみてえな女、倒すにゃ簡単なんだよ!」
男達「はは、はははは!
 やっとこの女をいただけるんだ!」
シティ「つ・・・こん、にゃろが・・・」
カスキュア(ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ!
 くそ、アタシに交代しろ、闇の力で奴等をーーー)

 カスキュアがそれを言う前に、男Gの腹部に柄が黒く穂先が真っ赤な槍が、男Gの腹部を突き刺した。

男G「あ・・・れ?」

 よく見るとそれは槍ではない。一メートルはあるばかでかい百足の身体だ。
 百足の長い体が男の腹を食い破ったのだ。そして長い体腹部からズルズルとでてきてはぐるりと回転し、男Gの体を締め上げていく。
 やがて作り上げられたのは百足の黒い体でできた山。その頂点に百足の頭が入り込んでいく。中の男を噛み砕く音が聞こえてきた。

「ぎゃああああああああ!!」
「うわああああああああ!!」
「が、があああああああ!!」

 不意に三人の悲鳴が聞こえてくる。シティがゆっくり振り替えるとそこには蜂や蟻や蛾に全身を食いちぎられていく哀れな被害者(エサ)の姿が見えた。
 その奥で、スーツを着た男・・・ダンスがゆっくりと近付いてきた。その顔は怒りに満ちていて、殺気を男達に向けていた。

ダンス「虫ども、こいつらを骨まで残さず捕食しろ。血の一滴すら貴様達のハラワタの外に出すのは許さん」
シティ「ダンス・・・?」

 ダンスがゆっくりシティに向かい歩いていく。その両横で虫達が全部ダンスのスーツに入っていき、百足もまたスーツの中に隠れていく。
 そして残されたのは、倒れ伏すシティだけだった。
 シティは息を切らしながら訊ねる。

シティ「てめー・・・」
ダンス「なんだ?」
シティ「私の前で、人を殺してんじゃ、ねぇよ・・・気持ち悪くなるじゃねえか」
ダンス「貴様、殺人に抵抗があるのか。
 なぁに、汚物の一つも残さず虫達の腹の中だ。死臭で吐き気を催す事は無いさ」
シティ「そういう考えが、嫌いなんだよ・・・バカが」
ダンス「ふん・・・。
 ほら、立てよ」

 ダンスはシティの手を引っ張り、ゆっくりと立ち上がらせていく。シティはダンスの顔を見た後、拳を作って殴った。
 鈍い音が部屋の中に響き渡る。

ダンス「ぐ・・・!」
シティ「あんたに良いように使われて殺された奴の分よ、あいつらの事許す気もないけど、殺人を無視したくもないんでね」 
  
 シティは冷たい目でダンスを見下す。
 ダンスは先程見せた激昂を見せず、静かにシティを見ていた。

シティ「なによ、その目は・・・」
ダンス「いいや、やはりお前は、お前なんだなと理解してな」
シティ「はぁ?」
ダンス「今回、俺はある事を試す為にお前をこの部屋に連れ込んだ。
 お前が倒れても、俺はお前を見捨てられるかどうかをな」

 ダンスはゆっくりとシティから離れ、倒れた男達の側を通りすぎていき、そしてシティと対峙し、睨み付けていく。

ダンス「だが、俺はお前を見捨てる事は出来なかった。
 俺は人は全て等しく哀れな存在だと思っているが、貴様だけは違う存在なようだ」
シティ「え・・・?」

 シティはダンスの顔を見る。
 ダンスは顔をシティから僅かに目を逸らしたまま話を続けていく。

ダンス「前々から気になっていたがお前を見ると心がざわつくんだ。
 どうも、俺の心に奴の心が流れ込み始めているようだ。おかげで、お前を見ると無性に苛ついてしかたない」
シティ「だったら助けなきゃ良いのに。
 あれぐらいのやつ、私一人で何とかできたわよ」
ダンス「負け惜しみを言うな。
 お前の身が危ういのは、どうみても明らかだっただろうが。あの場で奴等に手をかけなければ、お前の人生が終わってたぞ」

 そう言われると、シティは言い返せない。確かに電撃で体が痺れた状態なら、自分を殺すのは簡単だっただろうと思うと、僅かに体が震えそうになる。
 それを誤魔化すようにダンスを強く睨み付けるが、ダンスの顔に焦りや怒りはまるで見られなかった。彼は淡々と、自分の気持ちを独白していく。

ダンス「ふん。お前なんか助けたくなかったさ。だが、駄目だった。
 貴様の声を聞く度に、姿を見る度に近付きたい気持ちが膨らんでいくんだ」
カスキュア(うん?それってつまり・・・)
シティ「ふぅん。それってつまり、
 私と正々堂々と決着をつけたいという気持ちがあるのかしら?
 前回はあまり闘えなかったからね」
ダンス「そうだな。これでも王を目指す身分だ。確かに我が軍勢を一人で叩き伏せた貴様と、堂々と決着をつけたい気持ちはあるが・・・。
 駄目だな、何か違う気がする」
 
 ダンスもまた、僅かに首をひねる。
 シティはダンスから聞いた話を纏める事にしてみた。

シティ「うーん、今までの話を纏めると、あんたは私を見ると苛ついてしょうがない癖に私から離れるのが嫌、なのよね。
 それが何故か分からないからこんなくっさい場所に誘ったわけだ」
ダンス「まあな。
 貴様がもう少し弱々しく叫んでくれたらその理由も分かっただろうが、あんまり強いんで、考える暇が無かったよ」
シティ「なにそれ、私が強いのがいけないって訳?自分の愚鈍さを人のせいにするなんて、最低ね」
ダンス「今はその言葉を甘んじて受けよう。さあ、結婚式場に向かうぞ」

 ダンスはそう言うと、さっさと部屋の外へ向かっていく。それを見たシティは妙な気持ちを抱きながらついていく。

シティ(あいつ、中身はやっぱりダンクと違う。人殺しをなんとも思わないし、性格はかなりひねくれてるし。
 だけど、やっぱあの顔みるとねー)

ダンク『シティ、俺はお前を愛している。
 一目あったその時から、ずっと・・・』

シティ(・・・ダンクの言葉を思い出して嫌なんだよ。さっさとくたばっちまえ、グズ男)

 僅かに頬を染めそうなのをは必死に我慢しながら、シティはダンスについていく。
 ダンスはダンスで、何故シティに執着するのか遂に口にする事もなく、
 二人は部屋の外へ出ていってしまった。


カスキュア(ん?まさか?んー?
 いやいやいやいや。幾ら恋愛キューピッドのカスキュアちゃんでも、これはちょっと・・・んー、どうしよっかなー?)


 続く


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