大黒さまのちえ（江戸小話）

むかし、子供たちが空き地で地面に埋まっていた大黒さまを見つけました。

それを知った長屋の家主が、子供たちから大黒さまを取りあげると、

「ほほう。これは縁起がいい。この空き地は、わしの物。つまりこの大黒さまも、わしの物じゃ」

と、さっそくきれいに洗って床の間に飾りました。そして、家主さんは福の神が舞い込んだいうので長屋の連中を一軒のこらずよんで、祝いの酒盛りを始めました。


「旦那さん、このたびはおめでとうございます」

「大黒さまが出てくるとは、めでたいけとで」

「これからは長屋を、大黒長屋とよびましょう」

店子（←たなこ＝家をかりている人のこと）たちに言われて、家主さんは大変ごきげんでした。

「それみんなで『豊作じゃ』を歌おうではないか」

家主が言うと、みんなはこの頃のはやりの『豊作じゃ』を歌い出しました


豊年じゃ、万作じゃ

百でお米が、三斗じゃ

豊年じゃ、万作じゃ

百でお米が、三斗じゃ

酒に酔った連中が、手や足をふりながら、踊りだしました。


豊年じゃ、万作じゃ

百でお米が、三斗五升

酒も飲めない者たちも、手拍子をとって盛り上げました

豊年じゃ、万作じゃ

百でお米が、四斗じゃ

あいやお米が、四斗五升

どっこい五斗じゃ、五斗五升

安いぞ、安いぞ

安いがええぞい


するとそれを聞いた大黒さまが、足元の二俵のお米をかつぐと床の間からおりて、外へ出ようとしたのです。

「もし、もし、大黒さま」

家主はびっくりして、大黒さまをつかまえると、大黒さまにたずねました。


「もし、大黒さま。何か、お心にさわりましたか？」

すると大黒さまは、気ぜわしそうに言いました。


「これ以上、値段がさがらぬうちに、わしのこの二俵を売りにいかにゃ」







ちゃんちゃん





（１５．９．２０）