新宿二丁目要通りの一角にある純喫茶「のっぽ」・・・。
10時ちょっと前に出勤したアニキは、入り口のドアにかかった上下の鍵を開ける。
一階と二階の電気をつけて、スライダーで適度な照度に調節する。
ジュークボックスの電源を入れ、有線放送のチャンネルをポピュラーにして流す。
昨日の夜、床にオイルを塗るので、持ち上げて裏返しになっていたイスを下ろして、位置を整える。
食パンが少なくなっていたので、近所のパン屋さんへ行って、食パンを一斤買う。
ここへ来るといつも「パン屋さんって、どうしてこんなにいい匂いがするんだろう♬」と思う。
焼きたての食パンは柔らかすぎて、自分では切れないので、お店のスライサーを使って、等分に切ってもらう。
「のっぽ」に戻ってお湯を沸かし、ネル布を使って、こんどは珈琲のドリップだ。
店内には香ばしい珈琲の香りが漂ってきた。
さあ、これで準備OKだ。
そこへ、よしのりがドアを開けて入ってきた。
「おはようさん」
独特なイントネーションで、朝のあいさつをしてくる彼は、人気絶頂のバンド、ザ・タイガースのバンドボーイをしている。
といっても実際は、ボーカルの沢田研二の、付き人としての仕事がメインになっている。
今日は青山スタジオで練習があるけど、それまでひまだから、やってきたのだ。
彼が来ると、他では絶対に聞けない、タイガースの話が出てくるので楽しみだ。
「アニキ〜、おなかすいちゃったなあ」
「お〜!?トーストでも焼こうか?」
「うん、お願いするわ」
「アニキもバンドやってたんだって?」
「あぁ、アマチュアだけどね。ワイルド・ビーストっていって、千曲寮のバンドでさ。リードギターと、ボーカルも少しやってるんだよ」
「オレもね、ドラムが好きで、ピーさんのドラム借りて、セッティングのついでに、たたいたりしてるんよ」
「お〜!そりゃすごいじゃない」
こうして、まずはアルファードの中心となる、ボーカルとドラムのメンバーが出会ったのだった。
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