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2017年07月22日07:00

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丘に立ちて–転進の夕べに  − 吉田嘉七 ガダルカナル戦詩集より

丘に立ちて–転進の夕べに  − 吉田嘉七 ガダルカナル戦詩集より


月落ちて山肌くろく
湾に影は続きて       いりうみにかげはつづきて
ひそけしや南冥の波
砲声は遠く吼れど           ほうせいはとほくたけれど
静もれり椰子の片丘。
もだしつつ今立ち立てば、
腸を断つ思ひ新たに
つくるなき怒りは湧くに、
去らんとす、これやこの島。

かの日大命を拝してこの島を攻め、
こよい大命を畏みてこの島を去る。

ああ、われら勢い勢いて
闇の夜も、敵機ももののかは、
攻め上がりしこの片岡や、
耐えし日は幾日なりしぞ。
弾丸なきに歯を食いしばり、
糧なきにたゆたいはせず、
攻め攻めて、ついに破らず、
戦友あまたここに葬り        ともあまたここにほうむり
涙また未だ干ざるに、
空しかる剣をいだきて、
この島を今去らんとす。

かの日大命を拝してこの島を攻め、
こよい大命を畏みてこの島を去る。

今何の私情かあらん。
われらただ
命により生き、
命により死す。
命によりまたここを去る。

さあれ、椰子の片丘、
かぎりなき怒りを秘めて
守るべし、戦友のみたまを。
いつの日か、かの日の如く
再びぞわれら来りて、
日の御旗、ここに立つべし。
見よ、かなた、浪を蹴立てて
われら迎うと艦はきたりぬ。      われらむかうとふねはきたりぬ
いざさらば、ガダルカナルよ、
眠りますあまたみたまよ。
今は只ひたに去るべし。
この島を今は去るべし。





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