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2017年07月08日21:00

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【オリジナル小説・昔に書いたもの】遠ぼえの聞える日

いろんな趣で人が集まる夜の港沿いの公園。私も例にもれず学校の友人と夜更かしの遊びに興じる為にここで待ち合わせをしていた。

その中で突然近くで遠吠えを聞いて、思わずその方向を向く。

細い鉄の敷居に器用に座り、その少女は遠吠えを上げていた。上手かった。ただの鳴きまねならたいして人は気にもしなかったろう。だけど側に狼か野犬かが突然出現したのかと思えるほど、その声は近かった。

しかし、私が振り向いたのは、その他大勢の本物の遠吠えと一瞬間違えてとは違う。
遠吠えは言葉である。無意味に叫んだからと言って、それが近いものだからといって決してマネが言葉になるわけではない。もちろん知っててマネるならそのうち言葉にもなろうが。

私は少女と同じように遠吠えをあげようと思えばあげれる者だった。それもマネでなく本当の意味で。だからこそ振り返る。こんな人ごみの中、遠吠えを上げようとは思わない。

普通と言ってはおかしいが、学校で教育を受け、友達を作り、長期休みにはバイトをし、いずれ人が就職して良かったねと言われる職につきたければ、私が何者であるかは隠しておいた方がいい。そうでなければ悪くて異常者、軽くて変人である。

さらに悪いことになれば化け物として殺させるか見世物か研究材料だ。

3度目、彼女が遠吠えを上げた時には既に人々は関心を示さなくなっていた。丁度、その頃に5分遅れで来た友達と変な女がいるねと話を交わしながら私は公園をでていった。

ただ、その遠吠えは意味はなくても何故か気持ち惹かれるものだった。あまりにも悲しくて。それはまるで死を間近に感じてる人間の鳴き声に何故か思えるような気がしていた。そのせいかその声と共に小さな痩せすぎの少女が月に映えて鳴くその光景は瞼に焼き付いていた。


縁というものは憑き物かもしれない。少女とであったのはそれから三日後だった。両親に古い知り合いが死んだから葬儀に参列するとのことだった。嗅覚が死んだ者を仲間だと判断する。獣臭だ。その孫娘として少女はいた。

少女はどう見ても人間だった。私達の五感がそうそう間違えるはずもない。人間に先祖返るなんて逆パターンもあるのだろうか?他の家族を見てみる娘は狼、旦那は人間、孫息子はハーフ、孫娘が人間、ハーフならハーフの気配がする。

血に混じった獣の遺伝子は人間と狼と完全に分けたりしない。優性遺伝子だからなのか遺伝子の仕組み自体が違うのかはわからないが。
「パパ、なんであの子だけ人間なの?」

「人様の家のことは詮索するものじゃないよ」
「でも、あの子、遠吠えしてた公園で、言葉にはなってなかったけど意味は通じた。おばあちゃんが死ぬのを感じ取って鳴いてたんだ」

「それは本当かね?…まずいなぁ。ちょっと待ってなさい」
パパが少女の両親と喋っている。パパに頭を下げたまでは良かった。そのまま無理やりどこかに引きずられていく。私は後をつけた。

父親に引っ叩かれて、母親に蹴られる。人の見えないところでいきなりである。
「人の居るところで鳴きまねするなと言ったろうが、お前は人間なんだ鳴き声なんてあげるもんじゃない」
「だってばーちゃんが死んでく。ばーちゃんが教えてくれた」

また二人で蹴りからかす。父親は男だし、母親は獣人だ。その威力は内臓を破裂させかねない。とんで前に出て唸り声を私は上げた。威嚇である。母親が獣人語で私に話しかける。

『何故、邪魔をするの、貴方には関係ないでしょう。身内のことよ』
『この子10歳は超えてる口で叱れば解るはず。告げ口した身としてはほっとけない』
『交通事故で知能をやられてるわ。言ってもわからない。体で覚えさせる』
『貴方達本気で蹴ってた。わかる前に死んじゃう。それでも親』

「そのこは人間だ。私が人間だとしても人間は生まれない。拾い子だよ」
「なら、何故拾った子に死ぬような真似させるのよ」

『拾ったのは母よ。私が車で事故を起こしてその子の両親を殺したわ。その責任をとると言って母が引き取ったの。私には思い出したくない事故、でもこの子がいる限り忘れることもできないの。食わせてるだけでもましなのよ。死んだって…』

『知能が遅れてるただの人間の子が戒律破ったからそれを理由に殺すの?言ってわからないなら殴られてる意味も解らないでしょう』

「私、解る。でもばーちゃん愛してくれた。吼えずにはいられなかった」
「獣人語がわかるの?」
「喋れないけどばーちゃんが教えてくれた」

「なにが知能が遅れてるよ!普通より頭がいいくらいじゃない」
『獣人の知能に比べたら人間なんて…』
『なら、なんで人間と結婚してハーフまで作ってるのよ』
『………』

私は女の子に振り返った。
「名前、何?」
「風鈴」
「私は狼刃、男の子みたいな名前でしょう。親が女の子の名前考えてなかったの」

「いらない子なのでしょう?連れてくわよ。文句は言わせない」
私は女の子をパパの元へ連れてきた。事情はかいつまんで話す。その間にママが風鈴の腹を探る。ママは治癒能力者だ。統括の直系にしか生まれない。私もその治癒能力者で統括の跡取り娘だった。いつかは人間の生活は終わる。

「酷いわね、本当に破裂寸前だわ。置いては行けなさそうね」
やりー、統括者のママの言葉は絶対だ。これで風鈴の両親は逆らえない。
「パパの言い方も悪かったのかも知れん。ごめんな狼刃」

「パパが悪いわけじゃない。子供を正当に扱わない親が悪いのよ。しかも事故を起こした本人が全然反省してない」

「私、家からでていくの?」
「この家で貴方をまもってくれてたおばあちゃんがいなくなったわ。葬儀は最後まで残るし墓参りも連れていってあげるけど、当座うちにくるといいわ」

「そのこすごいのよ。しゃべれないけど獣人語を理解できるの」
「まさか…でもそうね初音さんが相手してたならあるいはありえるかもしれない」
「ここのおばあちゃんってそんなにすごい人だったの?」

「人間の世界に混じっていくための法則や決まりごとを作ったひとの一人よ」
ほへー。どうりでうちが葬儀に参列するわけだ。

「風鈴ちゃんは一度うちで預かるけど里親を探すことになるわ。人間だから赤ん坊なら人間にたくすのだけれど風鈴ちゃんはもう獣人のことを知ってるから監視役も勤めれる獣人の夫婦を探さなきゃね」

「やだねー監視役とか。まるで風鈴が悪い子みたい」
「でも戒律を破ってる。致し方ない話だろう。俺たちは闇と人に紛れてるんだ」
「そりゃ、そうだけど」

私はうつむく。その戒律とやらを守らせるべき存在としていずれ人間界を捨てて生きていかなきゃなくなる。今の私には重すぎた。だから遊び歩いてるのだが。


「ねえねえ、狼刃。今夜あたり、また繰り出さない?」
「いいなー。行きたいけど今、人の子を預かっててね、いわゆるDVってやつかな。それで保護したんで里親見つかるまでその子を面倒見なきゃなんだ。ごめんね」

「狼刃も大変だぁ。がんばんなよーおねーちゃん。妹か弟欲しい言ってたじゃん」
「末っ子だからね。居ればいたで面倒かな。遊べないもん」
「ぜいたくもん。けり付いたらまた一緒にあそぼーっ」

家に帰って戒律のことを風鈴に話す。その話は細部の話しになってきていた。

「戒律12、人前で獣人語をつかうべからず。風鈴の行為はこれに接触したの」
「わかってる104条丸暗記してる…」
「なら、なんだって…あんな人の多い公園で…遠吠えなんかしたの」

「ばーちゃんがね。昔はもっとおおらかだったって戒律なんてなくても人は獣人を認め獣人は人のために尽くしたって」

「…ひとが人として驕る前はね。獣人も異種族として認められてた時代もある。それは縮小していったけど第二次世界大戦前まではかくまってくれる村もあった。だけど戦争の道具として捕え研究をはじめられはじめてからは駄目

獣人はけもの、獣人は化け物、獣人はそんざいすべきものじゃないとされるようになった。ほかでもなく国があげて言った言葉だからね。今じゃそれも歴史の闇の中で私達はもともと存在しないものとされている。存在しないのならしなくていい。

私達は言葉を捨て、力を捨て、ただひっそりとひとにまぎれて生きる道を選んだ。でも生まれ持った能力は変わらないし、生まれてくる子は狼の姿をしているわ。完全に混じることはできないの。だから戒律がある。

あなたの、親、父親は人間だった。最近増えてきてるけど、それでも人を受け入れるのはとてもおお事なのよ。だから、できるなら庇ってほしかった。人間として人間の良心をみせてほしかった。だけど彼は獣人に選ばれたものとして驕ったわ。

人間の悪い所よ。だから同種争いも耐えない。もっとも獣人も力の世界。何かあれば争って決める。強いものがリーダーとなり、獣人の先頭に立ち他のものは従うわ。例外は治癒能力者。蘇生こそできないものの傷を癒す力は神秘とされ最高権力、統括者の地位につく。リーダーの上ね。だから思うよりおおきな争いは起きないの。

統括者はメスだからね。喧嘩ははしない。協力して狩りをすることはあってもね」
風鈴がとても不思議な顔をする。
「どうして?そんなに詳しいの」

私は苦笑して言った。
「ここがその統括者の直系だからよ。ママが統括者、私は継承者」
「じゃあ、ばーちゃんより偉いんだぁ。凄いや。風鈴は幸せものだ」

「どうして?」
「凄い人ばかりに助けられてる」
「確かにね。ママの人選に間違いはないと思うけど、何か問題があればすぐに相談に来るのよ?」
「うん。ありがとう」

風鈴は一週間ほどで里親の元にもらわれて行った。
「幸せになれるかな」
「私の人選を疑うの?」

「そうじゃないけど人間じゃない。きっと人間とは結ばれない。ハーフを育てるのは大変でしょう?それ以上に人間が獣人を愛するのは大変だわ」
「人間と結ばれるかもよ?」

「それはないと思う。あの子には獣の習性が染み付いている。まるでアマラとカマラみたいに…」
「…ようするに純潔の人間に馴染むには努力が居るわけね」
「何より生涯にわたり私たちの事を黙秘する能力にかけてると思う」

ママが難しい顔をする。
「なるほどね。黙秘させるよりは取り込んだほうがこっちとしては楽か。そしてあの子は苦労せずにはいられないと」
「うん」

ママが私を見る。ぽんぽん。頭を軽くなでられるように叩かれた。
「成績は下がってもいいけど自分は大事にしなさい。いずれその日が来たとしても
その時人間として生きている今の生活全てが消えうせるわけじゃないのよ」

「でも、人間を愛するわけには行かないし、就職もバイトも辞めなきゃいけないし、
私と結婚する相手はリーダーの気質を持ってる人じゃなきゃならない。あんなに大人しそうなパパだって喧嘩じゃ誰にも負けない」

「……人間に好きな子がいるの?」
私は母を見て肩をすぼめた。
「最初からそーゆ芽は摘み取ってる。私には縁のない人として…友達も誰一人としていなくなくちゃ困る相手は作ってないわ。遊び相手に都合がいいのを選んでる」

「狼刃…」
「宿命でしょう?」
「私はそこまで達観できなかったけど恋は大丈夫よ。私達の本能が自然と嗅ぎ分けるわ。むしろ統括者に生まれて数少ない良かったことよ」

「本能がオスを嗅ぎ分けるかぁ。じゃあ、何故ハーフは生まれる?」
「それは…」
「ママは嘘をつくのが下手だね。獣人だって亜種だよ。本能以上の関係が作れる」

「そうね、ごめんね。人生押し付けちゃってるよね」
「…仕方ないよ。私はこの家に生まれたこと後悔はしたことないしさ」
苦しんだこともあるし、今も素直には生きられないけど…うん。後悔はしてない。


そしてそいつとの出会いは突然やってきた。風鈴が走ってくる。
「お姉ちゃん。助けて」
男が走ってくる。獣人の力を使えばすぐに追いつけたろうに人間だと思い手加減しているのだろう。風鈴の体には無数の引っ掻き傷があったがどれも浅い。

とにかく風鈴をかばい唸り声をあげる。男は両手を上げて
「そいつの兄だ。戒律破ったお仕置きをしなきゃならない返してもらおうか」

「風鈴、今度は何したの。あなたは人間だからいい。でも獣人の存在がばれたら私達は間違いなく狩られて抹消されるか研究所送りなの。庇ってあげられるのは最初のうちだけよ。繰り返せば一族のリンチがまってる。女の子は悲惨よ?」

「昔人は人じゃないものと上手に生きていた。って作文をかいただけ」
私は振り向いて風鈴と視線を合わせた。
「あのね、誰も信じないうちはお兄ちゃんのお仕置きで済む。私も見なかったことに出来る。でもね、一人でもその人間が悪意をもって獣人を探し出したら

私達はその人間を殺しその人間にそのことをおしえた人物をとらえ監禁最悪は殺さなきゃならない。その命令をくだすのは私よ?そして殺すのは家族。わかる?私達がかばってる間に風鈴は獣人のことを知られないようにする習慣をみにつけてもらわなきゃならないの。お兄ちゃんのお仕置きですむあいだによ?」

「ごめん…気をつける」
「言葉なぞ意味なさねぇ。よこせ。もっとひっかいてやる。しばらくは監禁だ」
「気をつけるって言ってるじゃない。それで充分よ。すでに引っ掻きすぎだわ」
「女はだから甘いんだよ。まだなまぬるい。返せじゃなきゃ力づくになる」
「やってみなさいよ。力づくで。泣きをみるのはあんたよ」

私と男は臨戦態勢に入った。蹴りをしかける難なく避けながら引っ掻いてくる服が破けブラが露出する。こいつマジで獣人相手には手加減する気なさそうだ。ならば本気を出す。飛び掛るのと同時に獣型に変化する狼は思うより大きい服ははちきれて破れてしまう。帰るときはこの姿のまま帰るしかないだろう。

肩に噛み付こうとすると力いっぱい投げられ壁に衝突する。衝撃は最低限、受身はとれた。向こうも獣型に変化した。引っ掻きあい取っ組み合い噛み付き合う。こいつ強い。私は兄二人よりも強い。負けたのは父にぐらいだけだ。だけど…

風鈴が泣き叫んで止めてと言っている。だけど一度戦い出したら決着がつくまで止められない。動けなくなるか首をとるかまでだ。戦っていると風鈴が割って入ってくる。くっ、私は体当たりで風鈴を転がした。当然、相手は見逃さない。

だが、こちらも承知。そのまま風鈴と一緒に転がり後ろ足のばねで一気に相手に詰め寄る。背中に噛みつき打撃を与える。だが大きさが違う力いっぱい振り払われた。
次で決める。相手にとびつき首を狙うが足で巻き込まれ上下が入れ替わる首に歯を立てたのは男の方だった。観念して目をつぶる。

だが食い込んだ歯は食いちぎりはしなかった歯は抜け人型になって座り込む。
「さっき命令するのは私だと言ったな、未来の統括者をこんなことで殺すわけにもいかないだろう。人型に戻れよ」

私は狼の姿のまま地面に伏せた。人型になれは素っ裸だ…相手もだが…
「負けたんだ。肌ぐらいみせろって言ってるんだよ。交尾されてえのか」
なるほど、オスとしてメスの姿を品定めさせろと言われてるのか。私は人型になった。両腕で肝心な場所は隠す。

「恥じらいがあるか。経験はないな。つきあえ、拒否権はやんないぞ」
「一応、直系なんだけど…」
「喧嘩で負けてるんだ。そんなの意味なさねぇ。襲ってもいいって言ってるんだ」

そう、それが獣人の世界だ。負ければそのまま押さえ込み交尾されても文句は言えない。人に戻りつきあえといってるだけ猶予は与えられてる方だ。気を失った風鈴が目を覚まし私に近寄ってくる。幸い今までの会話は聞かれてないはずだ。

「風鈴、お兄ちゃんと帰りなさい。もう私たちの事をひきあいに出しちゃだめよ」
「はーい」
「明日の三時半、公園のモニュメントにろ。さっそく味見だ」
「わかったわよ。でも時間は四時」


続きます
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