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2017年06月24日22:35

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札幌交響楽団第600回定期演奏会

【プログラム】
 W.A.モーツァルト
1 交響曲第39番 変ホ長調 K.543
2 交響曲第40番 ト短調 K.550
       〜〜〜 休 憩 〜〜〜
3 交響曲第41番 ハ長調 K.551「ジュピター」

札幌交響楽団(管弦楽)
マックス・ポンマー(指揮)

(ロビー・コンサート)
1 Daryl Brunswick: “Suite and low”より
2 Strauss in the Doghouse
3 American Bases
  吉田聖也,飯田啓典,斎藤正樹,大澤敬(コントラバス)

2017年6月9日(火),19:00開演,札幌コンサートホール

第600回目を迎える定期演奏会の記念コンサートのプログラムが,すべてモーツァルトの後期交響曲だとわかったときは結構拍子抜けした。まるで名曲コンサートの演奏曲目のようだと思ったものだ。音楽監督の意向,楽団の財政事情,曲目の集客力など,さまざまな要素を考慮せざるを得なかったことは十分に理解できる。そして,守りに入らざるを得ないこのオーケストラの現状が,この記念演奏会に凝縮されていたのも事実だろう。

演奏の水準は十分に高かった。ポンマーの指揮は,ひと昔前に流行ったスタイルで,ドイツ正統派の流れをくむ重厚でロマンチックな表現である。札響の演奏も精度が高く,指揮者の要求にピタリと合わせる柔軟性を存分に発揮していた。モーツァルトの後期三大交響曲の演奏としては,かつてのドイツ・ロマン派風の典型であり,完成度も相当高い。

3曲の中で最も印象に残ったのは第40番のシンフォニー。パセティックに傾斜し過ぎず,かといってザッハリヒな方向に振れてしまうこともない。何気なさとロマンチシズムとが絶妙のバランスを保った,このタイプの演奏としては極上の表現で,ポンマーの底力が遺憾なく発揮された第40番ト短調である。

こうした方向性は,第39番と第41番ではやや裏目に出た感がある。第39番はわずかに弛緩気味で喜遊感に乏しい。オーボエ抜きの版を使ったためもあるだろうか。第41番もスケールの大きさと清澄さが不足していたようだ。斬新さや深く掘り下げた表現を期待すると失望する。

とはいえ,第600回の記念演奏会にふさわしい雰囲気が会場にみなぎっていたのも事実。楽団員はこの日のために誂えた一張羅に身を包み,いつも以上に心を込めた演奏を心がけていたことは客席まで伝わってくる。ポンマーも細心の注意を払う渾身の演奏だった。特別な飾り付けがあるわけではないが,どことなく祝い事にふさわしい華やかな雰囲気に満たされていたことは間違いない。

ここ何年間かで,札響は上手くなった。とりわけ,この4月以降,飛躍的に伸びたような気がする。弦も管も演奏の精度が上がり,柔軟性も増している。どの指揮者と共演してもピタッと合わせることができるし,どのような曲目でもそつなくこなす力量を備えている。

ひとつには,活動の拠点を音楽専用ホールに移した効果が出ているのだろう。もうひとつは,若いメンバーが徐々に増えつつあることがさいわいしているのだろう。海外での経験がある若手の団員が,この間の演奏水準の向上をを後押ししている面は間違いない。なによりも,ベテランも含めメンバー全員の演奏に対する真摯な姿勢の賜物だろう。

こうして,めでたく節目となる第600回の定期演奏会を終えたわけだが,前途洋々というわけではなさそうだ。団員の新陳代謝に伴い演奏のレベルがアップしていくとしても,肝心の聴衆を確保できるか不透明な情勢が強まる公算が強い。定期演奏会の会場を見渡しても,来場者の高齢化が著しい。この傾向が続くと,ようやく定着したかに見えた定期演奏会の2公演制を維持できる見込みは薄い。10年も経つと様相は一変し,1公演制に戻っているのでは。

正攻法でこの困難を乗り越えるのが最も確実だと思う。話を分かり易くするために思い切って単純化すると,曲目の知名度や人気度にかかわらず,傑作中の傑作をプログラムの柱に据え,オーケストラと指揮者が全身全霊で取り組む以外に,この壁を突破する方法はなさそうだ。傑作中の傑作や真剣勝負の演奏が持つ音楽的エネルギーで聴衆を圧倒し,それを新しい支持者の獲得に繋げるという当たり前のことを地道に積み上げるアプローチである。いまの札響の技量をもってすれば,それは不可能ではないだろう。要は信念と情熱を持って真剣に取り組むことができるかだ。

次の段階としては,こうした意欲的かつ野心的な取り組みに全面的に賛同し,オーケストラを率いてくれる指揮者を音楽監督に迎えることができるかに成否がかかっている。こうした変革には抵抗勢力はつきもので,それを打ち破るには強力なリーダーシップが欠かせない。

事はそれほど単純に運ばないことは明白だが,これを一つの参照基準にして,札響の活動がどう変化してゆくのか注視してゆくことにする。
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