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2017年06月17日14:53

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タリス・スコラーズ

【プログラム】
1 タリス: ミサ曲 おさな子われらに生まれ
2 バード: アヴェ・ヴェルム・コルプス
     義人の魂は
     聖所にて至高なる主を賛美もて祝え
       〜〜〜 休 憩 〜〜〜
3 アレグリ: ミゼレーレ
4 モンテヴェルディ: 無伴奏による4声のミサ
5 パレストリーナ: しもべらよ,主をたたえよ

(アンコール)
 モンテヴェルディ: 主に向かいて新しき歌を歌え
 トレンテス: ヌンク・ディミッティス

タリス・スコラーズ(合唱)
ピーター・フィリップス(指揮)

2017年6月6日(火),19:00開演,札幌コンサートホール


この演奏会には「エリザベス1世時代の英国国教会音楽の黄金時代とモンテヴェルディ生誕450年記念」という長い副題が付いている。そのタイトルのとおりプログラムは,前半がイギリス・ルネサンス期のポリフォニー音楽,後半がイタリアのルネサンスからバロックへかけての音楽で構成される。

いずれもカトリックの宗教音楽である。このコンサートを聴いて,”tranquil”という単語を思い出した。これは「静かな,穏やかな」という意味の言葉だが,おそらく無時間的な静謐さ,他の空間から隔絶した静音さというようなことを指し示しているのだろう。これらの作品が書かれた当時のカトリック教会の精神の一側面を言い表す言葉としてふさわしいのではないか。そして,”tranquil”が”dramatic”に変容してく過程もう含まれる。つまり,ルネサンスの終わりからバロックの始めにかけての音楽の移り変わりも描かれる。

コンサート前半のタリスとバードの曲では,多声音楽の旋律の絡まりが美しい。英国らしい気品と洗練がそこはなとなく漂うさまは,イギリスのアンサンブルならでは。タリス・スコラーズの音楽的なアイデンティテーが,自然に滲み出たのだろう。

タリスの「ミサ曲 おさな子われらに生まれ」は30分弱の曲で,イングランドの伝統に従いキリエ,グローリア,アニュス・デイ,クレドの4楽章構成。正直なところ,16世紀の中頃にこれほど洗練された美しい曲が,イギリスで書かれていたとは思いもよらなかった。タリス・スコラーズの活動を深いところで支えているのもこうした伝統なのだろう。バードの3曲も,傾向としては同じといえる。

演奏会前に若干予習はしたのだが,準備不足がたたって美しく洗練されたポリフォニーとしか言いようがない。もちろん,イギリス風の落ち着きも感じられる。これらの作品には英国人が大切にしているものがあることは間違いないだろう。その価値には古今東西を通じた普遍性があるように思う。

演奏会後半はイタリア初期バロックから後期ルネサンスへと時代を遡る曲順。どの作品も調和よりも表現に軸足を移す過程にある音楽といえそうだ。まだ静謐さを残しながらも,表現への意欲が次第に濃厚になりつつあることをうかがわせる。ポリフォニーからコンチェルタンテへという様式の変遷でもある。

このプログラムの中で一番有名なアレグリの「ミゼレーレ」は,メンバー10人のうち5人をステージ残し,1人をステージの向こう側のオルガンの前に,残り4人をホール後方の客席に配置。このようなメンバー配置により,この作品が持つ応答を効果的に表現していた。それにも増して,メンバーを分散したにもかかわらず,広いホールであるにもかかわらず声が拡散してしまうこともなく十分な声量で歌い,離れていながらも精緻なアンサンブルが保たれていたことには舌を巻く。イタリア初期バロックの精神と様式が明瞭になった音楽である。

「聖母マリア夕べの祈り」と並び称される「宗教的・倫理的な森」の中の一曲「無伴奏による4声のミサ」は,まさに傑作の名にふさわしい作品。確かにポリフォニー様式で作曲されているのだが,バロック的な精神に満ちた曲のような気がする。ルネサンスとバロック,ポリフォニー様式とコンチェルタント様式のいい面が調和しているのではないか。この曲を聴いていると,イギリス・ルネサンスの静謐さから,もう一歩だけ無意識の深みに降りてゆくような気分になる。それはモンテヴェルディの音楽の特徴に他ならない。

パレストリーナはルネサンス後期に活躍した教会音楽の巨匠であるが,作曲様式はルネサンスであってもその精神はバロックにかなり近いものがありそうだ。「モテット集第2巻」に収められた「しもべらよ,主をたたえよ」は,イタリアの作曲家らしい明るく力強い曲調。この時代の教会の礼拝を彷彿とさせる壮麗な音楽である。

この演奏会から受けた感銘は,タリス・スコラーズの技巧を極めた歌唱の賜物であることはいうまでもないが,彼らの演奏がカトリックの精神を高度に洗練された芸術として体現していたという点も見逃してはならない。
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