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2017年06月11日18:24

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モンテヴェルディ生誕450年記念特別公演《聖母マリア夕べの祈り》

【プログラム】
モンテヴェルディ: 聖母マリア夕べの祈り

コンチェルト・イタリアーノ(合唱・管弦楽)
リナルド・アレッサンドリーニ(指揮)

2017年6月3日(土),16:00開演,神奈川県立音楽堂


これまで接する機会に恵まれなかった「聖母マリア夕べの祈り」を聴いてきた。モンテヴェルディ・イヤーの恩恵だろう。この作品の別な側面に気付く貴重な経験となった。

アレッサンドリーニ指揮のコンチェルト・イタリアーノによる「ヴェスプロ」(「聖母マリア夕べの祈り」)は,イタリアでの日常的かつ伝統的な演奏の実践を彷彿とさせる演奏だった。芸術的に洗練され尽くした演奏とは一線を画す,どちらかというと普段着の「ヴェスプロ」である。骨太で逞しく,土の香りというか古い教会の内部の匂いが濃厚に立ち込めるような印象を受けた。もちろん,イタリアへ旅したこともなければ,ましてやイタリアの教会で「ヴェスプロ」を聴いたことなどないので,あくまでも想像上の話なのだが。

この日の演奏会場も,こうした印象を持ったことと無関係ではなさそうだ。昭和29年に完成した神奈川県立音楽堂は国内初の音楽専用ホールで,音響効果をあげるため内部の壁面は木で仕上げられている。ホールはメインテナンスがよく行き届いいて,経年変化した木製の壁面に囲まれた空間では,しっとりとした落ち着いた響きがする。多少古びたもののモダンな造りの建物全体は,戦後の再出発の意気込みを示す息吹をとどめているようでもある。世俗的な空間であるには違いないが,コンチェルト・イタリアーノによる骨太な「ヴェスプロ」を一層強める会場といえる。

コンチェルト・イタリアーノは総勢25人前後からなるアンサンブルであるが,このホールの響きとも相まって力強いサウンドが特徴。隅々まで神経を行き渡らせた繊細な響きよりも勢いを重視した演奏スタイルで,抜群の安定感を誇る。「ヴェスプロ」の特色でもあるが,器楽よりも声楽が優位に立つ。イタリア語を母国語とする歌手たちによる,合唱,重唱そして独唱のどれを取っても,正確きわまりない音程,清澄な声質,変幻自在な歌唱技術が冴え渡る。イタリアの伝統を感じさせる歌いぶりである。器楽は控えめであるものの,落ち着いたまろやかな響きで,勢いを大事にした演奏だ。

清澄だが骨太な響き,演奏の勢いを重視する姿勢などは,指揮者のリナルド・アレッサンドリーニのスタイルをストレートに反映したものだろう。これはマリオ・ブルネロなどイタリアにおける古楽演奏の典型のひとつといえる。

実のところ「ヴェスプロ」は繊細かつ精緻きわまりない作品だと考えていたのだが,必ずしも想像どおりの演奏ではなかった。だが,その昔,イタリアの教会で鳴り響いていたかもしれない力強い一面を持つ「ヴェスプロ」を耳にすることができた。ぶどう畑で働く農家の人たちと飾らない会話を交わしたような気分になった。
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