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2017年06月10日12:15

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たいら母の一族の話 その5

exclamation暴力表現あり注意exclamation

たいら母 潔子は生まれた時から祖母に放置されていたが、
当初は決して嫌われていたわけではなかったと思う。
でもある時から、祖母の心に潔子に対する嫌悪感が芽生え始めた。
たぶん前述のお祭りの次の日のことだ。


就業規則を破って夜中にお祭りで逢い引きしていたことは決して言わないように、
と子守役のお手伝いさんは潔子に口止めしていた。
だから潔子はお祭りに行ったとは決して言わなかったが、
見慣れぬ赤いセルロイドの鳥笛を目ざとく見つけた須磨子が祖母に告げ口し、
「誰に買って貰ったの?」と詰問された時、
ついうっかり「お梅ちゃんのお友だちのお兄ちゃん!」と言ってしまった。

お梅ちゃんとは潔子の子守役のお手伝いさん名前。
温子にはお松、須磨子にはお竹というお手伝いさんが付いていた。
姉妹揃って松竹梅とは偶然にしてもうまく揃っていると思われるかも知れないが、
これは入れ替わりの激しい使用人の名前を覚えるのが面倒くさい祖母が、
勝手に付けた名前で本名ではない。
ちなみに祖母付きで家政全てを取り仕切る女性使用人のトップは代々「タマエ」だった。
これは初めて結婚した際に、裏口から祖母を逃がしてくれたお手伝いさんの名前で、
初代タマエのように祖母に忠義を尽くすようにという命名だった。

瞬時に事情を察した祖母はお梅ちゃんを呼び出し、
「この売女!」と怒鳴りつけ、顔面を思いっきり殴った。
驚いた潔子は殴られた拍子に廊下に倒れ込んでしまったお梅ちゃんを庇いながら、
「叩かないで」と祖母に懇願した。

 「お梅が悪いんだよ」

 「でも、叩かなくてもいいじゃない」

怒気を含んだ声にひるまず潔子は言い返した。
すると、普段は丸みを帯びている祖母の瞳が学齢前の潔子にも分かるほど釣り上がり、
顔色が真っ赤になったと思った瞬間、
お梅ちゃんもろとも廊下から庭へと蹴り落とされてしまった。


これはまたわたしの推測なのだが、
実子が4人もいても祖母はこの日まで子どもに口答えされたことがないのではと思う。
第一子は喃語に毛がはえたくらいしか喋れないうちに夭折した天使ちゃん。
第二子の温子は祖母の言うことはなんでも聞く優等生のお姉ちゃん。
第三子の須磨子はわがままは言うけれど母親べったりで反抗はしないお母さん子。
それなのに第四子の潔子は……。

 「子どもの口出しすることじゃない。潔子は部屋に連れてきなさい」

と祖母が命を下すと同時にタマエがさっと縁台から飛び降りて、
庭に倒れ落ちていた潔子を横抱きにして自室に連れて行った。


未だおやつの時間が過ぎたばかりなのに強制的にタマエに寝間着に着替えさせられ、
夕食抜きで寝床に押し込まれた潔子は、
空腹と戦いながらなぜ自分が蹴られたのか考えたがよく分からなかった。
しかし、自分の発言から問題が生じたことは理解できたので、
明日の朝、着替えを持ってくるお梅ちゃんに謝ろうと思ったが、
翌朝、着替えさせてくれたのはタマエで、
家中探し回ってもお梅ちゃんの姿はなかった。

そして、しばらくすると二代目のお梅ちゃんがやって来た。
しかし、今度のお梅ちゃんはまじめこのうえないうえに融通が利かず、
何かというと「奥様に言いつけますよ」と潔子を牽制した。
よそのお兄ちゃんとお祭りに行くのを「逢い引き」と言うのだと教えてくれ、
自身が愛用していた美顔水をこっそりお風呂上がりの潔子にもぬってくれた、
仇っぽい美人の初代お梅ちゃんに潔子が会えることはもう二度となかった。
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