千本の桜の樹の中の
一本の樹の
ひとつの幹の
ひとつの枝の
ひとつの花房の中の
ひとつの花が咲いた
みんなの注目の的
でもそのひとつぶの花は
ひとつぶだけでは
桜ではないということを知っている
(大島弓子 『すばらしき昼食』より)
桜がみごとであればあるほど、あの311の大震災があった年、
2011年の、井の頭公園の桜を思い出してしまう。
美しい桜、たくさんのたくさんの死、散りゆく花びら、重なる津波の映像と叫び声。
きれいなものを見ているのに、心のぜんぶにとげが刺さったように、ただ痛かった。
「満開を 棺とともに散りしより さくらはかなしき花となりけり」
69歳でこの世を去った母の葬儀は満開の桜の下で行われた。
この歌を詠んで母をしのんだ父ももういない。
近所にある、桜の大木を抱えた家。夜は街頭に照らされてひときわ綺麗。
その下で桜の花びらにまみれている車も、この季節はなんだか誇らしげに見える。
一年に一度の粋なお化粧。
何があっても、毎年春になれば咲いてくれる桜の花。
その花の上に、平和で穏やかな思い出だけが降り積もっていきますように。
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