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2017年03月10日00:29

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この世界の片隅に

 遅ればせながら、本日見てきました。おそらく、私のささやかなマイミクの中では一番遅かったのではないかと思います。

 じつは、以前から疑問に思っていたことがあります。

 私は昭和37年生まれですので、もろに「戦争を知らない子供たち」の一人ですが、両親(父:終戦時10歳、母:終戦時14歳)は、戦中戦後に青春を過ごしてきた人たちです。
 両親ともに、決して戦争に賛成するものではありませんが、戦時中の暮らしが黒歴史である、という言い方もしてきませんでした。
 たとえば、父は、終戦の時は、松本市に疎開していたのですが、疎開生活は「ひもじかったけど、楽しかった。」と、今でも懐かしんでいます。食料の心配がなければ、もう一度あの疎開生活もいいな、とまで言っています。
 母は、終戦当時、機械工場で勤労奉仕をしていたそうですが、作業中に米軍機の機銃掃射を受けたことがあって、バリバリバリって音とともに工場の天井を突き破って弾が飛んできて、母のすぐ隣で作業していた女子生徒が死んだことがあったそうです。また、家のすぐ裏にあった別の工場に夜に爆弾が落ちて、工場が全壊したことがあったそうですが、翌朝工場に面した家の窓に大人の男の人のものであると思われる人の手首が引っかかっていたこともあったそうです。しかし、母はそれらのことを非常に淡々と話してくれます。なぜなら、母たちにとってそれが日常だったから、ふつうのことだったから、だったようです。むしろ、終戦後に、県内でも有数の機械工場の経営者だった祖父が、戦争協力者として共産主義者たちにつるし上げられて、挙げ句の果てに赤旗を持った集団に家を取り囲まれて数日家から出られなかったことの方がよほど母には堪えたらしく、いまだに赤旗には恐怖と憎悪の視線を向けます。
 祖父母たち、父母やその世代の親戚たちから、戦争中はひもじかった、という話は聞きますが、天皇陛下や、軍人たち、憲兵たちに関しては、恐れ多いとか、恐かったとかは言いますが、憎しみの言葉を聞いたことがありません。彼らにとって、戦争は日常だったようです。
 ところが、私が中学に入ってからは、学校や新聞や本やテレビから耳に入るのは、戦争や、戦時下の生活に対する激しい憎悪ばかりでした。いまでもテレビなどでは、戦時下の日本はまるで生き地獄のようだったかのような表現をする方が見られます。
 どちらが本当だったのでしょうか。

 もちろん、沖縄とはじめとする戦地では非常に悲惨な状況になったことを私は否定しません。水木しげる氏の兵隊日記はおそらく本当でしょう。
 しかし、直接的な戦闘がなかった本土でも、世間で声の大きい人たちが言うほどひどい状態だったのでしょうか。
 私は、父母や親戚たちがそんなことで嘘を言うはずがないと思っていました。では、戦時中でも曲がりなりに生活を維持できた父母たちは特別だったのでしょうか。

 「この世界の片隅に」は、私の長年の疑問に対する回答の一つであったと思います。やっぱり、戦時下でも日本人は、戦争状態に対応しながらたくましく生活していたのです。笑うべきところではちゃんと笑っていたのです。父母たち親戚たちが別に特別ではなかったことがわかった、このことだけでも、私には大きな収穫だったと思います。


 平日の昼間、その日一回だけの上映時間に観覧しました。80%くらいの入り、そして観客の平均年齢が今まで見た映画の中でも屈指の高さでした。

 この映画を作るのにどのくらいの時間をかけられたのかはよくわかりません。しかし、脚本は十分練り上げられていると思われますし、絵のクオリティも十分あったと思います。何よりも、脚本の内容と、画像のタッチと、声優たちの演技・声質のすべてが見事にかみ合っていました。おそらく、どれか一つでもいい加減になると、とても見られないものになったのではないかと思われます。それほどの絶妙のバランスを感じさせるものだったと思います。
 また、スタッフは綿密にリサーチを重ねたものと思われます。私は、呉には行ったことはありませんが、確かに、あんなだったのだろうなと納得しました。

 そして、ほかの映画のように声高ではありませんが、ちゃんと反戦のメッセージが込められています。

 すごい作品です。「納得できる」とか、「腑に落ちる」という表現がぴったりくるリアリティを感じさせるアニメです。日本のアニメは、また一つ到達点に達しました。日本アカデミー賞を受賞するのも当然です。

 DVD化されたら、直ちに購入して、母に見せたいと思います。きっと最後までなつかしながら見てくれると思います。
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