恋多き男と言われたジョン・ウェットン（1949.6.12-2017.1.31)。彼の作った名曲は、10選として選びようがないほど多数にのぼるので、タイトルに女性の名称が冠せられた曲だけを集めて編年体にしてみた。これらもわれわれファンに残された彼の遺産である。
・ 曲 アーティスト アルバム
�� Suzanne / Wetton・Manzanera [ Wetton・Manzanera 1988 ]
スザンヌ。エイジアを経て、ジョン・ウェットンの作曲能力が既に全面開花している時期である。ウェットン39歳。彼の作るメロディーはみな美しいが、この曲も冒頭から典型的な哀愁の深さで魅了する。途中シャウトになって、情感たっぷり。彼がプログレとポップを癒合して発明した「4分間劇場」だ。
�� Kari-Anne / Asia [ Live Mockba 1994 ]
キャリ・アン。エイジアのモスクワ・ライブにボーナス・トラックのようにして挿入されている曲。ハードでアップテンポ。ハードなのにコーラスの膨らみは豊か。「初めて君の顔を見たとき、逃げ出したかった。でもできない。恥知らずな恋。希望のないロマンス。4分間だけのデート。君のあらゆる部分を愛している。出口はない」不適切な関係だと、ますます切なく燃えるのでしょう。タイトでシャープ。みごとなリズムがメロディーの良さと合体している。ウェットン41歳。
�� Jane / John Wetton [ Voice mail 1994 ]
ジェーン。コーラスで始まる明るいアップテンポの曲。ドラムスも駆け回っている。ウェットンはこの時期、アルコール依存症を脱して健康を取り戻し、ソロ3部作を開始。声ものびやかで、絶好調の様子だ。「ヴォイス・メール」は、彼のソロ作品中、最高の傑作であり、彼の快進撃が再開した。ウェットン45歳。
�� Christina / John Wetton [ Akustika-live in Amelika 1996 ]
クリスティーナ。アコースティック・ライブのアルバムに入っているこの曲は、彼の娘に捧げる子守歌だと思われる。「真夜中、僕の腕の中、泣かないで。子守唄を歌ってあげる。約束だ、2人で海を越えて行こう」アコースティック・ギターに乗せて、秘かな優しさで一杯だ。ウェットン47歳。
�� Emma / John Wetton [ Arkangel 1997 ]
エマ。90年代ソロ第2作は、前作の溌剌とした印象とは打って変わって、やや暗く沈んだ曲が多い。アコースティック・ギターを弾きながら歌われるこの曲も、どうしたことか声が珍しく不安定で、吹っ切れていない。感情的に不安定な時期だったのだろうか。「エマ、助けてほしい。膝まづく。僕を信じて。僕を眠らせないで」ウェットン48歳。
�� Arkangel / John Wetton [ Arkangel 1997 ]
同じアルバムからもう1曲。アルカンジェルは、大天使。宗教的な曲かと思ったら、やっぱりラブソングではないかと思われる。「君は僕の天使。君は心臓で右手。君は光。君は勇気。君はエクスタシー」いつになく暗い調子でスローな曲。間奏でチェロ音。暗鬱でゆったりとした展開がラストまで続く。
�� Oh! Carolann / Wetton ・Downes [ Wetton ・ Downes 2002 ]
キャロラン。ジョン・ウェットンとジェフ・ダウンズが、長年にわたって書いて来た未発表曲を集めた作品集。このアルバムの好評が、アイコン3作に繋がり、それが更にはエイジアへのウェットン復帰に繋がっていく。この曲は、「キャリ・アン」の原曲だが、歌詞も違うし、音はキーボード主体で、もっと柔らかな音像だ。「オー！キャロラン」と歌っているが、もしかして本来なら、「オー！キャロライン」だったのかも。
�� Hey Josephine / Wetton ・Downes [ Icon 2005 ]
ジョセフィン。アイコンの第1作から。ドラマチックな曲で、「4分間劇場」である。ジョン・ウェットンらしい雄々しい声だ。低いヴォーカルと続くコーラスの掛け合いで曲が進行する。オルガンと、空間を占めるキーボードと、泣きのギター。曲の変化も豊富で、シンフォニック・ロックらしい構成だ。56歳。
�� Shannon / Wetton ・ Downes [ Icon 2 2006 ]
シャノン。可憐な小曲。アイコンの第2作。「シャノン、ダーリン。君には難しいだろうけど、僕は君を愛し続ける」歌にしたのはこの人だとしても、実際には何人にこの言葉を行ったのだろうか。バックのピアノが印象的。アイコン・シリーズには、3作ともに女性名の曲がある。ウェットン57歳。
�� Anna's kiss / Wetton ・ Downes [ Icon 3 2009 ]
アンナ。2008年にウェットンがエイジアに復帰した後も、ウェットンとダウンズのユニットは、アイコン第3作を出した。エイジアと違って、ユニットでは様々な実験が可能だった。この曲はインストルメンタル。オーケストラをバックにしたピアノ曲だが、クラシック風にならず、映画音楽のようだ。インストルメンタル曲でもウェットンとダウンズが共作しているところが、彼らの絆を感じさせる。ウェットン60歳。
�� Steffi's ring / John Wetton [ Raised in captivity 2011 ]
ステフィ。エイジア、アイコンと並んで、ジョン・ウェットン・バンドも継続しており、来日もした。作曲の創造力とライブで演奏する活動力には、眼を見張るものがあった。この頃の彼は、かなり太っていて動くのは辛そうだったが、活動は精力的。この曲は、アコースティック・ギターと低音ヴォーカルで幕を開け、コーラスが続く。短くシンプルな曲で、地味な味わいだが、彼らしい陰影がある。中盤にフルートが宙を舞う。ウェットン62歳。
�� Valkerie / Asia [ Gravitas 2014 ]
ウェットン最晩年のエイジアの曲。ヴァルキリーは、北欧神話で宮殿に仕える乙女。ワルキューレとも言う。ウェットンは、きれいな声で、円熟を感じさせる。イメージビデオで見ると、心臓手術後、スリムになってかっこ良さを取り戻した。「霧のように木々を抜け、戦場へ。そよ風に生まれ、僕は膝まづく。彼女は僕のためにやって来た」熟成されたワインのように芳香を放つ。隙のない完璧さ。シンプルな分かりやすさ。そして訪れるドラマチシズム。プログレとポップの幸福な融合の完成形だ。ウェットン65歳。
[番外１] Woman / John Wetton [ Caught in the crossfire 1980 ]
初めてのソロ・アルバムを出した1980年のジョン・ウェットンは、既にキング・クリムゾン、ＵＫと歴戦を経た勇士であり、31歳。おおらかで雄大なメロディーは既にウェットンの作風を完成しているものの、ヴォーカルもメロディー・ラインも意外にまだ不安定。この後のエイジアで理想が花開く。「決して別れないと君。ちょっと疑うけど、洗い流す。女よ、分かってほしい。僕にとってどんなに大切か。僕を抱きしめて」潮のように空間を流れるキーボードがプログレの出自を物語る。
[番外2] Heroine / Asia [ Phoenix 2008 ]
エイジアに復帰した2008年のジョン・ウェットン。みずみずしい叙情的な曲は、じっくりしっとりしていて、メロディーのあまりの豊かさに震えが走る。「空が崩れるまで、僕は不死身だと思っていた。地面に叩きつけられ、人生は混乱した。失ったものが見つけられない。君はヒロイン。僕にもう一度生命を与えてくれる。」ウェットン59歳。
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